研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > アライグマの生息密度が高いのはどこ?長期モニタリングデータを用いて生息密度の時空間変化と好適環境を推定
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2026年9月1日
北海道立総合研究機構
北海道大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所を代表とする研究チーム(森林総合研究所、北海道大学、東京農工大学)は、INLA-SPDEモデル1)という統計手法を使って、19年にわたる侵略的外来種アライグマの捕獲数、わなかけ日数2)のデータから、北海道における生息密度の変遷と、生息密度が高くなる環境条件を明らかにしました。アライグマの分布の特徴が明らかになったことで、今後、生態系への影響や人とのあつれき軽減にむけて、どの地域や環境に捕獲圧をかけるべきか、といった具体的な管理の戦略に役立てられることが期待されます。

19年間で、北海道におけるアライグマの生息密度は道央を中心に高まり、分布も広がっています。
生息密度は、河川や林縁、草地などの開けた環境や畑の多い場所などで高いことがわかりました。
侵略的外来種は、生物多様性の損失の主要な要因の1つであり、人間社会においては経済や公衆衛生への影響が懸念されています。これらの影響を効果的に低減させる戦略を立てるためには、対象となる侵略的外来種の空間的な分布パターン、そしてその種の生息密度が高くなる環境条件を知ることが重要です。
生物の生息状況を示すデータから生物の分布を推定し、それを“見える化”するには、空間をグリッド状に区切って、グリッドごとに、対象種が分布している確率や、生息密度の相対的な高低を評価します。実際の対策に分布の推定結果を結びつける上では、(1) 広域的な面積を推定の対象としながら、(2) 1つあたりのグリッドの大きさを小さくすることが望ましいと考えられますが、従来の手法では、定着途上で分布が時間的に変化するという外来種の特性、計算の負荷などの観点から、これら2つの条件を満たすことは困難でした。
本研究では、近年、生物の分布を推定する手法として注目されるINLA-SPDEモデルという統計手法に着目しました。この手法は、計算負荷が小さくなる構造をもつため、従来の手法における課題を克服できる可能性がありますが、私たちの知る限り、これまでに外来種に適用された例はありませんでした。そこで、北海道に侵入・定着し、分布拡大を続けているアライグマを対象に、2004~2022年度の19年間にわたる捕獲データに対して本手法を適用し、北海道本島における狩猟メッシュ(約5km四方)ごとの生息密度と、潜在的に生息密度が高くなる環境条件の推定を行いました。
グリッドごとの捕獲数とわなかけ日数、また捕獲数とグリッドにおける環境条件の関係をINLA-SPDEモデルに組み込み、推定を行った結果、2004年度時点では道央を中心に生息密度が高かったのが、2022年度には東西南北に生息密度の高まりが広がり、また同じ地域で見ても年々生息密度が高まっていることが示されました(図1)。そして、グリッドの中でも、河川や林縁、草地などの開けた環境、畑が広い面積を占めるグリッド、また冬の平均気温が高いグリッドで生息密度が高いことが明らかになりました(図2)。さらに、生息密度が高かったグリッドでは、時間が経過しても生息密度が高い状態が維持されていることがわかりました。
参考図

図1. INLA-SPDEモデルを用いて19年にわたる捕獲データを使って推定された北海道におけるアライグマの生息密度の指標(CPUE)の変遷。値が大きいところほど生息密度が高いことを表す。Yamaguchi et al. (2026) Journal of Applied Ecologyより転載。

図2. アライグマの生息密度と狩猟メッシュ内の環境条件の関係。黒い点が推定の中央値、黒い線は95%信頼区間(推定の幅)を示す。黒い線が0を跨いでいないものは、統計的に意味のあると捉えられる。係数値が正の場合は、その環境が多い、あるいは高いと、生息密度が高いことを意味する。反対に負の場合は、その環境が多い、あるいは高いと、生息密度が低いことを示す。yamaguchi et al. (2026) Journal of Applied Ecologyを元に作成。
本手法は、その計算負荷の低さから、即時的な推定が必要とされる実務的な運用において有用な手法と言え、例えば本種のようにわなを使って捕獲を行うような他の外来哺乳類などにも適用できることが期待されます。
また、高い生息密度が維持されている地域については、優先的に対策を導入すべき場所と考えることができます。そのような地域において、アライグマの生息密度が高まるような環境で捕獲を行うことで、アライグマの生息密度の低減、ひいては生物多様性への影響や人とのあつれき緩和に貢献できることが期待されます。
アライグマの捕獲データの収集には、関係機関、捕獲従事者の方々の多大なるご協力をいただいておりますことに、心より感謝を申し上げます。
1)INLA-SPDEモデル:ラプラス近似によって計算を高速化するIntegrated Nested Laplace Approximation(INLA)と、隣り合う空間の関係を考慮するStochastic Partial Differential Equation(SPDE)を組み合わせた統計手法。生物の生息状況を示すデータから分布を推定するためなどに使われる。(元に戻る)
2)わなかけ日数:北海道ではアライグマの主要な捕獲は箱わなによって行われています。わなかけ日数はわなを何台、それぞれ何日設置したのかという捕獲の努力を示す指標です。この指標がわかることで、捕獲努力を高めるほど捕獲数が増えることを踏まえたアライグマの生息密度の程度を知ることができます。(元に戻る)
論文名:Identifying spatiotemporal patterns of relative abundance and potential source environments in an invasive non-native species using an INLA–SPDE model(INLA-SPDEモデルを用いた侵略的外来種の時空間的な相対密度の分布と好適環境の特定)
著者名:Saya Yamaguchi1,2, Hayato Iijima3, Mayumi Ueno4, Hiroyuki Uno2(山口沙耶1,2・飯島勇人3・上野真由美4・宇野裕之2)
著者所属:1Hokkaido Research Organization, 2Tokyo University of Agriculture and Technology, 3Forestry and Forest Products Research Institute, 4Hokkaido University(1北海道立総合研究機構、2東京農工大学、3森林総合研究所、4北海道大学)
雑誌名:Journal of Applied Ecology(応用生態学の専門誌)
DOI:https://doi.org/10.1111/1365-2664.70525
公表日:2026年9月1日(火曜日)オンライン公開
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