今月の自然探訪 > 自然探訪2011年 掲載一覧 > 自然探訪2011年12月 照葉樹林
更新日:2011年12月1日
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南北に長い日本列島は、北海道の針広混交林から沖縄のマングローブ林まで多種多様な森林が存在しています。その中でも照葉樹林は西日本を中心に広く分布しており、我が国の代表的な森林のひとつです。照葉樹林(lucidophyllous forest)とは、常緑広葉樹からなる森林の名称であり、厚いクチクラ層を持つ葉によって光沢のある林冠を形成することから名付けられました。スダジイ、タブノキ、カシ類(アカガシやウラジロガシ)などが高木層を形成する一方で、下層の亜高木層や低木層にはヤブツバキ、サカキ、ヒサカキなど私たちの生活に身近な木も多く見られます。また、古くから薪炭林として利用されてきた森林では、萌芽による世代交代が継続して行われてきたため、萌芽能力の高いコジイが優占する二次林となっています。
赤道付近の熱帯林から連続的に常緑広葉樹を主体とする森林が分布していますが、日本の照葉樹林は北半球における常緑広葉樹の分布の北限および東限に相当します。同じ常緑広葉樹の森林であっても、冬雨・夏乾燥の地中海性気候下に生育する硬葉樹林(sclerophyllous forest)と異なり、日本を含む東アジアの中緯度に成立する照葉樹林は、比較的温暖で夏期に多雨というモンスーン気候の恩恵を受けています。日本国内の照葉樹林の水平分布は内陸では関東平野周辺に北限がありますが、海沿いでは細長く分布域を伸ばしており、その分布の北限は青森県南部のタブノキ林となっています。また、垂直分布では耐凍性の高いアカガシが落葉広葉樹でもあるブナと混交することが知られており、九州では標高1000mくらいまで生育しています。
照葉樹林の分布する地域は、気候が温暖であるが故、古くから人間の活動による影響を強く受けており、その多くが農耕地や針葉樹人工造林に改変されてきた経緯があります。暖温帯域では潜在的に照葉樹林であると考えられる森林のうち、原生状態に近い森林とみなせるのはわずか0.06%との指摘もあります。自然状態の高い林分は、西表島、屋久島や宮崎県綾町周辺などにわずかに残存するのみとなっており、これら残存林分も孤立・分断化が進んでいるのが現状です。
写真1 照葉樹林の代表的な種であるタブノキ。
厚いクチクラにより葉に照りがある。(熊本県水俣市)
写真2 照葉樹林の林冠
カリフラワーのような形の木が寄り添って凸凹の林冠を形作っている。
(宮崎県東諸県郡綾町)
写真3 自然状態の高い照葉樹林 (鹿児島県伊佐市)
写真4 かつて薪炭林として利用されていた照葉樹二次林(鹿児島県伊佐市)
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