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プレスリリース

2026年3月11日

国立大学法人東京農工大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
一般財団法人自然環境研究センター

ニホンジカもイノシシも2050年までに全国へ

東京農工大学、森林総合研究所、自然環境研究センターからなる研究グループは、ニホンジカおよびイノシシについて将来の分布予測を行い、自然な分散と人口減少の進行を背景に、2050年までに日本の大部分に分布が拡大する可能性が高いことを明らかにしました。さらに、両種の分布拡大には、気候や土地利用よりも、種が本来持つ移動・分散の特性が大きく関与していることを示しました。これにより、今後の野生動物管理や獣害対策においては、分布拡大を前提とした長期的、広域的な対応が必要であると考えられます。

背景

大型有蹄類は狩猟やジビエ、薬用物質の提供などを通じて人間社会に恩恵をもたらす一方で、個体数や分布の拡大により、生態系の不可逆的な変化、林業・農業への経済的損害、車両との衝突事故、マダニなどの媒介生物による人獣共通感染症の感染拡大といった課題も引き起こしています。 近年、日本に限らず先進国において大型有蹄類の分布域拡大が継続しており、その原因解明が重大な課題となっています。
分布拡大に関わる要因としては、これまでに気候変動、土地利用の変化、狩猟圧などが指摘されてきました。日本においても、1978年から2018年にかけて、ニホンジカでは約2.7倍、イノシシでは約1.9倍に分布域が拡大したことが報告されています。しかし、こうした分布拡大の過程において、種が本来持つ繁殖を伴う定着と世代を超えた移動・分散能力については十分に考慮されてきませんでした。
そこで、本研究では、日本の主要な大型有蹄類であり、人間生活との関わりも大きいニホンジカおよびイノシシを対象に、標高などの物理的環境要因、土地利用や気候要因に加え、繁殖を伴う移動・分散能力が分布拡大にどの程度寄与しているのかを階層モデルにより検証し、さらに構築したモデルを用いて2100年までの分布予測を行いました。

研究体制

本研究は国立大学法人東京農工大学農学部付属野生動物管理教育研究センターの諸澤崇裕講師、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の飯島勇人主任研究員、岡輝樹主任研究員、一般財団法人自然環境研究センターの荒木良太研究主幹、川本朋慶主任研究員、菅野貴久主任研究員との共同研究グループによって実施されました。本研究の一部は、農林水産省委託事業「農林水産分野における気候変動対応のための研究開発」における「野生鳥獣拡大に係る気候変動等の影響評価」(JPJ006258)の支援を受けて行われました。

研究成果

研究グループは、1978年、2003年、2014年のニホンジカとイノシシの分布データを用いて分布拡大モデルを構築し、分布拡大に与える物理的環境、土地利用、気候要因、移動・分散能力を評価しました。その結果、両種の分布拡大においては、移動・分散能力が他の要因と比べて非常に強く寄与していることを明らかにしました。具体的には、すでに分布している地域に近い場所ほど分布が拡大しやすく、距離が離れるにつれて分布が広がりにくくなる傾向を認めました。両種は移動・分散能力が非常に高いことがわかっており、今回の推定結果は両種の移動・分散能力を反映していると考えられます。一方、その他の要因としては、気候要因である積雪日数が分布拡大に寄与しており、今後気候変動が進行することで、現在は積雪日数が多い東北地方北部や日本海側の地域においても、分布拡大が進む可能性が示唆されています。
さらに、このモデルを用いて2050年、2100年の分布予測を行った結果、ニホンジカでは2050年には平野部の都市部などを除く日本全国のほとんどの地域で分布確率が非常に高くなることを明らかにしました。この傾向は2100年にかけてより顕著になると予測されます。

今後の展開

研究グループは、予測されたニホンジカおよびイノシシの将来分布に基づいて、被害が顕在化していない地域においても予防原則に基づいた対策を検討することが可能になると考えます。なお、将来の捕獲圧の変化など政策の変更や、豚熱(CSF:Classical Swine Fever)の流行によって個体数が減少した場合には、実際の分布動態が本研究の予測結果と異なる可能性もあります。


図1:2つの気候変動シナリオに基づくニホンジカの分布確率の予測結果。
左:RCP2.6注1)、右:RCP8.5注2)。(Morosawa et al. 2026, Sci Repを基に作成)


図2:2つの気候変動シナリオに基づくイノシシの分布確率の予測結果。
左:RCP2.6、右:RCP8.5(Morosawa et al. 2026, Sci Rep を基に作成)

用語解説

(注1) RCP2.6
温室効果ガス排出シナリオの一つ。もっとも気温上昇が低い場合のシナリオ(元に戻る

(注2) RCP8.5
温室効果ガス排出シナリオの一つ。もっとも気温上昇が高い場合のシナリオ(元に戻る

論文情報

本研究成果は、Scientific Reports(2月6日付)に掲載されました。

著者:Takahiro Morosawa, Hayato Iijima, Tomonori Kawamoto, Takahisa Kanno, Ryota Araki, Teruki Oka

論文タイトル:Large ungulates will be present in most of Japan by 2050 owing to natural expansion and human population shrinkage

巻号:16, 7550

URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-38177-4(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで外部サイトへリンク

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 多摩森林科学園 主任研究員 岡 輝樹(おか てるき)

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

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