今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2019年1月 ヨーロッパブナ
更新日:2019年1月4日
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近年、秋になると、クマが人里に出没したというニュースが、新聞やテレビでよく取り上げられます。多くの場合、クマの行動は「ブナ科樹木の堅果が不作であったため、餌を求めて人里までおりてきた」と説明されます。このように、樹木の結実豊凶現象は、身近な話題のひとつであり、これまで様々な森林で研究が行われてきましたが、なぜ豊凶が起こるのか、その発生の仕組みはまだよく分かっていません。私たちはその解明に向け、ブナの樹体内で貯蔵資源(炭素や窒素)がどのように動くのかを分析して、結実豊凶現象に関与する貯蔵資源の役割を研究しています。9月にイタリア・中世の街ヴィテルボで開催された第11回国際ブナシンポジウムに参加した際、いくつかのヨーロッパブナ林において行われた現地検討会にも参加しました。
最初に訪ねたのはヴィテルボの郊外にあるファッジェータ・デル・モンテ・チミーノのブナ林です。ヨーロッパ各地で100年以上観測したブナの結実記録によると、豊作は平均5年に1回で、その間隔は最短で2年、最長では10年にもなります。今年はちょうど豊作で、殻斗(かくと)や種子が地面にたくさん落ちているのが見られました。ヨーロッパブナは日本のブナと同様にドングリを包む殻斗は柔らかいイガ状の鱗片で覆われていますが(写真1)、熟すと4つに分かれ2個の種子が現れます。日本ではクリスマスシーズンによく見られるシクラメンが、林床で満開となっていました。ヨーロッパブナの林内は非常に暗く、林床植物はほとんど見られないため、珍しい風景でした(写真2)。
その後、ローマから約140km東に位置するアブルッツォ・ラツィオ・エ・モリーゼ国立公園(標高1100〜2200m)に移動しました。ブナ林の林相は、地形や方位、人間活動の影響によって異なります。低標高のブナ林は、過去に薪炭をとるために伐採されており、切株から萌芽した個体の群生林が見られました(写真3)。肥沃土壌の牧場では、萌芽した新芽が牛に食べられないよう、切株を2mほど残して伐採されています。大きな切株から芽が成長し、幹の直径が30cm以上、樹高20mとなった個体群も見られました(写真4)。夏の暑い時期には、牛が木陰で休むなどの光景が見られ、こうしたブナ林は古くから人間との関わりが深いことを感じます。一方、人為的なかく乱が少ない高標高の地域では、林齢400年以上の巨木林も残っています。年輪を解析すると、600年という高齢個体も確認されました。しかもこの巨木林は、現在も活発に肥大成長を続けています。こうした森の主はまだまだ健在で、炭素吸収源として大きな役目を果たしています。
(植物生態研究領域 韓 慶民)
写真1:ヨーロッパブナのドングリ
写真2:ヨーロッパブナ林床に咲くシクラメン
写真3:群生しているブナ林
写真4:2mの切株から萌芽し、直径30cm以上に成長したブナ個体群
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