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更新日:2012年7月18日
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林業経営・政策研究領域 | 林業動向解析研究室 | 嶋瀬 拓也 |
木材加工分野での技術開発や建築に関する法令の整備などに伴って、建築分野における木材需要は急激に変化している。建築分野は木材のもっとも重要な市場であり、木材産地はそのような需要の変化に的確に対応していく必要がある。
こうした状況のもと、近隣地域で生産された木材を積極的に用いて住宅を建築しようとする運動(以下、「地域材による家造り運動」とする)が各地で活発化してきた。そこで、この運動に注目し、国産材需要拡大策としての可能性を検討した。
地域材による家造り運動を実践する団体として、この運動を支援するNPO(特定非営利活動法人)の調べでは114団体が確認されている(2001年7月現在)。このうち従来から「産直住宅団体」として認知されていた団体を除いたものは78団体であり、その所在地は29都道府県にわたる。運動の実態把握を目的として、これらの78団体を対象としたアンケート調査(回収数36団体)と、実践団体への聞き取り調査を行った。
アンケート調査の結果から活動を開始した時期についてみると、1995年以降とする団体が9割に達し、ごく最近になって活発化してきたものであることが確認された。活動の提唱者が設計事務所・建築家だったとする団体は5割、大工・工務店(建築工事業者)だったとする団体は4割で、川下主導の運動といえるが(図1)、6割の団体で製材業者が、4分の1の団体で林家がメンバーに加わっており、さまざまな業種の連携によって成り立っている運動であることが特徴といえる(図2)。
最近1年間の新築戸建住宅の受注実績は合計801棟(有効回答数23団体)であって、名簿のもれや回収率を考慮しても住宅市場に占めるシェアが大きいとはいえない。また1団体あたりの年間受注棟数は35棟で、10棟未満の団体が5割を占め(図3)、個別の事業規模も小さいものが多い。したがっていまのところ、この運動で用いられる木材の量は地域レベルでみたとしてもごく限られたものであり、地域材需要の拡大に量的な面で大きく貢献しているとは考えにくい。
しかし実践団体に対する聞き取り調査の結果によれば、(1)国産材や伝統工法にこだわった住宅を供給する、(2)環境問題への関心が高まっていることを受け、地域材の使用を地域環境の維持・改善の一方策と位置づけて消費者にアピールする、(3)消費者を対象として森林に関するセミナーや山林作業の体験実習などを実施し、消費者と生産者が互いに「顔が見える関係」となるように努めている―という3点で、大手ハウスメーカーには対応しにくいニーズを捉えようとしており、小さい市場ながらも底堅い需要が期待できる。加えて、立場の異なる多様な主体からなるグループによって運営されているため、川上–川下間の情報交換の活発化や相互理解の深まりがみられることが明らかになった。
実践団体の多くは小・零細規模業者の集まりのため、(1)組織体制が脆弱である、(2)住宅の品質の安定化が難しい—といった問題に直面しており、運営に対する支援制度の拡充や、製材品ストックヤードの整備などの公的支援を求める声がある。
地域材による家造り運動はいまのところあくまでニッチ(隙間)市場であるが、最終消費者に木材産地名を認知させうる運動であることから、地域材の知名度の向上、ブランド化につながる可能性もある。(1)国産材の需要拡大・高付加価値化の方策に多様性を持たせる、(2)小・零細規模の業者に適した需要拡大策である—というふたつの意味で重要な動きと考えられ、引き続き注視していくつもりである。
図1 活動の提唱者は?(有効回答数36/36)
図2 活動の提唱者は?(有効回答数36/36)
図3 2000年(年度)の受注実績は?(有効回答数23/36)
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