今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2021年1月 帯(オビ)の中味は同じではない北方の森林地帯
更新日:2021年1月4日
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北方林、亜寒帯林などと呼ばれる北の森林地帯は、おおよそ北緯50度以北の北極圏の南縁部分にドーナツリング状に広がる、常緑針葉樹林帯としてイメージされるでしょう。でも、一口に北方林と言っても、帯の実態は優占する樹種も違えば、土壌の様子も違います。特に永久凍土の分布は、地域によって全く違います。
森と湖沼群のイメージが強い北欧では、マツ(ヨーロッパアカマツ:Pinus sylvestris)やトウヒ(オウシュウトウヒ:Picea abies)の常緑針葉樹とカンバ類などの落葉広葉樹が分布し、森林の下には永久凍土は存在しません。約1万年前まで分厚い大陸氷床の下に位置していたため、氷の断熱効果で凍土は形成されませんでした。同様に常緑針葉樹が優占し、永久凍土が分布しない北方林は、北欧からヨーロッパロシア、西シベリアを経てエニセイ川西岸まで分布します。大西洋を隔てた北米東岸の北方林も、同様にマツやトウヒの常緑針葉樹優占で永久凍土は存在しません。年間の降水量が500mmを優に越えるこれらの地域では、ポドゾル土壌が形成されています(写真1と2)。
同じ北米大陸でもアラスカの内陸部とカナダ北西準州の一部では、大陸性気候が厳しくなります。トウヒ(クロトウヒ:Picea mariana)やマツ(ジャックパイン:Pinus banksiana)の仲間が優占することは共通ですが、斜面方位によって永久凍土が分布し、その上にトウヒ林が成立しています(写真3)。年降水量が200~300mm程度の厳しい大陸性気候下では、ポドゾルの生成は進みません。最新の土壌学の成果では、ポドゾルの分布は北米東岸、北欧からヨーロッパ北部に限られています。
日本に地理的に一番近い北極圏の北方林は、北東ユーラシア(中央シベリアと東シベリア)に分布しています。その広さ、おおよそ東西3000km、南北の最も幅広いところは約1500kmという、とんでもない広さです。しかも、その地域の優占樹種は、落葉針葉樹のカラマツ(グメリンカラマツ:Larix gmelinii)です(写真4)。
北東ユーラシアの内陸部には、寡雨で気温の年較差が大きい厳しい大陸性気候が広がっています。その上、過去3万年に渡って大陸氷床が形成されなかった地域なので、氷河期の最盛期には地中深くまで凍結し、永久凍土が形成された地域です。現在でも厳しい大陸性気候下では、落葉針葉樹が生存には有利と言われています。
ほとんどの地図帳の図版や生態学の教科書では、広大な北東ユーラシアの落葉針葉樹林を色分けせず、同じドーナツリングの常緑針葉樹優占・ポドゾル土壌卓越地域として区分していますが、北東ユーラシアの落葉針葉樹林と永久凍土をつなげて、明確に独立した植生区分として提言したのは、吉良竜夫(1919-2011)でした。
最近の研究成果の植生図などでは、ようやく落葉針葉樹林地帯が色分けされてきました。ポドゾル土壌の分布域については、最新の土壌学の見解はまだ取り入れられておらず、修正されていません。
(企画部 松浦 陽次郎)
写真3:アラスカ内陸部のトウヒ林(Picea mariana)。
不連続永久凍土地帯。北向き斜面の凍土上に成立。
(65N-147W:Fairbanks郊外)
写真1:ヨーロッパアカマツ林。
(60N-26E:Estonia北東部)
写真2:典型的なポドゾル土壌。
写真4:中央シベリアのカラマツ林(Larix gmelinii)。
連続永久凍土分布域の森林。凍土の厚さは約500m。
(64N-100E:Tura)
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