研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > 森の木々の熾烈な競争と共存の謎を解く—なぜ巨木が独占せず、多様な木々と共存できるのか?—
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2026年7月8日
京都大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
東京大学
一見、平和そうに見える森も、木々にとっては熾烈な生存競争の場です。木々は光を求めて上に伸び、大きな木が勝ち残りますが、一方で100年を超える立派な森でも、小さな木々も共存しています。これまで、森における木々の競争と共存の関係は謎に包まれていました。小野田雄介 農学研究科教授、松尾智成 ワーヘニンゲン大学(オランダ)博士研究員、小林慧人 森林総合研究所研究員、日浦勉 東京大学教授らのグループは、森林の光の3次元分布と樹木の三次元構造を解析する独自の方法により、樹木の成長速度を「光を獲得する効率」と「獲得した光を成長に転換する効率」の2つに分解して評価する新しいアプローチを開発・適用しました。その結果、若い森から成熟した森へと発達する過程で、樹木の「光獲得」と「光利用」のバランスが劇的にシフトし、それが若い森での熾烈な光競争と急速なサイズ格差を生み出す原因であると同時に、最終的に異なる大きさの木々が共存する森に移り行く理由であることを、世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、2026年7月8日に英国の生態学の国際誌『Journal of Ecology』に掲載されました。

本研究が開発した「森林構造と光の三次元定量技術」によって、森の成り立ちに関する長年の謎―「光を巡る激しい競争の中で、なぜ樹木は共存できるのか」を、統一的に説明できるようになりました。作成:小野田雄介
伐採や風倒などの大きな撹乱があっても、数十年をかけて森が回復してきます。森の形成においては、樹木同士の「光競争」が主な駆動要因です。光は上空から降り注ぐため、背の高い木が光を独占し、低い木の光獲得を抑圧する「一方向的な競争(非対称な競争)*1」が生じ、それゆえに森は巨大な構造になります。しかし、背の高い木が常に勝ち続けるのであれば、成熟した森には一部の巨木しか残らないはずですが、実際の森では大小様々な木が共存しています(1980年発表のOliverの遷移モデルが有名)。競争と共存のバランスはどう保たれているのでしょうか?それは森林生態学の長年の謎で、これを解き明かすためには、森の中で個々の木が「どれだけ光を獲得し」、そして「どれだけ効率よく光を成長に変換しているか」を評価する必要がありました。しかし、自然の森での個々の木の光獲得量を推定することはこれまで技術的に難しく、森の成り立ちのメカニズムはよく分かっていませんでした。
私たちは、北海道大学苫小牧研究林にある、大規模な撹乱から16年〜100年以上が経過した12の森林プロット(各20mx20m)を対象に調査を行いました。小型の光センサーと伸縮式の20mカーボンポールを使い、林内の光の三次元分布を計測しました。さらに、林内の全ての樹木(幹の直径1cm以上)の樹冠の三次元形状を評価・統合することにより、樹木個体あたりの光獲得量を推定しました。これにより、個体の相対成長速度*2(=dM/M)を、個体重量あたりの光獲得量(=dI/M,光獲得効率*3)と光獲得量あたりの成長速度(=dM/dI, 光利用効率*4)の2つに分解して評価することに成功しました。
研究の結果、森の年齢(遷移段階)にかかわらず、背の高い木は背の低い木に比べて、「光獲得効率」が高い一方で、「光利用効率」は常に低いという明確なトレードオフが確認されました。背の高い木は、強すぎる光による光合成の飽和や、水分を吸い上げる水力学的ストレス、さらには大きくなると体を支える幹や根への投資割合が増加するため、獲得した光を成長に変換する効率が悪くなるのです。この2つの効率のバランスは、遷移段階とともに大きく変化することがわかり、それが競争激化の若い森から、様々な木が共存する成熟した森へ移り変わる原因でした。
本研究は、森林がどのように発達し、なぜ多様な樹木が共存できるのかという生態学の根本的な問いに対し、「個体レベルの光獲得と光利用」という生理生態学的なメカニズムから、統一的な答えを導き出しました。このアプローチによる定量的評価は、従来の定性的な解釈から脱却し、世界の森林構造の違いの統一的な理解や、気候変動下における森林動態の予測精度向上、多様性に富んだ持続可能な森林管理(林業や保全活動)などの基盤となることが期待されます。
本研究は、文部科学省科学研究費(「森林の光の三次元分布における樹木の競争と共存の統一的な理解(25K02342)」、「森林機能の最大化のためのゲノム・形質・生態の革新的な統合アプローチ(21H05314)」、「森林の構造の時空間的違いの統一的理解に向けて(17H03734)」の支援を受けて行われました。
*1 一方向的な競争(非対称な競争):光は上から降り注ぐという方向性があるため、背の高い樹木は、光を先取りし、低い樹木に影を落とすことができますが、その逆はありません。これは水や養分などの双方向の競争とは大きく異なる点で、それゆえに、植物は上に向かって成長します。(元に戻る)
*2 相対成長速度:個体バイオマスに対して年に何%大きくなるかという相対値化した成長速度を意味します。(元に戻る)
*3 光獲得効率:植物の地上部バイオマスあたりの光の獲得量を意味します。植物は光を求めて、茎を作って、高い位置に葉を配置しますので、植物の地上部バイオマスは光を得るためのコストであると考えられ、獲得した光量はベネフィットであると考えられるので、光獲得効率は、光獲得のための費用対効果と理解することができます。(元に戻る)
*4 光利用効率:獲得した光量あたりの成長量を意味します。太陽光パネルの効率が製品によって異なるように、植物も光をバイオマスに転換する効率が異なります。(元に戻る)
森はいつも静かで、安定して変わらない場所だと思うかもしれません。しかしそこに至る過程では、光を奪い合う熾烈な生存競争が繰り広げられています。この競争において、背の高い大きな木には圧倒的なメリットがあります。しかし、ただ大きい木だけが「勝ち組」にならないのが、自然の面白いところです。成熟した森では、わずかな光を効率よく使う小さな木も逞しく生きており、それぞれの樹種が独自の「ニッチ(適所)」を見つけて共存しています。今度森を訪れたときは、ぜひ木々の生き様に思いを馳せてみてください。静寂に包まれた森のなかで、したたかに生きている木々の息遣いが聞こえてくるかもしれません。(小野田雄介)
論文タイトル:Partitioning tree growth into light interception and use efficiencies clarifies the role of light competition in secondary forest succession(樹木の成長を光獲得と光利用効率にわけることによって森林の二次遷移における光競争の役割を明らかにする)
著者:Yusuke Onoda, Tomonari Matsuo, Keito Kobayashi, Tsutom Hiura
掲載誌:Journal of Ecology
DOI:10.1111/1365-2745.70375
掲載日:2026年7月8日午前5時1分(イギリス夏時間)

図1 森林の成り立ちメカニズム
若い森から成熟した森まで、試験地に生えている1本1本の樹木の相対成長速度を光獲得効率と光利用効率に分けて解析しました。若い森では、少しでも大きな木の相対的成長が高く、熾烈な競争が存在しますが、成熟した森では異なるサイズの木々が同程度の相対成長速度をもち、共存が促進されます。その内訳を見ると、光獲得効率は常に樹高と正に相関することから、それぞれの森では少しでも大きくなることで、地上部バイオマス(光を得るための投資)に比例する以上に光(投資に対する利益)を得ることができ、上に伸びる駆動要因になっています。一方で、光利用効率は樹高と負の相関があり、大きくなると光エネルギーの転換効率が下がることがわかります。成熟した森では、暗い環境に耐える樹種が高い光利用効率をもち、これが成熟林での共存促進に大きな役割を果たしています。

図2 本研究で用いた森林調査地

図3 緑鮮やかな森(本研究の調査地の1つ)。一見平和そうに見える森林も、木々にとっては生存競争の場です。
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