研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > 茨城県つくば市におけるロードキル(動物の交通事故死)データベースを公開 —市民の通報・自治体の回収・研究者の検証が明らかにした11年間1万1,464件の記録が示す実態—
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2026年10月5日
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所、東京大学、筑波大学、一般財団法人自然環境研究センター、合同会社甲斐けもの社中の研究グループは、市民からつくば市役所に寄せられた11年間の道路上の動物死骸回収データをデジタル化・検証し、つくば市全域の公共道路網を対象としたロードキルデータセットを構築しました。
11,464件のロードキルデータには、ペット動物のイエネコが最多で4,348件、次いで在来種タヌキが2,856件、外来種ハクビシンが1,444件、近年侵入した特定外来生物アライグマが592件等となり、ペット動物の路上死、在来種の生息状況、特定外来生物の分布拡大の実態が明らかになりました。
本データセットは、通報者である市民、行政サービスを提供する自治体と委託業者、科学的検証を担った研究者と、3つの異なる主体が関わることにより、既存の情報からこれまでにない高精度な記録として公開されたものです。これにより、ネイチャーポジティブを目指す社会に必要な様々な分析が可能になることが期待されます。
本研究成果は、2026年8月5日に国際学術誌「Scientific Data」及び世界的な生物多様性データベースである「GBIF」に公開されました。

図1 本研究の主要結果の概要
ロードキルは、人間活動の拡大に伴う道路インフラの整備によって、人間と動物の活動範囲が重なったことで生じる軋轢です。交通安全上の課題のみならず、動物の生息への影響等、自然環境の面からも深刻な課題となっています。一方で、いつ・どこで動物のロードキルが発生したのかという情報には、動物の生息環境や生物多様性の評価、特定外来生物*1の侵入状況の把握等、私たちがネイチャーポジティブ*2な社会を目指すうえで有用な情報が含まれています。
ロードキル情報を効果的に記録するためには、科学的なデータ収集において一般の市民がデータの発見や記録に関わる市民科学というアプローチが有効だと考えられています。日常的に道路を利用する無数の一般市民がロードキルの発見者となり得ることから、市民科学によるロードキル調査は、研究者のみではなし得ない広範囲かつ膨大な記録の集積を可能にします。近年、世界中でロードキル専用の通報アプリや窓口が整備されており、そこには科学への貢献を「意図した」市民による多くの報告が集まっています。
しかし、こうした従来型の市民科学には、生物に関心のある特定の層しか参加しない、参加者のモチベーション維持が難しく、長期的な監視が困難であるという課題がありました。これに対し、研究グループが着目したのが、行政の道路安全管理や公衆衛生の維持という日常実務に端を発する、市民からの動物死骸の回収依頼データです。これは、自然保護や科学への貢献を「意図していない」一般市民から自発的に発生する、いわば「意図せざる市民科学」*3のデータ資源です。日常の困りごとに基づく通報だからこそ、参加者の関心や飽きに左右されず、身近な動物の事故死が長期にわたって記録され続けます。これらのデータが活用できれば、低コストでありながら、市域全体をカバーする広域的なロードキルの発生傾向を長期にわたり追跡できる、革新的なデータ構築システムとなります。
研究グループは、茨城県つくば市の行政サービスとして行われている制度に着目しました。つくば市では、市民の通報に基づいて市の委託回収業者が死骸を回収し、動物種、日付、場所等を記録しています。つくば市内の高速道路を除いた道路の総延長は3,956kmあり、全域を収集範囲としてロードキル情報が集められています。
つくば市に集積された市民からの通報・受付記録(地図、手書きメモ等)と、回収委託業者が撮影した現地写真や作業報告書等の行政記録を精査しました。その結果、11年間(2005〜2007年、および2016〜2025年)に14,249件の通報記録が存在し、そのうち不確実な位置情報や無効報告等を除外した11,464件の有効なロードキルデータベースを構築することができました。これらの記録には、動物の死骸がいつ・どこで・どんな状況で記録されたか、さらには市民や委託業者に何の種と認識されたか(どんな種が誤同定されたか)という詳細な情報も含まれていました。例えば、最終的に研究者が写真からアライグマと判定した記録について、市民はネコと通報し、業者はタヌキと記録し報告書を作成した、といった三者間の認識のズレの履歴が分かります。このような非専門家特有の誤同定の傾向を定量的に評価できるデータは世界的にも稀であり、今後、世界各地の市民科学データにおける種の誤認識を補正するための検証基盤として活用できます。
ロードキル記録の内訳はペット動物のネコが最多で4,348件(全体の38%)、次いで在来種のタヌキが2,856件(25%)、外来種ハクビシンが1,444件(13%)、特定外来生物アライグマが592件(5%)等となり、ペット動物の路上死、在来種の生息状況、特定外来生物の分布拡大の実態が明らかになりました。最多を記録したネコの記録は、屋外のネコ(放し飼いネコ、ノラネコ)が交通事故リスクにさらされている現状を示しています。この状況を改善するためにも法律が定める飼いネコの室内飼育の努力義務*4の周知の徹底や、ノラネコを増やすことにつながる無秩序な餌やりを控えることが求められます。在来野生動物の代表であるタヌキの記録は、森林や農地等の自然環境と道路網が近接する都市やその近辺において、野生動物の生活圏と車社会が複雑に交差している実態を客観的に示しています。そして、特定外来生物アライグマは、直近10年間において急激に事故死の範囲と件数が増加し、市内各地へ現在進行形で拡散している実態が明らかになりました。
これらのロードキルデータは、データ収集が多様な市民の自発的な行動に委ねられているため、情報の解釈に留意すべき点があります。まず、本研究の記録を実際のロードキルの数とみなすことは、実態より過小評価となる可能性があります。市民の報告に頼っていることから、通報後に業者側がロードキルを見つけられなかった場合、ロードキルを見つけた市民がそもそも市へ通報しなかった場合、そして、誰もロードキルの存在に気付かなった場合等、様々な要因で記録に残らないロードキルの発生があります。こういった背景から、データの示す場所の解釈も注意が必要です。ある場所に動物がいたという記録は、その場所が動物の多い環境であったというだけでなく、市民が見つけやすい場所であったという性質が重なっている可能性があります。専門の調査員が一定のルールで集めたデータとは異なり、市民の生活行動に伴う偏りのあるデータではありますが、それは逆に複雑な動物と人の関係を解明する鍵になるかもしれません。
本データベースは、研究者の調査の手が届きにくかった都市近郊林とその周辺の境界環境における動物の活動を、市域全体で長期的に可視化したこれまでにないデータ基盤です。本データセットの公開は、断片化が進む都市近郊林の保全デザインや、人間社会と隣接する森林の適切な維持管理において、これまで不足していた動物の空間利用実態を評価するための科学的な知見を提供するものです。今後の都市森林管理研究を推進する基盤となることが期待されます。
そして、本研究の最大の強みは、通報者である市民、行政サービスを提供する自治体と委託業者、科学的検証を担った研究者の、3つの異なる主体が関わることにより、「意図せざる市民科学」を活用した科学的なデータセットを構築した点です。最終的に、既存の情報から様々な分析を可能にする、オープンデータとして公開されました。市民による報告に基づくロードキルデータの収集は、全国各地の自治体で実施されているものの、その多くは活用可能な形で取りまとめられているとは言い難い状況にあります。本研究と同様に、既存のデータを活用可能な形に整備すること、低コストでネイチャーポジティブな社会の実現に向けた様々な分析が促進されることが期待されます。
論文名:An 11-year spatiotemporal roadkill dataset from Tsukuba, Japan
著者名:Shoma Jingu, Minami Unno, Yui Ogawa, Ryota Aizawa, Keisuke Yamamoto, Tomoro Mukai, Saya Sunada, Yuya Watari
掲載誌:Scientific Data
DOI:10.1038/s41597-026-08027-z
研究費:日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI 24K20980)
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
東京大学 大学院農学生命科学研究科
筑波大学 生命環境系 / 生命地球科学研究群
一般財団法人自然環境研究センター
合同会社甲斐けもの社中
*1 特定外来生物
人間の活動によって、もともとその地域にいなかったが他の地域から入ってきた「外来種」のうち、特に日本国内の生態系や農業に影響を与えている生物として法律で指定された種のこと。(元に戻る)
*2 ネイチャーポジティブ
人間の活動による自然や生物多様性の損失を食い止め、プラスの方向へ反転させて回復軌道に乗せること。(元に戻る)
*3 意図せざる市民科学
市民が科学的な調査やデータ収集を目的とせず、日常生活の延長で行った行為の結果、副次的に科学的で価値のある大規模データが生まれ、研究に活用されること。(元に戻る)
*4 飼いネコの室内飼育の努力義務
環境省の「動物の愛護及び管理に関する法律」の「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」において、飼いネコの室内飼育が努力義務に定められています。(元に戻る)
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