研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > 土地利用の変化が生物多様性に与える影響を世界規模で高精度に把握 ~ネイチャーフットプリントによるバリューチェーンや投融資先の自然リスク評価を高度化~
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2026年7月10日
早稲田大学
MS&AD インターリスク総研株式会社
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
ポイント
早稲田大学理工学術院創造理工学部の伊坪 徳宏(いつぼ のりひろ)教授、早稲田大学持続的環境エネルギー社会共創研究機構の劉 潤椏(りゅう じゅんや)研究助手、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の大橋 春香(おおはし はるか)主任研究員、平田 晶子(ひらた あきこ)主任研究員、松井 哲哉(まつい てつや)チーム長(筑波大学生命環境系 連携大学院 教授 併任)、MS&AD インターリスク総研株式会社の寺崎 康介(てらさき こうすけ)フェローらの研究チームは、農研機構の協力の下、土地利用の変化が生物多様性に与える影響を、ライフサイクルアセスメント(LCA)※1の考え方に基づき、場所ごとに定量的に評価する新たな手法を開発しました。
本研究成果は、企業の事業活動やバリューチェーン、金融機関の投融資先の事業が自然に与える影響を定量的に評価する手法「ネイチャーフットプリント※2」の高度化に資するもので、このネイチャーフットプリント指標における土地の改変による生物多様性インパクトの算定に活用されはじめています。
本研究は2023年より着手され、その成果をまとめた論文が2026年6月24日に環境科学分野のトップジャーナルである「Environmental Science & Technology」(上位5%、Impact Factor 12.4、Cite Score18.1)に掲載されました。
近年、気候変動に加え、生物多様性の損失や、それに伴う生態系サービスの劣化が世界的な社会課題となっています。2030年までに自然の損失を止め、回復軌道に乗せる世界目標「ネイチャー・ポジティブ」の実現に向け、企業による自然への影響の把握・低減に向けた取り組みが進められており、その一環として、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)に沿った情報開示も広がっています。こうした情報開示は、企業が自然への影響やリスクを把握し、適切な対策につなげることで、ネイチャー・ポジティブの実現にも貢献することが期待されています。
TNFDにおいては、企業は自社のみならずバリューチェーンも含め、事業活動に関係する自然への依存や影響、事業リスクと機会を評価し、経営戦略に反映し、開示することが求められています。それに際して、生物多様性や生態系サービスは場所ごとの違いが大きいため、事業活動や製品の原材料を生産するなど、土地を利用している場所の特性を考慮した“ロケーションベースの評価”が重要となります。
金融ポートフォリオや事業会社のバリューチェーンの評価にあたっては、ライフサイクルアセスメント(LCA)の活用が推奨される一方で、既存手法では環境への影響を計測するための被害係数が主に国ごとに設定されており、ロケーションベースの評価が困難といった課題がありました。
こうした課題を克服するため、本研究では、内閣府による「研究開発とSociety 5.0との橋渡しプログラム(BRIDGE)」の支援を受け、これまで開発してきたLCAの影響評価手法「被害算定型影響評価手法(LIME)3」をさらに発展させ、新たなネイチャーフットプリント影響評価手法を開発しました。
本研究では、将来の土地利用変化によって生じる生物多様性へのインパクトを、LCA評価に活用可能な「被害係数」として、全世界0.25°解像度(赤道付近で約28km四方)という高解析度で算定しました。場所ごとの土地改変面積にこの被害係数をかけあわせることにより、土地利用変化によって絶滅リスクがどの程度高まるかを、一律ではなく場所ごとの違いを反映して評価する基盤が整いました。
被害係数の算定にあたっては、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所が開発した潜在的生息地予測モデルを用い、哺乳類、爬虫類、鳥類、両生類および植物の出現記録データならびに気候・土地利用データに基づき、全球規模で現在および将来の潜在的生息地を推定しました。(図1)解析では環境条件や種ごとの移動距離も考慮し、スーパーコンピュータでシミュレーションを実施しています。評価対象の6,569種を対象に、種ごとの絶滅率の分布図を作成し、その結果に基づき、生物分類群別の空間絶滅率を算出しました。さらに、全球の種の分類構成と等しくなるように補正をおこない、全球レベルで生物種の絶滅率「E/MSY: Extinction per million species year(絶滅速度)」の空間分布を算出しました。
最終的に、各グリッドの絶滅率を土地利用変化面積で割ることで、土地利用が1km²改変した際の絶滅率増分、すなわち土地改変による生物多様性損失の被害係数を算定しました。(図2)

【図1】国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所が開発したMaxEntモデルを利用した潜在的生息地域の予測

【図2】評価対象の6,569種を対象とした、土地利用変化による生物多様性被害係数の空間分布図
今回の成果により、土地利用変化による生物多様性への影響を場所ごとに定量的に評価できるようになりました。これにより、企業や金融機関は次のような場面で本手法を活用できるようになります。
(1)企業の事業活動やバリューチェーンを通じた自然へのインパクト評価
(2)金融機関の投融資・保険引受ポートフォリオ分析
(3)TNFDなど自然関連情報開示への対応(原材料生産地域を含めた優先地域をより定量的に評価・特定)
(4)自然の観点を含めた移行計画の検討
特に金融分野では、自然関連リスクの把握において、業種平均だけでなくロケーションベースでの分析の重要性が高まっています。今後、実際の金融ポートフォリオを用いた分析も進め、事例を増やすことで社会実装を促進していきます。
また合わせて、ネイチャーフットプリントの機能拡張や精度向上に寄与する研究も進めて、企業や金融機関が自然への負の影響や関連リスクをより的確に把握できるようにすることで、影響の大きい領域での回避・低減策や資金配分の見直しを後押しし、ネイチャー・ポジティブに資する経営・投融資判断を支える評価基盤づくりに貢献していきます。
※1 ライフサイクルアセスメント(LCA):製品の製造から廃棄までの環境への影響を分析評価する手法。(元に戻る)
※2 ネイチャーフットプリント:https://bridge-naturefootprint.jp/
企業や組織の活動が、自然や生物多様性に与える影響を定量的に把握する考え方。温室効果ガス排出量を可視化する「カーボンフットプリント」に対し、ネイチャーフットプリントは生物多様性ならびに生態系サービスへの影響を可視化する指標であります。
内閣府BRIDGEの支援により開発されたネイチャーフットプリントは、土地利用だけでなく、気候変動、水消費、汚染、資源利用なども含めて、自然への影響を生物種の絶滅リスク指標*などを用いて統合的に評価する手法であります。(元に戻る)
* 生物種の絶滅率指標には、「E/MSY(絶滅速度)」を採用しています。これは100万種あたり1年あたりの絶滅種数を示す指標で、地球の限界を評価するプラネタリーバウンダリなどの枠組みでも用いられています。
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