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更新日:2010年6月1日

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自然探訪2008年12月 危険な果実 マンサク

危険な果実-マンサク(Hamamelis japonica

大都会の真ん中で火薬が大爆発し、大きな被害を出した事件が記憶に新しい。よもや、人口密集地である都市部で、このような火薬が取り扱われているなどとは誰も考えもしなかったので、周辺に与えた衝撃、恐怖は計り知れなかったと思う。マンサクも、そんな恐怖を味あわせてくれる。マンサクの果実は、実に硬い(写真1)。この果実から種子を取り出すのは難しく、その辺に果実を放り出しておくと大変なことが起きる。バシッという音とともに、勢いよく種子が飛び出し、部屋の中に飛び散る。しかも、なぜか、果実はほぼ同時期に裂開するものだから、少し大げさだが、種子が部屋中に飛び交うことになる。まさしく機械的種子散布、すなわち、果実が成熟、乾燥することで果皮が裂開、その力で種子を弾き飛ばし、遠距離に種子を散布するシステムである。こうした種子散布の代表的な植物種としては、ホウセンカやその仲間のツリフネソウ属(Impatiens)、あるいはカタバミ属(Oxalis)、マメ科植物にも見られる。しかしながら、マンサクほど強烈に広範囲に種子を散布させる種を日本では見たことがない。ただし、この現象は室内でのみ観察されたので、野外で同様の現象が見られるかどうかは定かでない。

マンサクは、マンサク科(Hamamelidaceae)マンサク属に属する落葉性の小高木で、樹高は、時として10m以上にもなる(写真2)。本州、四国、九州に分布するが、中国地方、四国には葉の裏に星状毛の多いアテツマンサク(var. bicbuensis)、北海道から本州の日本海側には葉の先が丸いマルバマンサク(var. obtusata)といったマンサクの変種が見られる。マンサク属は北アメリカと東アジアに6種ほど分布しているとされる。また、日本の静岡、三重など一部地域に分布するトクワマンサク(Loropetalum chinense)は、同じマンサク科ではあるが、属が異なる。

マンサクは、春を告げる樹木の花の一つで、冬枯れの木立の下層に金糸のようなねじれた黄色の花弁を持つ花を多数咲かせ、目立つ。こうしたことから、「まずさく」が転じて「マンサク」という名が付けられたとの説もある。また、春先に多数の花をつけることから「豊年満作」を象徴するものとして、「万作(マンサク)が名づけられたとの説もある。いずれにせよ、おめでたい樹木ではあるが、その後は目立たない。種子を散布させる手立てとしては、単に芸もなく落ちる重力散布から、種子に翼や冠毛をつけて遠距離散布を狙う風散布、また、動物の被食、貯食行動を利用した動物散布などあるが、マンサクはかたくなに果皮の中に種子を閉じ込め、動物の被食から種子を守り、最後に勢いあまって種子をはじき出す戦略をとっているようである。晩秋の落葉期、マンサクは黄変した葉を落とし、厳しい冬を乗り越え、翌春の再デビューに備える(写真3)。

写真1
写真1

写真2
写真2

写真3
写真3

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