研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > 微生物の力で製紙廃液からプラスチック原料を生産 —世界トップレベルの収率を達成し、脱石油へ一歩前進—
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2026年4月10日
長岡技術科学大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
ポイント
長岡技術科学大学技学研究院物質生物系の政井英司教授・上村直史准教授・藤田雅也助教、東京大学の秋山拓也准教授、森林総合研究所の荒木拓馬主任研究員・鈴木悠造主任研究員・大塚祐一郎チーム長・中村雅哉領域長(研究当時)、東京科学大学の道信剛志教授らの研究グループは、リグニン分解細菌Sphingobium lignivorans SYK-6株の代謝工学に基づく改変により、製紙廃液(黒液)中のリグニン由来芳香族化合物から、生分解性高機能プラスチックの原料となるPDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸)を高効率に生産する微生物変換技術を確立しました。
スギの黒液からは、未同定の化合物も分解するSYK-6株の幅広い能力により135%のPDC生産収率を達成しました(同定済み化合物を基準)。また、シラカバ黒液成分の分解に関わる新規遺伝子desY を発見し、リグニンの微生物分解に関する理解も深まりました。本成果は、石油に依存しない持続可能なバイオプラスチックの製造に道を拓くものです。

研究概要図:製紙廃液(黒液)からSYK-6代謝改変株を用いたプラスチック原料・PDCへの変換プロセス
リグニンは、地球上でセルロースに次いで2番目に豊富な天然高分子資源です。しかし、リグニンは複雑な高分子構造を持つため、これまで材料としてあまり有効活用されてこなかった「眠れる資源」でした。
製紙廃液である黒液には、リグニンが化学処理で分解された雑多な芳香族化合物が含まれます。近年、このような雑多なリグニン由来の芳香族化合物を微生物の代謝能力で1種類の有用な化学品に変換する「バイオロジカルファネリング」というアプローチが注目されています。
本研究では、リグニン分解細菌Sphingobium lignivorans SYK-6株に着目しました。SYK-6株は、約40年前に製紙工場の廃水処理槽から見つかった細菌です。政井教授らのグループにより、リグニン由来の芳香族化合物に対する分解能力が世界で最も詳しく解明されています。特に、他の細菌では分解が難しい芳香族二量体にも対応できる点が強みです。本研究では、SYK-6株の代謝経路を工学的に改変し、リグニン由来芳香族化合物から優れた強度と生分解性を兼ね備えたバイオプラスチックの原料となるPDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸)を生産する改変株を創出しました。
まず、針葉樹(スギ)の黒液を原料にした場合、同定された芳香族化合物10種を全て変換し、同定化合物基準で収率135%のPDCを生産しました。100%を超える収率は、未同定のオリゴマー化合物も変換されたことを示唆し、黒液からのPDC生産においてSYK-6株が高いポテンシャルを持つことが裏付けられました。一方、広葉樹(シラカバ)黒液にはシリンギル型の芳香族化合物が含まれており、これら化合物の代謝経路は分岐するためPDCへの経路集約が課題でした。本研究では、この分岐に関わる新規の代謝遺伝子(desY)を発見し、desY を含む3つの遺伝子を同時に破壊することで経路を集約し、シラカバ黒液から収率62%のPDC生産を達成しました。
世界的に脱石油の機運が高まる中、本研究は実際の樹木資源の処理物である黒液から生分解性プラスチック原料を微生物生産する基盤技術を確立しました。今後は、培養条件の最適化やスケールアップを進め、樹木資源からのプラスチック生産の実用化を目指します。なお、今回開発した技術は、遺伝子組換え等の規制に該当しません。石油に頼らないプラスチック原料の製造技術として、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。
論文タイトル:Platform Potential of Sphingobium lignivorans SYK-6 for Lignin Valorization via Biological Funneling
著者名:上村直史、遠藤美奈、中村万里、秋山拓也、加藤諒、川添充、藤田雅也、荒木拓馬、鈴木悠造、道信剛志、大塚祐一郎、中村雅哉、政井英司
掲載誌:Journal of Agricultural and Food Chemistry
掲載日:2026年3月24日
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.jafc.5c16625
本研究は、農研機構生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(課題番号01014B)、JST COI-NEXT(課題番号JPMJPF2104)、JST CREST(課題番号JPMJCR23L4)、JSPS科研費(課題番号24K01891、25H01196)、JSPS卓越研究大学形成支援プログラム(J-PEAKS)(課題番号JPJS00420240017)の支援により実施されました。
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