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プレスリリース

2026年4月14日

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

女王しかいないアリ、キノムラヤドリムネボソアリ
里山から、世界初の生態を報告

ポイント

  • ”女王しかいない“アリを、世界で初めて報告しました。
  • キノムラヤドリムネボソアリには働きアリがいません。オスアリもいません。女王が女王だけを生産します。
  • では誰が子育てをするのか?キノムラヤドリムネボソアリの女王は別種のアリの巣に寄生します。子育ては、寄生された巣の働きアリが行います。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、在野のアリ学者、レーゲンスブルグ大学の研究グループは、キノムラヤドリムネボソアリの、極めて特殊な生態を報告しました。一般的なアリには、女王アリ、働きアリ(雌)、オスアリがいますが、このアリには女王しかいません。女王は雌性単為生殖で新女王だけを生産します。では誰が子育てをするのか。このアリは、別種のアリの女王を殺して巣を乗っ取り、その巣の働きアリに子育てをさせます。“女王しかいない”生活史を持つアリは、世界で本種だけしか知られていません。
本研究では、本種が女王しか持たないことを、飼育実験と受精嚢の観察から確認し、また本種と寄生される種との系統的位置づけを分子系統樹から検討しました。
本研究成果は、2026年2月23日にCurrent Biology誌でオンライン公開されました。

背景

キノムラヤドリムネボソアリ(キノムラヤドリ)は、本研究報告の著者の一人であり、稀代の在野アリ学者である木野村恭一氏が、40年以上前に岐阜県の里山で発見したアリです。本種は、地面に落ちて朽ちたドングリの中に作られたハヤシムネボソアリというアリの巣から見つかりました(図1)。

ドングリの中に作られたハヤシムネボソアリというアリの巣から見つかったキノムラヤドリムネボソアリ(キノムラヤドリ)の写真
図1.(a)キノムラヤドリムネボソアリ(無翅型)に寄生されたハヤシムネボソアリの巣内。(b)羽化したてのキノムラヤドリムネボソアリ(有翅型)(撮影:木野村恭一)

その後、木野村氏による採集や飼育を通して、キノムラヤドリは、ハヤシムネボソアリ(ハヤシ)の巣に侵入して女王を殺し、残された働きアリに子育てをさせる社会寄生種と考えられること、女王が雌性単為生殖*1)で新女王のみを生産し、オスも働きアリも持たない可能性があること、女王には翅のある女王と無い女王の2タイプがあることなどが見えてきました。女王しかいないアリは他に例がなく、この発見は、アリの社会性進化を研究する上で、全く新しい視点を提供するものです。しかし本種は大変稀にしか見つからないアリで、採集が難しいため、私信として図鑑や研究会誌で断片的に触れられることはありましたが、詳細な研究は進んでいませんでした。そこで私達の研究グループは、飼育実験などによってキノムラヤドリの特異な生態を改めて検証・確認し、世界に紹介することにしました。

内容

オスアリと交尾していないことが確実なキノムラヤドリの女王をハヤシの巣に寄生させ、女王が交尾せずに雌性単為生殖で新女王を産めるのか、また、働きアリやオスアリは全く羽化してこないのかを飼育実験で確かめました。その結果、寄生に成功した全ての巣から、新女王のみが羽化し、オスアリと働きアリは全く羽化しませんでした。
女王がオスと交尾しないことは、受精嚢*2)が萎縮していることや、精子が貯蔵されていないことからも支持されました(図2)。

一般的な既交尾女王の受精嚢の写真
図2.一般的な既交尾女王の受精嚢(矢印)。蓄えられた精子が黒っぽく見える。

以上のことから、キノムラヤドリは、予測されてきたように、働きアリもオスアリも持たない、女王しかいないアリであることが確認できました。
さらに、複数の巣で、母女王は有翅と無翅、両タイプの新女王を産みました。単為生殖で産まれ、母親のクローンであるはずの新女王が、どのようなメカニズムによって有翅と無翅に分かれるのか、ぜひ解明したい課題です。
社会寄生種は寄生される側の種から直接進化したとする仮説がありますが、キノムラヤドリと、それに寄生されるハヤシとの系統的な関係をDNA解析によって調べたところ、両者の関係は予想よりも離れていました。キノムラヤドリの起源を明らかにするには、より詳細な解析を行い、複雑な進化の歴史を紐解く必要がありそうです。

今後の展開

アリが地球上で繁栄できた背景は、その社会生活を高度に進化させたことにあると考えられます。本種は、社会寄生種として進化する過程で、その性質の多くを失ったように見えますが、寄生された側のアリと社会的な関係を結ぶことで、社会性の恩恵を受けています。本種と、寄生しないアリとの違いを、様々な角度から調べることによって、アリの社会性の進化について数多くのことがわかると期待しています。このようなアリが里山で人知れず暮らしているということは、思いもしないような生物の不思議が身近にまだまだあることを思い出させてくれます。

論文

論文名:A parasitic, parthenogenetic ant with only queens and without workers or males

著者名:濱口京子、木野村恭一、北澤廉、神崎菜摘、ユルゲン・ハインツ

掲載誌:Current Biology

DOI:10.1016/j.cub.2025.11.080

研究費:運営交付金
 共筆頭著者

共同研究機関

レーゲンスブルグ大学

用語解説

*1)雌性単為生殖
雌が単為生殖で雌を産む様式を指します。半倍数性の性決定様式を持つアリの場合、一般的には、二倍体のメス(娘女王と働きアリ)は、女王アリとオスアリとの有性生殖によって生まれ、半数体のオスアリ(息子)は女王アリの単為生殖によって生まれます。よって、交尾をしていない女王アリからメスが生まれる場合、一般的なアリの繁殖様式とは異なる雌性単為生殖が行われたと考えられます。(元に戻る

*2)女王アリの受精嚢
一般に、アリの女王は、羽化後しばらくすると交尾を行います。その際に、オスアリから一生分の精子を受け取り、卵巣の基部にある受精嚢という器官に蓄えます(図2)。そして、非常に長命な女王アリの生涯(種によっては20年以上)を通じて、その時に蓄えた精子を使ってメスになる卵を受精させます。(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 関西支所 生物多様性研究グループ グループ長 濱口京子

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

 

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