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プレスリリース

2026年3月6日

神戸女学院大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
株式会社南西環境研究所
福島大学
山形大学

沖縄県やんばる地域で発見されたニホンジカの由来を解明
—遺伝解析で明らかとなる国内外来種の移動経路—

研究概要

沖縄島北部のやんばる地域は、ヤンバルクイナなどの貴重な野生生物が生息しており、2021年にはユネスコ世界自然遺産に登録されています。この地域で、2024年10月21日、オスのシカ類が目撃されました。沖縄島には本来、在来のシカは生息していないため、やんばる地域でのシカの確認は初めてのことで、大きな話題となりました。このため、「人為的に持ち込まれた可能性が高い」との懸念が早くから指摘されていました。そこで、神戸女学院大学、森林総合研究所、南西環境研究所、福島大学、山形大学の共同研究グループは目撃地点付近で採取したシカ類の糞便サンプルからDNAを抽出し、性別と個体の由来を調べました。その結果、やんばるの森で採取された糞は、オスのニホンジカのものであり、宮城県・金華山島のニホンジカ集団と非常に近い遺伝的特徴を持っていたことから、人為的に移動された個体であることが明らかとなりました。今後は個体の逸出に迅速に対応できるだけでなく、逸出自体を防ぐことができる制度など行政の取り組みを整備することが必要です。
本研究の成果が、2026年3月6日に、日本哺乳類学会が発行する国際学術誌『Mammal Study』にてオンライン掲載されましたので、ご報告いたします。

ポイント

  • 2024年10月21日、沖縄島北部のやんばる地域の国頭村で、3尖の角を持つオスのシカ類が目撃されました。
  • やんばる地域のシカ類目撃地点付近で採取されたシカ類の糞からDNAを抽出し、性別とその由来を明らかにする調査を行いました。
  • 遺伝解析の結果、当該サンプルはオスのニホンジカの糞であり、ミトコンドリアDNAの遺伝子型は、宮城県の金華山島に生息するニホンジカ集団と遺伝的に近縁でした。
  • 宮城県金華山島のシカは、1920~1970年代までに各地の動物園へと供給されていました。やんばる地域で確認されたニホンジカは、飼育下で40年以上維持されていた金華山島に由来する個体が逸出したものと考えられます。

研究の内容

もともとその地域にいなかったものの、人間活動によって他の地域から導入された生物を「外来種」と呼びます。外来種の中でも、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かす恐れのある生物を、「侵略的外来種」といいます。日本列島を含む東アジアに広く生息するニホンジカは、世界的には侵略的外来種としてもよく知られています。さらに、近年では、ニホンジカが在来種である日本においても、もともとシカが不在の地域に人為的に持ち込まれる国内外来種注1)の問題が生じています。ニホンジカを始め野生生物は地域ごとに異なる遺伝子を持つため、人為的に持ち込まれた個体の由来を明らかにする際に遺伝解析は有効な手段の一つです。
2024年10月21日、沖縄島のやんばる地域の国頭村で、3尖の角を持つオスのシカ類が目撃されました。沖縄県内では、慶良間諸島にケラマジカが生息していますが、これらは、17世紀ごろに九州島から人為的に導入されたことが、遺伝解析から明らかとなっています (Yamashiro et al. 2015)。そのため沖縄島には、野生のシカ類は本来生息しておらず、人為的に移入された個体、もしくはその子孫であることが疑われました。2024年10月24日に、本研究グループは、目撃地点のすぐ近くでシカ類と思われる糞を採取しました(図1)。このシカが持ち込まれた経緯や背景を検討するために、やんばるの森で採取した糞便サンプルから抽出したDNAを用いて、性別と由来を明らかにする遺伝解析を実施しました。

図1やんばる地域で確認されたシカ糞の写真
図1. 沖縄県国頭村佐手、県道2号線、奥与那林道交差点付近の林内で採取されたニホンジカの糞(撮影:中田勝士)

遺伝解析の結果、採取した糞はオスのニホンジカのものであることが判明しました。また、ミトコンドリアDNA注2)の系統解析では、日本列島北部の宮城県金華山島に生息するニホンジカ集団と非常に近いタイプのミトコンドリアDNA配列を持つことが確認されました(図2)。金華山島からは1920年代から1970年代にかけて、ニホンジカが捕獲され、全国の神社や動物園へ移送されていたことが明らかとなっています(水谷・平 2024)。これらのことから、金華山島の系統は少なくとも40年間、途切れることなく日本各地の飼育施設で維持されてきたと考えられます。この長い期間を経て、金華山系統の個体1頭以上が人為的に沖縄島に持ち込まれ、その後逃亡または人為的に放たれたと考えられます。こうしたニホンジカの国内外来種問題に対処するには、個体の逸出に迅速に対応でき、そしてなによりも逸出自体を防ぐことができる制度の確立など行政の取り組みが必要です。

成果の意義

本研究により、沖縄島やんばる地域で目撃されたシカ類が、オスのニホンジカであり、人為的に導入された個体であることが明らかとなりました。沖縄島のやんばる地域は、国立公園かつユネスコ世界自然遺産に登録されるほどの豊かな自然が残された地域です。しかしながらマングースやノイヌによる希少種の捕食など、様々な危機にさらされています。今回新たな外来種としてニホンジカが確認されたことは非常に残念な事態であり、また今後も同様の事例が起きる可能性は否定できません。今後、関係者・関係機関が連携し、早急に対策を講じることが必要です。
本研究では、目撃されたニホンジカの由来に着目した遺伝解析を実施しましたが、現在継続している調査では、糞中に含まれる植物のDNAの調査を進め、ニホンジカによるやんばるの森への影響評価を進めています。これらの基礎的な学術成果を基に、ニホンジカの国内外来種問題の効果的な対策や規制の強化につながることを期待しています。
さらに、本研究は、地域固有の生態系を守る上で、ニホンジカの安易な移送や飼育をしないことの重要性を示す成果でもあります。ニホンジカが国内外来種となることを防ぐためには、野生個体・飼育個体を問わず、不必要な移動や持ち込みを行うべきではありません。

図2分子系統樹
図2. ニホンジカのミトコンドリアDNAコントロール領域の分子系統樹。スケールバー(0.01と書かれた横棒)は遺伝距離(短いほど遺伝的に近く、長いほど遺伝的に遠い)を表し、ブートストラップ値が50%以上の分岐点にはその数値を示し、数値が大きいほどその枝が統計的に確からしいことを示している(作成、高木俊人)。

著者のコメント

ニホンジカの国内外来種の問題は沖縄島だけでなく、全国各地で発生しています。今回はニホンジカが元々生息していない地域だったため、早期に発見・調査を行うことができました。今後は全国で同様の事例がないか地域を広げて網羅的な調査を展開していきます。(神戸女学院大学 高木俊人)

外来生物法の枠外に置かれている「国内外来種」の問題は、ニホンジカに限らず多様な生物種に波及しています。こうした課題に的確に対応するためには、動物の飼養規定の厳格化をはじめとする制度面でのさらなる整備が不可欠だと言えるでしょう。(森林総合研究所 永田純子)

世界自然遺産であるやんばる地域でシカ類が確認されたと聞いた時は大変驚きました。本研究により種と由来が明らかとなりましたが、発生源と個体の行方は不明なままです。今後も積極的に情報を収集していきたいと思います。また、再発させないために飼育管理の厳格化などの対策が講じられることを期待しています。(南西環境研究所 中田勝士)

金華山島の系統が少なくとも40年以上も飼育下で維持されていたことに驚きました。飼育施設や団体においては、ニホンジカの複雑な種内の系統のどれを飼育しているのか、ということ知ったうえで、系統保存の重要性や逸出時のリスク等を総合的に勘案したうえでの管理と飼育が必要です。(福島大学 兼子伸吾)

世界自然遺産のやんばる地域に突然シカが現れたことは極めて重大な問題であり、またその対処をどうするか多くの課題が浮き彫りになったと思います。今回の事例を教訓に、世界自然遺産の保全管理制度の見直しと改善を図っていくべきでしょう。(森林総合研究所 亘 悠哉)

論文情報

タイトル:A non-native sika deer found in the Yambaru region of Okinawa-jima Island, southern Japan, exhibits a genotype originating from northern lineage(沖縄島やんばる地域で発見された外来ニホンジカは、北日本の系統に由来する遺伝子型を示した)

著者:高木俊人、永田純子、中田勝士、兼子伸吾、玉手英利、亘悠哉

著者の所属:高木俊人(神戸女学院大学 生命環境学部 専任講師)、永田純子(森林総合研究所 野生動物研究領域 領域長)、中田勝士(株式会社 南西環境研究所)、兼子伸吾(福島大学 共生システム理工学類 教授)、玉手英利(元 山形大学 学術研究院(理学部主担当)教授)、亘 悠哉(森林総合研究所 野生動物研究領域 島嶼生態系保全チーム長)

掲載誌:Mammal Study (日本哺乳類学会の発行する英文誌)

公開日:2026年3月6日 WEB公開

DOI: https://doi.org/10.3106/ms2025-0044(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで外部サイトへリンク

研究費:科学研究費助成 若手研究(25K18255)

報道機関関係者の方々へのお願い

本研究に興味を持っていただきありがとうございます。図1、2の画像については作成者を示して頂ければ、報道等に利用して頂いて問題ありません(CCBY4.0)。また、CCBY4.0として使用いただける画像等は以下の共有フォルダからダウンロード可能です。
https://kobec-my.sharepoint.com/:f:/g/personal/takagi_mail_kobe-c_ac_jp/IgBeEFJmyL2qT78XSm_ah9pAASHJxZbZSSuo0NYtIBGqstY?e=xah98M(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで開きます
本研究成果を取り上げる際には、読者や聞き手が研究の詳細を知り、結果の背景を正確に理解することのできるよう原典の論文を引用していただきますようお願い致します。特にウェブサイト版での記事やSNS(XやBlueSky、YouTube等)の情報発信の際には、上述の論文へのリンク(DOI)を付けていただくようお願いいたします。また、このお願いにつきましては2023年2月9日に生物科学学会連合から提出されました「研究成果をメディアへ報道する際のお願い(https://www.esj.ne.jp/esj/message/08miyashita/no0804_seikaren.pdf)」も併せてご覧いただければ幸いです。

用語解説

(注1)国内外来種
外来種とは、人為的に自然分布の範囲外へ導入された生物のことを指します。このうち国内に分布する野生生物が、国内の在来分布域外に導入された場合、国内外来種と呼ばれます。(元に戻る

(注2)ミトコンドリアDNA
細胞内に多数存在する細胞内小器官、ミトコンドリアに存在するDNAのことで、母親のみから子に遺伝します(母性遺伝)。ミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく系統やその分布パターンの解析は、過去から現在における雌の系統を把握する目的で行われます。(元に戻る

関連研究情報

Yamashiro, A., Endo, A., Kuwataka, H., Matsumoto, Y., & Yamashiro, T. (2015). Geographic origin and genetic structure of introduced sika deer, Kerama deer (Cervus nippon keramae) on Ryukyus inferred from mitochondrial DNA sequences. Mammal Study, 40(3), 187-192.
https://doi.org/10.3106/041.040.0306(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで外部サイトへリンク

Kobayashi, S., Asato, H., Nakata, K., Nagata, J. and Watari, Y. Foraging of endangered and endemic plant species by a non-native sika deer found in the northern part of Okinawa-jima Island, Japan: Evidence from fecal DNA metabarcoding analysis. (印刷中)

水谷知生・平侑子. (2024). 近代以降の金華山におけるシカと人との関わりとその観光利用. 奈良県立大学 研究季報, 35(2), 1-37
https://narapu.repo.nii.ac.jp/records/2000156(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで外部サイトへリンク

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 野生動物研究領域 島嶼生態系保全チーム長 亘 悠哉

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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