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プレスリリース

2026年9月11日

新潟大学
九州大学
岡山大学
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
東北大学
アジア大気汚染研究センター
北海道大学

乾湿繰り返しによる土壌CO2放出増大の原因を解明
—金属と有機物の結合が鍵、気候変動下の炭素循環予測の精緻化へ—

ポイント

  • 乾湿繰り返しが土壌CO2放出に及ぼす影響を北海道の表層土壌と埋没腐植層で検証
  • 特に埋没腐植層で、乾湿繰り返しによるCO2放出増大が微生物バイオマス注1量を凌駕
  • 重要な土壌炭素安定化機構である活性金属―有機物錯体成分注2の破壊が土壌CO2放出の増大にも寄与する可能性

概要

地球全体で土壌の有機炭素注3の微生物分解により放出される二酸化炭素(CO2)の量は人為的CO2排出量の約5倍に相当しているため、気候変動が土壌のCO2放出動態に及ぼす影響を明らかにすることが重要です。
新潟大学農学部の永野博彦助教と同大学大学院自然科学研究科博士後期課程の鈴木優里さん(大学院生)の他、九州大学、岡山大学、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、東北大学、アジア大気汚染研究センター、北海道大学などの研究者で構成される研究グループは、北海道の森林で採取した表層土壌と埋没腐植層(過去の火山灰堆積により下層へ埋没した過去の表層土壌)を対象に室内培養実験を行いました。その結果、気候変動下での豪雨や干ばつといった極端気象の頻発化で危惧されるこれまでに経験のない土壌の極度の乾燥と湿潤の繰り返し(乾湿繰り返し)により、CO2放出量が大きく増大することが示されました。特に埋没腐植層では、CO2放出増大量が微生物バイオマス量よりも遥かに大きく、土壌炭素の安定化に寄与すると従来考えられてきた活性金属―有機物錯体成分の分解が促進される可能性が示されました。本成果は、本研究グループによる2025年の先行研究注4を支持するものであり、大きな不確実性が残されたままになっている気候変動下の炭素循環予測、さらには地球環境変化の将来予測の精緻化に貢献することが期待されます。

研究の背景

大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇は、地球の温暖化を引き起こし、さらには地球規模での水の大循環にも影響を及ぼすことで、世界各地の降水パターンを大きく変化させつつあります。こうした降水パターンの変化は、単なる年間降水量の増減だけでなく、極端豪雨や干ばつなど極端気象の頻度を増大させ、土壌の乾燥と湿潤の繰り返し(乾湿繰り返し)を引き起こすことが危惧されています。この乾湿繰り返しは、地球上で最大級の炭素貯蔵庫である土壌における有機炭素の分解とそれに起因したCO2放出(地球全体で人為起源排出量の約5倍に相当)に大きく影響を及ぼす可能性があります。特に、乾湿繰り返しが土壌CO2放出を増大させる可能性は古くから指摘されてきました。本研究チームによる国内各地の10地点の土壌を使った2025年の先行研究では、土壌中の活性金属と有機物で形成された錯体成分の存在量が多い土壌ほど、乾湿繰り返しによるCO2放出の増大率が大きいことを見出しました。このことは、土壌有機炭素の重要な安定化機構であると考えられてきた活性金属―有機物錯体成分が、乾湿の繰り返しにより破壊されることで、これまで分解を免れてきた有機炭素を微生物に供給する新たなCO2放出源となる可能性を示しましたが、本メカニズムについては更なる検証が必要な状況でした。

研究の成果

本研究では、北海道大学苫小牧研究林や九州大学北海道演習林で採取した表層土壌と埋没腐植層(過去の火山灰堆積により下層に埋没した過去の表層土壌)を、降水パターンの変化に伴う乾湿繰り返しを模擬した条件で28日間室内培養し、CO2放出量の変化を評価しました。その結果、全ての土壌においてCO2放出量は乾湿繰り返しにより増大しました(土壌水分量が変化しない条件に対し1.4~4.8倍のCO2放出量)。特に、微生物バイオマスに乏しい一方、活性金属―有機物錯体に富む埋没腐植層におけるCO2放出増大量は培養開始時の微生物バイオマスや培養中の微生物バイオマス減少量の2倍程度と遥かに大きく、従来指摘されてきた乾湿繰り返しに伴う微生物細胞の破壊由来の炭素供給だけでは、CO2放出増大を説明できないことが示されました。加えて、埋没腐植層で活性金属―有機物錯体として存在する有機炭素量はCO2放出増大量の約90倍に達することも分かりました。本研究グループの先行研究で見いだされた乾湿繰り返しによるCO2放出増大率と土壌中の活性金属―有機物錯体量との正の相関は、今回の研究データを加えても成立しました。これらのことは、土壌有機炭素の重要な安定化機構として考えられてきた活性金属―有機物錯体成分が、乾湿繰り返しにより不安定な状態になることで、これまで分解を免れてきた有機炭素を新たに分解可能な炭素源として微生物に供給する可能性を示しています。また、活性金属―有機物錯体成分の存在量が乾湿繰り返しによるCO2放出増大規模の予測因子になることも示唆しています。

概要図
図1. 本研究で提示された乾湿繰り返しによる土壌のCO2放出増大メカニズム

今後の展開

本研究成果は、温暖化に伴って顕在化する極端気象現象が土壌CO2放出に及ぼす影響の詳細解明に繋がるものであり、大きな不確実性が残されたままになっている気候変動下の炭素循環予測、さらには地球環境変化予測モデルの精度向上に資することが期待されます。今後は、実際の屋外環境での影響評価・メカニズム検証なども実施していく予定です。

研究成果の公表

本研究成果は、2026年9月4日(国際標準時)、日本地球惑星科学連合(JpGU)の科学誌「Progress in Earth and Planetary Science (PEPS)」に掲載されました。

論文

論文タイトル:An evaluation on contribution of organo–metal complexes to enhanced soil CO2 release during drying–rewetting cycles using buried humic horizon soils

著者:Yuri Suzuki, Syuntaro Hiradate, Jun Koarashi, Mariko Atarashi-Andoh, Kazuki Suzuki, Masataka Nakayama, Yukiko Abe, Kouki Hikosaka, Hirofumi Kajino, Hiroyuki Sase, Rieko Urakawa, Hirohiko Nagano

DOI:10.1186/s40645-026-00843-6

謝辞

本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP21H02231, JP21H05313, JP21H05316, JP22H05717, JP26K01863)などの支援を受けて行われました。

用語解説

注1)微生物バイオマス
土壌中に微生物として存在している有機物の量であり、土壌の全有機炭素量の1%程度である一方、植物が利用可能な栄養成分の供給源でもあり、農業生産環境のうち特に土壌肥沃度の重要指標の一つとして古くから研究されてきました。(元に戻る

注2)活性金属―有機物錯体成分
土壌に存在する活性金属―有機物錯体成分は、反応活性の高いアルミニウムや鉄と結合した土壌有機物を主体とする土壌成分であり、ピロリン酸ナトリウム溶液によって抽出可能な成分として定義されています。日本に広く分布する火山灰性土壌(黒ボク土)中において、有機炭素が高濃度で長期間安定的に蓄積されている主要因の一つと考えられています。(元に戻る

注3)有機炭素
全球において土壌中に存在する有機炭素の量は植物体存在量の3~4倍、大気存在量の2~3倍に達しており、陸域で最大の炭素プールとなっています。(元に戻る

注4)2025年の先行研究
Suzuki, Y., Hiradate, S., Koarashi, J., Atarashi-Andoh, M., Yomogida, T., Kanda, Y., & Nagano, H. (2025). Comprehensive increase in CO2 release by drying–rewetting cycles among Japanese forests and pastureland soils and exploring predictors of increasing magnitude. SOIL, 11(1), 35–49. https://doi.org/10.5194/soil-11-35-2025
国内で採取した10土壌を対象に土壌培養実験を実施し、乾湿繰り返しに伴うCO2放出増大がいずれの土壌においても発生することを示しました。また、土壌中の活性金属と有機物で形成された錯体成分の存在量が多い土壌ほど、乾湿繰り返しによるCO2放出の増大率が大きいことも見出しました。
(2025年1月21日,新潟大学プレスリリース「乾燥と湿潤の繰り返しが土壌のCO2放出を増大させることを解明」https://www.niigata-u.ac.jp/news/2025/771922/(外部サイトへリンク) 別ウィンドウで開きます)(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 立地環境研究領域 任期付研究員 阿部 有希子

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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