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更新日:2016年7月1日

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自然探訪2016年7月 虻蜂(あぶはち)取らず

虻蜂(あぶはち)取らず

「虻蜂(あぶはち)取らず」ということわざがあります。欲張るとどっちも得られないという意味ですが、最近では「二兎を追う者は一兎をも得ず」の方がよく使われているそうで、聞き慣れない方もいるかもしれません。いくつかの辞書を読んでみると、「クモの網にかかった虻と蜂を両方取ろうとした」「小鳥が虻と蜂を食べようとした」など諸説あり、誰が、なぜ虻と蜂を取ろうとしたのかは分かりません。

写真1はなんとか「虻蜂撮れた」写真です。ナミハナアブ・ナミホシヒラタアブ(虻)とセイヨウミツバチ(蜂)は黄色と黒の「危険そうな」色をしていますが、アブ(ハエの仲間)は針をもっておらず刺しません。一方、セイヨウミツバチはハチの仲間で毒針を持っているので刺すことがあります(攻撃性はスズメバチほど高くないので、よほどちょっかいをかけないかぎり刺されることは少ないです)。ハチ類は一般に胸と腰の間がくびれていますが、アブ類はくびれがほとんどない(写真2)ので、虫に詳しい人が見ればすぐに分かりますが、多くの方は見間違えてしまいます。

スズメバチやアシナガバチのような攻撃性の高いハチ類は派手な黄色と黒のしま模様が多く、これらを「警戒色」と呼びます。あえて目立ちやすい体色を持つことにより、捕食者への警告を発して自分の安全を確保していると考えられています。黄色と黒の組み合わせはヒトにも本能的に危ないと思われているので、踏切の配色にも利用されています。その「危険だ」という警戒色をアブの仲間は利用して「自分は警戒色を利用してるから危ないよ」と示し、鳥などの捕食者に食べられないように似せることを「擬態」と呼びます。ハチへの「擬態」は全く別種であるカミキリムシでも見られます(写真3)もちろんカミキリムシも刺しません。一般に「擬態」というと、周囲の色に合わせて身を隠すこと(写真4)を想像する方もいらっしゃいますが、あえて他種の目立つ派手な「危険な色」に似せることも同じく擬態と呼びます。

ミツバチ類はハチミツを採取したりハウス栽培での受粉での利用など、古くから利用されてきた虫でありますが、近年では世界中でミツバチが原因不明で大量に失踪する「蜂群崩壊症候群」と呼ばれる現象が発生しており、原因について研究中です。森林総研でも原因の1つと考えられている農薬と日本在来のニホンミツバチとの関係を調べています。

話があちこち飛んでまさに「虻蜂取らず」な内容になってしまいましたが、筆者も写真1を撮るために100数十枚くらい撮影に失敗しました。まさに「虻蜂撮れず」でした。

(森林昆虫研究領域 松本 剛史)

 

 

写真1:虻蜂撮れた
写真1:虻蜂撮れた

写真2:ハチに擬態する左「ナミハナアブ」、右「ナミホシヒラタアブ」
写真2:ハチに擬態する左「ナミハナアブ」、右「ナミホシヒラタアブ」

写真3:ハチの模様に擬態するシコクヨツスジハナカミキリ(カミキリムシ)
写真3:ハチの模様に擬態するシコクヨツスジハナカミキリ(カミキリムシ)

写真4:木の枝に擬態するトゲナナフシ(右側が頭です)
写真4: 木の枝に擬態するトゲナナフシ(右側が頭です)

 
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