研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > コナラ当年枝の放射性セシウム濃度と林齢の関係を解明 —4~9年生の萌芽林の原木利用可否の予測が可能に—
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2026年8月6日
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の研究グループは、福島第一原子力発電所事故後に萌芽更新されたコナラ林を対象に継続調査を行い、きのこ原木として利用されるコナラの当年枝*1)に含まれる放射性セシウム(セシウム137)濃度の経年変化に及ぼす林齢の影響を明らかにしました。
原子力災害被災地域での原木林利用再開に向け、木を伐採しなくても当年枝から幹のセシウム137濃度を推定する手法が検討されていますが、この手法において林齢の影響はよく分かっていませんでした。そこで本研究では、福島第一原子力発電所事故後に萌芽更新された阿武隈地方のコナラ林を対象に、調査開始時点での林齢1~10年生のコナラ萌芽林で2016年から4年ごとに当年枝を採取し、セシウム137の濃度変化を評価しました。その結果、萌芽したコナラの当年枝では林齢が1~3年生では林齢に伴う濃度変化がみられた一方、4~9年生ではその影響が認められないことが分かりました。この成果により、萌芽して4~9年のコナラでは、林齢の影響を考慮する必要なく、当年枝を利用して幹の放射性セシウム濃度の推定が可能になりました。
本研究成果は、2026年3月18日にScientific Reports誌でオンライン公開されました。
福島県では、阿武隈地方を中心に、萌芽更新されたコナラ林(写真1)など、きのこ栽培に使用される原木の生産が盛んに行われてきました。しかし、2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故により放出されたセシウム137の影響を受け、多くの原木林が汚染され、原木生産は大きな制約を受けることとなりました。事故から15年が経過した現在も、その影響は依然として続いています。
きのこ原木として利用するためには、コナラの幹に含まれるセシウム137濃度が指標値である50Bq/kg以下であることが求められています。このため、樹木を伐倒することなく、利用可能な林分かどうかを簡易に判定できる技術の確立が重要な課題となっています。こうした中、コナラでは、幹と当年枝のそれぞれに含まれる放射性セシウム濃度の間に一定の関係があることに着目し、当年枝の分析結果から幹の濃度を推定する手法の開発が進められてきました。ただし、この手法では、当年枝のセシウム137濃度の経年変化は物理減衰*2)のみによることを前提としていますが、林齢の影響はよく分かっていませんでした。

写真1. 萌芽更新された4年生のコナラ。2018年4月17日 福島県阿武隈地方(撮影者:三浦覚)
本研究では、福島県阿武隈地方にあるコナラ林を対象に調査を実施しました。福島第一原子力発電所事故後に萌芽更新されたコナラ萌芽林のうち、2016年以降の調査開始時点での林齢が1~10年生である林分を対象として、計20の調査区画を設定しました。各区画につき5本のコナラを選定し、2016年以降、4年ごとに同一個体から当年枝を継続的に採取して、セシウム137濃度の4年間の変化を評価しました。
その結果、林齢1~3年生のコナラ当年枝では、4年間におけるセシウム137の物理減衰を統計的に上回る濃度低下が確認されました(図1)。一方、林齢4~9年生のコナラ当年枝のセシウム137濃度は物理減衰に従って低下していることが明らかになりました。10年生の当年枝では物理減衰を上回る濃度低下が見られましたが、それ以降どのようになるかは引き続きの調査が必要です。これらの結果から、林齢4~9年生のコナラ当年枝では、林齢の影響を考慮する必要なく、幹と当年枝のそれぞれに含まれる放射性セシウム濃度の間に成立する一定の関係を適用できることが示されました。

図1. 調査開始時と4年後におけるコナラ当年枝のセシウム137濃度の変化と調査開始時の林齢との関係
縦軸は、調査開始時に採取したコナラ当年枝のセシウム137濃度を基準とし、4年後に同じ個体から採取した当年枝の濃度がどの程度変化したかを示すものです(変化100%とは4年間で変化がなかったことを示し、100%より低い値は濃度が下がったことを示します)。これにより、当年枝に含まれるセシウム137濃度の4年間における経年変化を評価しています。図中の灰色の四角の範囲は、統計解析上の中央値と、中央値の95%信頼区間を示しています。黒色の点線は、セシウム137が物理減衰に従って減少した場合に想定される理論値(4年間で91.2%)を示しています。灰色の範囲がこの点線と重なる場合、観測された変化が物理減衰による減少と統計的に差がないことを意味しています。
きのこ原木の生産現場では、「萌芽更新されたコナラが将来的に原木として利用可能かどうかをできるだけ早い段階で簡便に見極めたい」というニーズがあります。本研究で得られた知見は、萌芽更新後4年が経過すれば、当年枝を用いて樹木を伐採せずに原木としての利用可否を判定できる可能性を示すものです。これにより、萌芽更新後のコナラ林の管理や利用計画において、実用的な見通しを立てるための科学的基盤となることが期待されます。
論文名:Temporal patterns of radiocesium decline in current-year branches of coppiced Quercus serrata relative to stand age after the Fukushima nuclear accident
著者名:Wataru Sakashita, Satoru Miura, Eriko Ito, Junko Nagakura
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-026-43819-8
研究費:森林総合研究所交付金プロジェクト「201901, 202203」、文部科学省科学研究費補助金「JP24K01803, JP25K02053」
*1)当年枝
その年に新しく伸びた枝を当年枝と呼びます。葉が枝から直接出ていることや、枝に冬芽が付いていることから識別できます。(元に戻る)
*2)物理減衰
放射性物質が時間の経過とともに自然に減っていく現象のこと。セシウム137の場合、放射線を出しながら徐々に別の物質に変わり、約30年で量が半分になります(半減期)。(元に戻る)
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