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プレスリリース

2026年5月29日

国立大学法人筑波大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

中部山岳地域で発見の相次ぐチョウセンミネバリの系統・隔離の歴史を検証

中部山岳地域で近年確認が相次ぐカバノキ属のチョウセンミネバリは、中国大陸のものと同種であることが遺伝情報から推定されました。最終氷期最盛期には日本列島に広く分布していましたが、その後の温暖化で分布が縮小したと考えられます。また、近縁種のダケカンバと区別する方法も明示しました。

近年、カバノキ属の落葉高木チョウセンミネバリの林が中部山岳地域で相次いで確認されています。近縁種のダケカンバなどと混同されやすいことなどから、チョウセンミネバリの存在は国内で広く認識されてきませんでしたが、現在では日本列島の森林形成史の鍵を握る遺存種の一種と考えられるようになりました。しかし、チョウセンミネバリが属するカバノキ属は、自生環境下でも種間交雑が頻繁に生じており、同種とされていた個体が別種と判別される事例もしばしば起きています。このため、遺伝情報を用いた種区分の検証が重要となっていました。また、このような集団遺伝学的解析を行うことにより、日本国内の孤立したチョウセンミネバリ林がどのように大陸の集団から分化し、成立したかの推定も可能となります。
本研究チームは今回、中国のチョウセンミネバリや近縁種と日本国内で確認されたチョウセンミネバリ12集団の系統関係や遺伝的多様性や遺伝的な違いの指標等を計算し、日本のチョウセンミネバリがたどってきた歴史を推定しました。系統樹推定の結果、日本の個体と中国のチョウセンミネバリは同一のクラスターとなったことから、系統的に同種であることが推定されました。また、日本のチョウセンミネバリ集団は遺伝的に互いに類似しており、集団サイズの縮小を経験したことが示唆されました。これらは、先行研究と同じく、同種が最終氷期最寒冷期には日本列島に広く分布していたが、現在にかけて分布が縮小したというシナリオを支持しました。また、チョウセンミネバリと類似する近縁種ダケカンバは、葉の側脈の数と倍数性で明確に区別できることも示すことができました。
チョウセンミネバリは、これまで考えられてきたよりも分布を多く持ち、日本の冷温帯林の主要な構成種であることが想定されます。本研究の成果により、日本の冷温帯林の成立過程の推定や、チョウセンミネバリの分布の全容解明、基礎的な生態的情報の研究に役立つことが期待されます。

研究の背景

日本列島における多様な森林植生の成立は、異なる時期に異なる経路から渡ってきた樹種たちの共存が大きな鍵を握ると考えられます。日本の中部山岳地域は冷涼な気候・多様な地形を持ち、大陸には広く分布するものの、日本では一部の地域にのみ隔離的に分布する樹種が数多く存在しています。そのような樹種は、日本の平均気温が現在より5〜7℃ほど低かった約2万2千年前の最終氷期最寒冷期には広い分布をしていましたが、氷期が終わり、温暖化が進むと日本各地で絶滅し、一部の地域で生き残ったことが先行研究で示されています。このような種を氷期遺存種と呼びます。カバノキ科カバノキ属のチョウセンミネバリBetula costataもそのような氷期遺存種の一種と考えられ、近年、中部山岳地域での隔離分布が相次いで報告されています。一方で、チョウセンミネバリは、近縁種ダケカンバと形態が酷似しているうえに、混交林を形成する場合があり(図1)、独立した種としての認識は近年なされたばかりでした。このため、大陸でチョウセンミネバリとして認識されている種と同一なのか、どのように日本列島の集団が形成されたのか、その実態はほとんど分かっていません。実際にカバノキ属は、自生環境下でも種間交雑が頻繁に生じており、同種とされていた個体が別種と判別される事例も相次いでいます。それゆえ、遺伝情報を用いた種区分の検証が重要となっています。また、集団遺伝学的な解析を行うことで、日本国内の孤立したチョウセンミネバリ林がどのように大陸の集団から分化し、成立したのかも推定できます。

研究内容と成果

本研究では、中国のチョウセンミネバリや近縁種3種と日本のチョウセンミネバリ12集団との系統関係をRAD-seq注1による一塩基多型(SNP) 注2)を用いて推定しました。また、日本の集団の遺伝的多様性や集団間の遺伝的な違いの指標や系統樹、地理的な遺伝構造などをSNPの塩基配列のヘテロ接合度や個体間の配列の違いの程度を用いて計算し、日本のチョウセンミネバリがたどってきた歴史を推定しました。
最尤法・近隣結合法注3)いずれの系統樹においても、日本の個体は中国のチョウセンミネバリと同一のクラスターを形成し、近縁種とは異なるクラスターとなったことから(図2)、これらは系統的に同種であることが推定されました。また、日本のチョウセンミネバリ集団は遺伝的に互いに類似しており、明確な地理的な遺伝構造が推定されなかったことから、集団サイズの縮小を経験したことが示唆されました。これらは、種の分布と気候を関連づけるモデルによる先行研究と同じく、同種が最終氷期最寒冷期には日本列島に広く分布していたが、現在にかけて分布が縮小したというシナリオを支持しました。
加えて、本研究では形態の類似する近縁種ダケカンバとチョウセンミネバリを区別するポイントを探るべく、71個体の葉形の評価および倍数性の検証を行いました。その結果、葉の長さや葉の幅でその両種を区別するのは難しいものの、葉の側脈の数(チョウセンミネバリは13―16、ダケカンバは11―13、参考図1(b)(c))と倍数性(チョウセンミネバリは二倍体、本州以北ダケカンバは四倍体)で明確に区別できることも示すことができました。

今後の展開

日本国内でのチョウセンミネバリの新たな自生地の報告が近年相次いでおり、これまで考えられてきたよりも分布を多く持ち、日本の冷温帯林を構成する重要な存在であることが想定されます。本研究の成果を踏まえ、チョウセンミネバリの分布の全容や更新動態の把握、日本の森林植生の成立過程の解明が今後望まれます。

参考図

近縁種ダケカンバと形態が酷似していることを示しているチョウセンミネバリの写真
図1 チョウセンミネバリとダケカンバの混交林(富山県有峰) (a)、チョウセンミネバリの形態(b)とダケカンバの形態(c)。葉の中央部を縦に伸びる葉脈の左右に出ている側脈はチョウセンミネバリの方がダケカンバよりも多く、13-16対であることが多い。

 

(左)最尤法系統樹と(右)近隣結合法系統樹を示している図
図2 本研究で推定された最尤法系統樹(左)と近隣結合法系統樹(右)
日本国内のチョウセンミネバリは青で示し、中国のサンプルは赤で示されている。いずれも同一のクラスター内に位置するため、日本の推定チョウセンミネバリ集団もチョウセンミネバリと同種であることが遺伝情報から支持された。

用語解説

注1RAD-seq(Restriction site Associated DNA sequencing)制限酵素で切断したDNA断片を増幅させ、ゲノム内の大量の塩基配列を同時に解析する手法。(元に戻る

注2SNP(一塩基多型、Single Nucleotide Polymorphism)DNA 配列の中の一つの塩基が他の塩基に置き換わり、個体間で異なっている部位を指す。遺伝的研究においては、ゲノム中の SNP 領域を利用して遺伝的多様性や遺伝構造等を推定することが多い。(元に戻る

注3最尤法・近隣結合法 系統樹の推定手法。最尤法は、配列データから塩基配列の置換の仕方や系統樹の枝の長さを多数仮定し、その内最も尤度の高い樹形を選択する手法。近隣結合法は、配列データから集団間の距離を総当たりで計算し、系統樹の枝の長さの組み合わせを最小進化原理(正しい系統樹は総枝長が最短であるという仮定)に基づいて構築する手法。(元に戻る

研究資金

本研究は、科研費(基盤S)による研究プロジェクト(24H00055)および南アルプス学会の助成を受けて実施されました。

掲載論文

題名:Phylogenetic and population genetic analysis decipher the taxonomic consistency on cryptic Betula costata Trautv. (Betulaceae) populations in Japan and the process on its divergence and isolation(系統・集団遺伝学的解析により推定された日本のチョウセンミネバリ隔離集団の種区分とその分化・孤立化の過程)

著者名:相原隆貴(筑波大学生命環境系)、設樂拓人(森林総合研究所多摩森林科学園)、内山憲太郎(森林総合研究所樹木分子遺伝研究領域)、Nian Wang(Shandong Agricultural University)、津村義彦(筑波大学生命環境系)

掲載誌:Plant Species Biology

掲載日:2026年4月30日(現地時間)

DOI:10.1111/1442-1984.70057

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 多摩森林科学園 教育的資源研究グループ 主任研究員 設樂拓人

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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