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プレスリリース

2026年8月7日

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

赤トンボを育む森 —アキアカネは中~低標高域の森林を利用—

ポイント

  • アキアカネの生息数は、水田(繁殖地)よりも森林(餌場や休息場)の面積と強く関係
  • 夏は平均気温25℃前後の森林、秋は低地の水田から周囲5km以内の森林が成虫の生息地として重要
  • 本種の森林における生態の解明や保全手法の高度化につながることが期待される

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所の研究グループは、日本人に最もなじみ深いトンボの一種であるアキアカネの生息数が水田(繁殖地)よりも森林(餌場や休息場)の面積と強く関係することを明らかにしました。また、夏は平均気温25℃前後(本州中央部では標高500m前後の中標高域に相当)の森林、秋は低地の水田から周囲5km以内の森林が成虫の生息地として重要である可能性が示されました。成虫は夏により涼しい高地へ移動して避暑をすると考えられてきましたが、中標高域の森林にも多くの個体が人知れず生息している可能性があります。また、各地で減少する本種の保全のためには、周囲の森林面積を考慮して保全湿地を選定することが重要と考えられます。本研究成果は、2026年8月7日にEntomological Science誌のオンライン版に掲載されました。

背景

里山の赤トンボとして親しまれるアキアカネの成虫(図1)は、夏に涼しい高地へと移動し、秋には大群となって低地の水田へ戻ってくる(図2)ことで有名です。夏における成虫の生息域は、平均気温が23℃以下の高地に限られると考えられていました。しかし近年、もう少し暖かく標高の低いエリアの森林でも個体の発見が相次ぎました。このことから、アキアカネは中標高域の森でも夏を過ごせるのではないか?と考えられるようになりましたが、詳しい調査は行われていませんでした。一方、低地に戻ってきた秋の成虫は、日中の温かい時間に水田で繁殖活動を行いますが、それ以外の時間はあまり姿が見られないため、周囲の森林で採餌や休息をしていると考えられています。しかし、繁殖地からどれくらい離れた森林を彼らが利用しているのかはよく分かっていませんでした。
アキアカネはどこの森にいるのか、という謎が解決されていないのは、森の中で個体を発見するのが難しいためです。しかし、森から出てきた個体は観察可能です。夏が終わるころ(晩夏)には、森林生活を終えた個体が山を下り、山麓に現れます。この時期を逃さずに成虫の生息数を調査すれば、最近までどこの森林を利用していたのかを明らかにできる可能性があります。また、秋の水田における成虫の生息数も、周囲にどれだけ森林があるかということと関係している可能性があります。
果たして、それぞれの季節における成虫の生息数は、水田や森林の広がりによってどのように説明されるのでしょうか?

里山の赤トンボとして親しまれるアキアカネの写真
図1. アキアカネの成虫(雄)

アキアカネのライフサイクルを示した図
図2. アキアカネの生活史

内容

中部~近畿地域において、晩夏の山麓および秋の水田でアキアカネ成虫の生息数を広く調査しました。そして、生息数と周囲1,5,10km以内における水田および森林の面積との関係を季節ごとに解析しました。特に晩夏については、成虫が最近までどれくらい高い場所の森林を利用していたのかを推定するため、200m刻みの標高帯別に森林面積を求め、山麓の生息数がどの標高帯の森林面積と最も強く関係するのかを調べました。

【アキアカネの生息数は、水田よりも森林の面積と強く関係していた】
晩夏と秋の両方で、成虫の生息数は周囲5km以内の森林面積と強く関係しており、水田面積との関係はそれより弱いことが分かりました。水田のトンボとして名高いアキアカネですが、この結果は本種が意外にも森林と深く関わりのある昆虫であることを示しています(下記1.2.)。

【1.晩夏は「標高400-600mの森林の面積」が生息数と最も強く関係した(図3)】
晩夏の山麓における成虫の生息数は、周囲の標高400-600mにおける森林の面積と最も強く関係し、山麓の生息数はこの標高帯の森林面積が大きいほど多くなることが分かりました。このことから、今回観察された個体は、最近までこの標高帯の森林を利用していた可能性が高いと考えられます。
この標高帯は、夏の平均気温に換算すると23.8-25.4℃の温度帯に相当します。夏の生息地の条件は「平均気温が23℃以下」と考えられてきましたが、成虫はそれよりも暖かい場所の森林でも夏を過ごせる可能性が示されました。
本結果は、成虫がより涼しい高地で夏を過ごすことを否定するものではありません。しかし少なくとも、これまで考えられていたような高地の生息地が少ないエリアでは、中標高域の森林が夏の主な生息地となりうることを示しています。

中標高域の森林が夏の主な生息地となりうることを示している図
図3. 本研究の解析で示された、夏におけるアキアカネ成虫の生息範囲の模式図。7-8月の平均気温が23℃以下の高地だけでなく、25℃前後となる中標高域の森林も生息範囲に含まれることが示された。当該エリアの森林には、多くの個体が樹冠部などに隠れて生息している可能性がある。

【2.秋は「水田周辺エリアの半分弱が森林に覆われている場合」に生息数が最大となる(図4)】
秋の水田における成虫の生息数は、周囲5km以内のエリアの約4割が森林に覆われているとき最大となり、森林がそれよりも少ないまたは多いほど、生息数が少なくなることが分かりました。このことから、成虫が採餌や休息のために利用する森林は繁殖地からおよそ5km以内にあり、周辺エリアの半分弱が森林に覆われている水田が主な産卵場所となっている可能性が示されました。
繁殖期である秋においても、成虫はより広大な水田に集まるのではなく、むしろ餌場や休息場となる森林を起点として、その周囲にある大小さまざまな水田を主な産卵場所として利用している可能性が示されました。

生息環境(上段左から休息場がない、右:産卵場がない、下段産卵・休息ができる)を示した図
図4. 本研究の解析で示された、秋におけるアキアカネ成虫の生息環境の模式図。水田における生息数は、周囲5km以内のエリアの半分弱が森林に覆われている場合に最大となることが示された。このような関係性は、周囲の森林が少ない場合に休息場が不足し、多い場合に産卵場所が減少することを反映していると考えられる。

今後の展開

アキアカネが生息する森林の範囲は詳しく分かっていませんでしたが、今回、季節ごとに成虫の生息地となる森林の範囲を推定することができました。この成果によって、森林における成虫の生息調査の効率化や、森林内での生態の解明につながることが期待されます。
アキアカネは里山で最もよくみられる赤トンボでしたが、近年では全国的に激減しています。本種の保全のためには、繁殖場所となる水田の湿地環境を改善することが重要とされていますが、どの場所の水田を保全地とするのが効果的なのかはこれまで十分に議論されてきませんでした。本結果は、保全地を選定する際には周囲の森林面積を考慮することが重要であることを示しており、今後、本種の効果的な保全地を選定するための重要な空間的指標となると考えられます。
アキアカネのほかにも、日本のトンボ類には生息地に森林を必要とする種が数多く存在します。今後は、森林がトンボ類の生息地としてどのように重要であるのかを明らかにしていくことが課題です。

論文

論文名:Forest–associated distribution of Sympetrum frequens (Odonata: Libellulidae), a common, regionally declining meadowhawk in Japan

著者名:Wataru Higashikawa

掲載誌:Entomological Science

DOI:10.1111/ens.70031

研究費:科学研究費補助金(23K17071)

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 九州支所 森林動物研究グループ 主任研究員 東川航

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

 

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