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プレスリリース

2026年6月16日

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

原発事故後の森林で放射性セシウムの安定時期を解明
—木材の放射性セシウム濃度を長期予測する科学的根拠に—

ポイント

  • 原発事故後の森林で、放射性セシウム(セシウム137)の動きがいつ安定するかを、10年にわたる調査で明らかにしました。
  • セシウム137の樹木の中での分布や、土壌から樹木への移行は、事故から約6年後に安定しました。
  • この成果は、木材のセシウム137濃度の長期予測への活用が期待されます。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の研究グループは、福島第一原子力発電所事故後の森林において、放射性セシウム(セシウム137)の動きがいつ安定するのかを、10年間にわたる長期観測データを用いて明らかにしました。
放射能汚染地域で林業の再開時期を検討するためには、将来収穫される木材にどの程度のセシウム137が含まれる可能性があるかを、あらかじめ見通せるようになることが重要です。しかし、これまでのモデルによる予測では、森林内でのセシウム137の動きがいつ安定するかを十分に把握できておらず、そのため、木材中の濃度についての長期的な予測結果が、モデルごとに大きく異なるという課題がありました。
そこで研究グループは、事故の影響を受けた森林で2011年から2020年まで継続的な調査を行い、葉や枝、幹などに含まれるセシウム137の量と分布の変化を詳しく分析しました。その結果、樹木内でのセシウム137の分布や、土壌から樹木への移行は、事故から約6年後に安定したことが分かりました。この成果により、木材に含まれるセシウム137濃度を将来にわたって予測しやすくなり、林業の再開や木材利用の判断に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2026年1月7日にScientific Reports誌でオンライン公開されました。

背景

福島第一原子力発電所事故により、森林には放射性セシウム(セシウム137)が広範囲に沈着しました。放射能汚染地域での林業の再開時期を検討するためには、将来、木材にどの程度のセシウム137が含まれるのかをあらかじめ見通すことができるようになる必要があります。これまで、木材中のセシウム137濃度を予測するために、いくつかのモデルが提案されてきました。しかし、森林内におけるセシウム137の動きがいつ安定すると考えるかについては、モデルごとにその仮定が異なっていました。その結果、長期的な濃度の予測値に、モデルごとの差が生じる要因の一つとなっていました。

内容

そこで研究グループは、福島県・茨城県内の森林において、2011年から2020年まで10年間にわたり、継続的な調査を実施しました(図1)。樹種ごとに葉、枝、樹皮、木材(辺材および心材)に含まれるセシウム137の量と分布の変化を詳細に分析した結果、原発事故から約6年後までには、樹木内におけるセシウム137の分布はほぼ変化しなくなり、安定した状態になっていることが分かりました(図2)。また、土壌から樹木へのセシウム137の移行についても、大きな変化は見られなくなり、概ね同じ程度で移行し続ける状態になっていることが明らかになりました。これは、森林内でのセシウム137の循環が落ち着いた状態に入ったことを示しています。

左:試料の採取場所で作業者が木に登っている様子。右:枝葉の分別作業をしている様子。
図1 分析試料にするためスギの枝葉を採取する方法
同じスギの個体に含まれるセシウム137の変化を長期的に調べるため、毎回木登りによって枝葉を採取して、分析用の試料に加工します。

 

左:スギ林、右:コナラ林それぞれの葉、枝、樹皮、辺材および心材に含まれる樹木寧のセシウム137の分布率を示すグラフ。

図2 樹木内における放射性セシウム(セシウム137)の分布の経年変化(スギ林1地点およびコナラ林1地点の例)
葉、枝、樹皮、辺材および心材に含まれるセシウム137の合計量(Bq/m2)を100%とし、それぞれの部位における割合の変化を示しています。2017年頃から、葉、枝、樹皮、辺材および心材の割合に大きな変化は見られず、分布が安定しています。それ以前に見られた割合の変化は、原発事故の直後に直接セシウム137が付着した葉や枝、樹皮などから、雨によって洗い流されたり、落葉によって失われたりした結果、これらの部位に含まれる量が大きく減少したことを示しています。

今後の展開

本研究成果により、事故から概ね6年が経過した森林では、木材中のセシウム137濃度を長期的に予測しやすくなると考えられます。これは、林業の再開や木材利用の判断を科学的に支える重要な基盤となります。今後は、さらなる長期観測や多様な森林での調査を通じて予測精度の向上や、放射性物質の長期的な環境中での動きを評価するモデルの高度化に貢献することが期待されます。

論文

論文名:Decadal stability of radiocesium inventories and soil to tree transfer in forests affected by the Fukushima nuclear accident

著者名:Wataru Sakashita, Naohiro Imamura, Shinta Ohashi, Masabumi Komatsu, Masatake G. Araki, Satoshi Saito, Takuya Kajimoto, Shoji Hashimoto, Takuya Manaka, Tadashi Sakata, Yoshimi Ohmae, Satoru Miura, Yoshiki Shinomiya

掲載誌:Scientific Reports

DOI:10.1038/s41598-025-34898-0

研究費:文部科学省科学研究費補助金「JP25K02067, JP25K02053」、林野庁受託事業「森林内における放射性物質実態把握調査事業」

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 震災復興・放射性物質研究拠点 主任研究員 坂下 渉

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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