研究紹介 > 刊行物 > 研究成果選集 > 平成13年度 研究成果選集 2001 > 落葉広葉樹林における林床面CO2放出量の長期連続測定―川越森林気象試験地―
更新日:2012年7月18日
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気象環境研究領域 | 気象研究室 | 溝口 康子、大谷 義一、渡辺 力、安田 幸生 |
科学技術振興事業団 | 科学技術特別研究員 | 戸田 求 |
気象環境研究領域 | 防災林・気象害研究室 | 岡野 通明 |
CO2は地球温暖化を促進する気体(温室効果ガス)の一つであり、森林がそのシンクともソースともなることから、森林生態系におけるCO2動態の解明が望まれている。森林生態系におけるCO2収支は、光合成によるCO2の吸収と、葉や幹の呼吸によるCO2放出および林床面からのCO2放出で構成される。林床面からのCO2放出量は、その季節変化が大きいことに加え、森林生態系におけるCO2収支の中で大きな割合を占めるので、林床面からのCO2放出に影響を及ぼす環境因子との関係をより正確に把握する必要がある。しかし、これまで精度の高い長期連続測定は行われていない。本研究では、林床面CO2放出量を定量的に評価するために必要な、長期連続測定を可能とする自動開閉型チャンバを用いたシステムを構築し、林床面CO2放出量の季節変化やCO2放出量に及ぼす環境要因の影響を解析した。
林床面CO2放出量を連続測定するために、パーソナルコンピュータを使用して、CO2濃度分析器、電磁弁、チャンバの蓋の開閉を制御し、測定を自動化した(写真1、2)。この方法は従来の手法と異なり、測定のために蓋を閉める時間以外は、チャンバ内の空気は周囲の空気と自由に交換するため、測定条件をチャンバ外の環境に近づけることができた。また、測定がすべて自動化されていることから、測定間隔を短くでき、天候に左右されず降雨中にも測定が可能となった。
この自動開閉型チャンバを、埼玉県にある川越森林気象試験地の落葉広葉樹林内に設置し、林床面CO2放出量の測定を行った。図1の観測例のように、降雨中に林床面CO2放出量が一時的に減少する場合と、逆に上昇する場合がみられた。降雨強度や土壌体積含水率などの違いが原因と考えられる。従来、室内実験から定性的に述べられてきた事柄が、この現地の観測データとして得られるようになったことは、森林生態系のCO2収支に関わる実証的研究や、モデルパラメータを決定する上で重要な意味を持つ。さらに、連続したデータの積み重ねとしての長期データが得られ、図2のような、地温や土壌水分の影響を細かく反映した林床面CO2放出量の季節変化が明らかになった。林床面CO2放出量は、基本的に地温の上昇・低下の変化にともなってそれぞれ増加・減少した。また、夏季(8月下旬から9月上旬)の土壌が乾いた時期には、地温が高いにもかかわらず、一時的に林床面CO2放出量が減少した。林床面CO2放出量には、地温に加え、土壌水分も環境因子として大きく影響していることが、現地観測から明らかになった。
本研究で得られた成果は、森林群落におけるCO2収支の配分を量的に評価するための研究において、その測定精度の向上に大きく寄与する。また、林床面CO2放出量変化に及ぼす環境要因の影響を、これまで以上に詳細に議論することが可能となり、その動態解明に役立つことが期待される。
なお、本研究は交付金プロジェクト「森林、海洋等におけるCO2 収支の評価の高度化」による。
写真1 チャンバ制御装置
写真2 自動開閉型チャンバ(オープン時)
図1 林床面CO2放出量が一時的に減少した降雨日の土壌水分および林床面CO2フラックスの日変化
図2 土壌体積含水率・林床面CO2フラックスおよび地温の季節変化
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