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更新日:2012年7月18日
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東北支所 | 森林生態研究グループ | 金指 達郎 |
林業科学技術振興所(元:多摩森林科学園) | 横山 敏孝 |
スギ花粉症は今や「国民病」と呼ぶのがふさわしくなってしまった。その苦痛を和らげるための一助とするべく、全国各地で「花粉飛散予報」がマスコミで報じられるようになった。しかし、その多くは経験則によっていて、科学的根拠がハッキリしない場合が多い。科学技術庁(現文部科学省)は1997年に「スギ花粉症克服に向けた総合研究」を開始した。その中で花粉予報に関する研究グループは、関東地方をモデル地域として、科学的根拠に基づいた「花粉飛散量数値予報モデル」の開発に取り組んできた。ここでは、このモデルの運用に不可欠な「スギ雄花の開花時期予測」の研究を紹介したい。
スギ雄花は前年11月初旬までには発育を停止し休眠する。休眠とは、成長するのにふさわしい条件におかれても成長できない状態のことをいう。スギ雄花の休眠は低温刺激を受けることによって、眠りからさめるように徐々に浅くなっていく。低温刺激を受けた雄花は、暖かくなるとその状況に応じて少しずつ成長を再開し、ある時点で開花して花粉を放出する。このように、休眠以降のスギ雄花の発育過程には温度条件が大きく関与する。そこで、雄花の開花時期を予測するために、この一連の過程を以下のようにモデル化した。
このモデルの予測精度を確認するために、開花調査を行った試験地における実際の開花データと、現地での温度データを用いてモデルで予測した結果とを比較した。図1に示した年は、平年より寒い冬だったが3月中旬に急に暖かくなり、多くの木が短いタイムラグ(7日程度)で一斉に開花した。モデルによる予測結果はこの状況をよく表現しており、ほぼ正確に開花日を予測できたとみなせる。この例を含めた7件の事例についても、おおむね良い精度で開花日を予測できた(表1)。この結果から、現地の気温の推移を正確に予測できれば、このモデルでスギ雄花の開花を予測することが可能であると考えられる。
この開花時期の予測手法は、すでに首都圏における「花粉飛散予報」に利用されている。ただし、他の地域における開花を予測することは今のままのモデルでは難しいと思われる。それぞれの地域のスギは地域の環境に適応しているはずであり、モデルに必要なパラメータが関東地方とは異なる可能性が高いからである。他の地域での開花時期を予測するためには、この点を解決することが必要である。
なお、本研究は文部科学省の科学技術振興調整費生活者ニーズ対応研究「スギ花粉症克服に向けた総合研究」による。
図1 群馬県子持村試験地における気温(A)と雄花発育状況の予測結果(B)
(2000年〜2001年のシーズンの事例)
A:黒の太線は日平均気温、細線は最高、最低気温を示す。 ピンク色は日平均気温の7日間移動平均
B:右上部の緑色のバーは開花が始まった日の範囲
Sr、Cg、Soは、それぞれ雄花の休眠状態、成長能力、生育段階の指標。So=1に達したときに開花しはじめる。
So (10%):雄花の成長が早い個体のSoの推定値, So (90%):雄花の成長が遅い個体のSoの推定値
開花年 | 開花予測日(月.日) | 開花観測日(月.日) | 予測のズレ | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
10% | 90% | 10% | 90% | 10% | 90% | ||
子持村試験地 (群馬県) |
1998 | 3.04 | 3.24 | 3.04 | 3.22 | ±0 | △2 |
1999 | 3.04 | 3.16 | 3.09 | 3.18 | ▲5 | ▲2 | |
2000 | 3.24 | 4.04 | 3.22 | 4.02 | △2 | △2 | |
2001 | 3.16 | 3.23 | 3.18 | 3.25 | ▲2 | ▲2 | |
上総試験地 (千葉県) |
1998 | 3.01 | 3.14 | 3.01 | 3.15 | ±0 | ▲1 |
1999 | 2.27 | 3.07 | – | – | – | – | |
2000 | 3.07 | 3.20 | 3.06 | 3.21 | △1 | ▲1 | |
2001 | 3.10 | 3.20 | 3.02 | 3.17 | △8 | △3 |
10%、90%は、調査枝のうちそれぞれ累積10%あるいは90%が開花した日を示す。
△は実際の開花より遅く予測した日数、▲は早く予測した日数
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