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プレスリリース

2026年7月23日

長岡技術科学大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

リグニン分解細菌を「ものづくり微生物」へ
—木質資源から有用化学品を生産する基盤技術を確立—

ポイント

  • リグニン分解細菌SYK-6株を改良し、安価なグルコースを利用できる性質を付与
  • 改良菌株MK-8は分解能力を維持し、パルプ製造廃液からプラスチック原料PDCを高生産
  • 自然界の細菌を、木質資源から有用化学品を生産する「ものづくり微生物」へ転換

概要

長岡技術科学大学大学院工学研究科博士後期課程先端工学専攻の水出暁登さん(大学院生)、同大学技学研究院物質生物系の政井英司教授・上村直史准教授・藤田雅也助教、森林総合研究所の荒木拓馬主任研究員・鈴木悠造主任研究員・大塚祐一郎チーム長、中村雅哉元森林総合研究所領域長、東京科学大学の道信剛志教授らの研究グループは、リグニン分解細菌 Sphingobium lignivorans SYK-6株を、木質資源から有用化学品を生産する「ものづくり微生物」へと転換することに成功しました。産業利用の課題となっていた「グルコースを利用できず、増殖にメチオニン(アミノ酸の一種)を必要とする」という性質を代謝工学により克服し、改良菌株「MK-8」を開発しました。MK-8は、グルコースを利用して効率よく増殖しながら、幅広いリグニン由来化合物を変換する能力を維持し、スギ由来のパルプ製造廃液(黒液)からバイオプラスチック原料PDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸)を2.71 g/L、131%の収率で生産しました。本成果は、木質資源を原料とする持続可能なバイオものづくりの基盤技術となるとともに、リグニン分解細菌の産業利用を大きく前進させるものです。

本プレスリリースの研究概要図

研究概要図:改良株MK-8の開発と、これを用いた木質資源からのPDC生産

研究の背景

リグニンは、地球上でセルロースに次いで2番目に豊富な再生可能な炭素資源です。近年、リグニン由来の多様な芳香族化合物を微生物によって一種類の有用化学品へ変換する「バイオロジカルファネリング」が注目されています。
研究グループはこれまでに、リグニン分解細菌Sphingobium lignivorans SYK-6株を用いて、パルプ製造廃液(黒液)中の多様なリグニン由来化合物から有用化学品を高効率に生産できることを明らかにしました。一方、SYK-6株はグルコースを利用できず、増殖にはメチオニンを必要とするため、栄養豊富な培地での培養が必要であり、大量培養や産業利用には課題がありました。

研究の内容と成果

本研究では、SYK-6株が持つ優れたリグニン分解能力を維持したまま、産業利用を妨げていた性質を代謝工学によって克服しました。まず、グルコースを利用できない原因を解明し、他の細菌由来のグルコース輸送系の導入に加え、中心代謝やメチオニン生合成経路を再設計することで、グルコースを炭素源として効率よく増殖できる改良株「MK-8」を開発しました。さらに、適応実験室進化 (Adaptive Laboratory Evolution)を組み合わせることで、生育能をさらに向上させました。MK-8は、SYK-6株本来の幅広いリグニン由来芳香族化合物の分解能力を維持したまま、産業利用に適した増殖特性を獲得しました。
このMK-8株を用いてスギ由来のパルプ製造廃液(黒液)を変換したところ、バイオプラスチック原料PDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸)を2.71 g/L、131%の収率(同定済み芳香族化合物基準)で生産しました。100%を超える収率は、未同定のリグニン由来化合物もPDCへ変換されたことを示しています。
さらに本研究では、細菌のグルコース代謝において、これまで必須と考えられていた酵素の働きを別の酵素が代替できることを明らかにしました。この発見は、細菌が想定以上に柔軟な代謝システムを備えていることを示すものであり、代謝工学だけでなく基礎生物学の観点からも重要な成果です。

今後の展開

本研究により、環境中から見いだされたリグニン分解細菌を、木質資源から有用化学品を効率よく生産できる産業利用可能な微生物へと転換する基盤技術が確立されました。今後は、本研究で開発したMK-8を基盤として、PDC以外の有用化学品への展開や広葉樹由来リグニンへの適用、さらに培養プロセスの最適化やスケールアップを進めることで、木質資源を原料とした持続可能な化学品生産の実用化を目指します。

研究成果の公表

論文タイトル:Metabolic rewiring overcomes physiological constraints in Sphingobium lignivorans SYK-6 for valorization of industrial lignin streams

著者名:水出暁登、加藤諒、藤田雅也、荒木拓馬、鈴木悠造、大塚祐一郎、中村雅哉、道信剛志、上村直史、政井英司

掲載誌:Metabolic Engineering

掲載日:2026年7月2日

DOI:https://doi.org/10.1016/j.ymben.2026.102500

助成・謝辞

本研究は、JSPS科研費(課題番号25H01196、24K01891)、JST COI-NEXT(課題番号JPMJPF2104)、JST CREST(課題番号JPMJCR23L4)、JSPS地域中核・特色ある研究大学強化促進事業JPJS00420240017の支援により実施されました。

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 森林資源化学研究領域 主任研究員 荒木 拓馬

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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