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更新日:2025年4月16日

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【QandA】講演会「人の生活圏で発生するナラ枯れ被害に対する取り組み」

Q1 茨城県の薪割イベントへの質問です。私たちもそんなことをしたいと思っているので、下記の点を具体的に教えてください。搬出は誰がするのでしょうか。道具は誰が揃えるのでしょうか。費用はどのくらいかかるでしょうか。乾燥薪は誰がどこで管理するのでしょうか。
今回の講演で紹介した水戸市の場合、搬出は市が一部協力し、ボランティアが主体となって実施しています。道具は市で用意していますが、薪割機は普段公園を管理している業者からリースしています。そのため、費用は数万円程度に収まっています。乾燥薪は市が公園内の軒下で管理しています。

 

Q2 埼玉県東部では、明らかな枯損木被害は少ないが、シイ・カシ類に穿入被害があるとのこと。この地域が、長期的な被害発生源になる危険性はありますか。
シイ・カシ類に限らず、ナラ類含めて穿入被害が見られても大量のフラスが排出されていなければ、カシノナガキクイムシの繁殖は失敗しているので、被害の発生源にはなりません。埼玉県東部における穿入被害をよく観察することが重要です。

 

Q3 生活圏(公園等)の被害については、アクセスしやすいことから、防除について可能だとは思われますが、アクセスしにくい奥山については、防除を含めどのような広葉樹管理を目指していくべきでしょうか。
公園、奥山に限らず、目標とする広葉樹林の様相を定め、それに向けて管理することが必要だと考えます。アクセスや地形によっては、管理のための労力やコストがかかることで、目標とする広葉樹林の様相が変わることもあると思われます。

 

Q4 高標高域や寒冷地におけるカシノナガキクイムシの越冬可能性について、研究事例があるでしょうか。
富山県、岐阜県、石川県で、標高、積雪、温度などがカシノナガキクイムシの越冬に与える影響が調べられてきました。高標高域ほど、積雪期間が長いほど、気温が低いほどカシノナガキクイムシの生存率が低下することが報告されています。近年では、講演会で紹介させていただいたとおり、青森県や北海道で研究が行われています。

 

Q5 急速な温暖化が樹木側にも強い生理的ストレスを与え始めている可能性について、検討は進められているでしょうか。
 
気候変動の樹木への影響は、数種樹木での研究事例があります。スギでは土壌の乾燥による樹木の水ストレスが光合成速度を低下させることなどが報告されています。コナラでは、高温条件下で光合成速度が低下することなどが報告されています。このような生理的ストレスとナラ枯れ被害との関係については、今後の課題と考えられます。

 

 

Q6 シイ・カシ類が、穿入被害を受けても枯れにくい理由を教えてください。また、シイ、カシ類の被害木からのカシノナガキクイムシの発生量はどの程度でしょうか。コナラと同程度でしょうか。
ナラ類とシイ・カシ類との違いは大きく2つあります。1つ目は落葉樹(ナラ類)であるか常緑樹(シイ・カシ類)であるかであり、2つ目は辺材部・心材部という材組織の違いです。落葉樹であるナラ類が新葉を展開し最も水分を必要とする5~6月にカシノナガキクイムシ&ナラ菌の影響で水不足に陥ると萎凋症状(しおれて枯れる)が発生します。一方、常緑樹における水分通導の季節性は落葉樹ほど大きくありません。
次にナラ類は心材と辺材の境界が明瞭で、心材には穿入しないカシノナガキクイムシは辺材部でのみ孔道を広げていくことから材内の水切れが起きやすいですが、シイ・カシ類は心材化が弱いためカシノナガキクイムシは材の中心部近くまで孔道を掘り進めることから、枯れにくいと思われます。
成虫の発生はすべての樹種において、樹木のサイズや樹齢・樹木の生死などで孔道ごとに大きな差がありますが、全体としてはシイ・カシ類の方がナラ類に比べて少ない傾向が見られます。

 

Q7 将来的には、シイ、カシ類も枯れる可能性は考えられるでしょうか。また、枯れていないシイ、カシ類も、伐採などの対策が必要でしょうか。
現在でもシイ・カシ類が枯れることはありますが、枯死率はナラ類よりも低い傾向にあります。また将来の枯死率については情報が少なく予想することは困難です。
また少しでもカシノナガキクイムシ発生数を減らしたい場合は、シイ・カシ類の被害木についても処理することは有効と思われます。

 

Q8 伐採後の処理で玉切りや薪が効果あるとのことでしたが、チップ化するのも有効と考えてよろしいでしょうか。またそのチップをそのまま森林に敷いてしまうのも悪影響はないと考えて良いでようか。
チップ化は、チップの厚さが10mm内であれば、高い駆除効果が得られます。チップを森林に敷く場合は、極端に厚く堆積すると樹木や他の植物の生育に影響が出る可能性があるので、注意が必要です。

 

Q9 丸太に割ることで、また玉切りすることで羽化脱出する成虫が減るのはなぜだと考えられますか。材からほかの場所へ移動したのでしょうか。また、玉切りした丸太を林内から持ち出して分割した場合や、分割した丸太を束ねずに置いた方が、材の乾燥が進むため防除効果が高そうな気がしますが、そういう認識で大丈夫でしょうか。
被害木を玉切りしたり分割したりすることで、カシノナガキクイムシの脱出数が減少する要因としては、乾燥が進みカシノナガキクイムシの繁殖が進まなくなることのほかに、丸太の断面が露出することでカシノナガキクイムシの坑道内環境が劣化したり、天敵の影響を受けやすくなったりすることも考えられます。紹介した実験では分割等は晩秋に実施していますが、この時期は多くの個体が幼虫であるため、材の外へ出てしまった幼虫は死亡してしまうと考えています。また、分割や玉切りを林内より乾燥した環境で実施することで駆除効果が高まることは、すでに報告されています。

 

Q10 被害丸太の分割による駆除について、マテバシイを2分割した時にコナラに比べて防除効果が高かった理由は何でしょうか。
常緑樹であるウバメガシでは伐倒だけで脱出する成虫数が減少することが知られているなど、樹種による違いがあると考えられますが、加えて試験に使用した丸太の太さも防除効果に影響を与えている可能性が考えられます。

 

Q11 ナラガレの被害木を伐採した時には、その場から動かしてはならないという指導を受けています。被害丸太の分割や玉切りで駆除効果があるのであれば、被害木を林外搬出、移動できると考えて良いのでしょうか。特に、ナラガレが発生している地域内(市町村)で薪(1年間乾燥させたもの)を移動してもよいでしょうか。また、薪ストーブ等に使用してもよいと理解しましたが、そのような見解でよいでしょうか。
ナラ枯れ被害材の移動については、自治体ごとにガイドライン等が制定されており、制限事項も異なりますので、対象の自治体のガイドライン等に従ってください。薪としての利用は可能だと思いますが、上記のとおり自治体のガイドラインに従う必要があります。

 

Q12 被害丸太を埋設する方法で、駆除効果のある深さを教えて下さい。
効果のある埋設深は、現時点ではわかりません。ただし、試験した深さ以上に埋設することは、実施がより困難になると思われます。

 

Q13 被害丸太にビニールシート被覆を適正にしただけでも効果が期待できそうですが、脱出してきた成虫の処理はどのようにするのがよろしいでしょう。
ビニールシート内に粘着シートを入れることで、脱出した成虫を捕殺できます。透明なビニールシートで被覆するのは、カシノナガキクイムシが明るい方へ移動する性質を持つためです。ビニールシートに破損がなければ、成虫がシートの外へ逸失する可能性は低いと考えられます。

 

Q14 カシノナガキクイムシの初発日予測モデルの評価に、客観的な基準はあるのでしょうか。このモデルは寒冷地でも利用可能でしょうか。
初発日予測モデルの評価に客観的な基準は設けず、モデルの当てはまり具合を相対的、主観的に判断しています。また、今回作成したモデルは関東地方を対象としたものであり、他地域での当てはまり具合は検証していません。

 

Q15 コナラ、ミズナラの生立木の伐採は、カシノナガキクイムシの飛翔時期である6~9月には控えるとの意見があります。一方、早期のナラ林の若返りのためには、未被害地においては年間を通じてナラ林を伐採したいところです。そこで、未被害地での6~9月の伐採は、被害地からどの程度離れれば可能でしょうか。
ナラ枯れによる枯死木の発生と、カシノナガキクイムシの分布は一致しません。このため、枯死木からの距離だけで伐倒の影響を推定することは難しいと考えます。また、害虫の活動時期の伐倒が害虫を誘引して被害をもたらすのはナラ枯れに限ったことではないので、注意が必要です。

 

Q16 被害木は早期に倒れてしまうと聞きますが、どうでしょうか。
富山県や山形県の研究事例によれば、枯死後2年には主枝が落下し、枯死後4~6年で倒伏が見られるとされています。

 

Q17 ナラ枯れはいつまで続くでしょうか。ナラ枯れの継続により、枯れていく樹種が絶滅の危機にさらされる危険はあるでしょうか。
日本におけるナラ枯れは、江戸時代にもあったと考えられるほど昔から発生していますが、それによりナラ類が全国規模では絶滅はしていません。日本全体で考えた場合、将来的にもナラ類が絶滅するようなことはないと思われます。

 

 

Q18 ナラ枯れ対策について、地理的条件(太平洋型、日本海型など)によって、カシノナガキクイムシ対策において異なる点がございますでしょうか。
ナラ枯れ対策は、太平洋や日本海の違いだけでなく、積雪、気温、地形など多くの環境要因のほか、目標とする広葉樹林の様相などによっても対策方法が異なると考えます。

 

 

Q19 ナラ菌は、ナラタケ類やナラタケモドキといったものと異なるのですか。また、カシノナガキクイムシがナラタケやナラタケモドキの菌を運ぶことはないのですか。
ナラ菌は子嚢菌の仲間でいわゆるカビに近いものですが、ナラタケやナラタケモドキは担子菌できのこを作ります。繁殖場所が全く異なるため、カシノナガキクイムシがナラタケやナラタケモドキを運ぶことはありません。

 

 

Q20 ナラ枯れの診断において菌を樹脂棒で採取するとのことですが、ナラ菌は坑道の入口近くまで蔓延しているものなのでしょうか。 また、検査キットとして商品化の計画はあるでしょうか。
孔道の入り口でも検出できます。検査キットとしての商品化はまだ計画されていません。

 

 

Q21 ナラ菌の同定をお願いすることはできますか。PCR検査の方法教えていただけるでしょうか。
鑑定依頼は森林総研で対応可能です。詳細はホームページ
(https://www.ffpri.affrc.go.jp/service/bunsekikantei.html)をご覧ください。PCR検査は、ナラ菌やナラタケ類の特異的プライマーを使用してPCRして検出する方法ですが、詳細につきましては個別にご相談ください。

 

 

Q22 「ナラタケモドキで弱った木がナラ枯れで枯死しやすい傾向がある」という関係性について、その要因を教えてください。ナラタケモドキだけでなく、ベッコウタケやコフキタケの類の感染によってもナラ枯れは誘発されるのでしょうか。また、カシノナガキクイムシとナラタケモドキはどちらが主因で副因になるのでしょうか。(カシノナガキクイムシで弱ってるからナラタケモドキに感染しやすいのか、ナラタケモドキで弱っているからカシノナガキクイムシの被害を受けやすいのか。)
コフキタケの病原力は強くはないと思われますが、より強いベッコウタケやナラタケ類が感染した場合は、ナラ類の防御反応によりカシノナガキクイムシを誘引する物質が生産されます。誘引物質の詳細はまだ十分には明らかにはなっていませんが、エタノールに強く誘引されるため、どのような原因であれ、誘引物質を生産している衰弱木や新鮮な伐倒木であってもカシノナガキクイムシは集まってきます。ナラタケモドキの感染は、時間をかけて徐々に衰退する場合が多く、また感染経路も地中で感染木の根との接触が主な経路になるため、カシノナガキクイムシの穿孔がナラタケモドキの感染を誘発することは考えにくいです。今回ご紹介したケースでは、ナラタケモドキで弱って誘引物質を生産していたためにカシノナガキクイムシが集まってきたと考えています。また、ナラタケモドキのみで枯死することもあります。

 

 

Q23 ナラ枯れ木に、ヒラタケ、ナメコ、クリタケなどが発生することが多いように思います。これらの菌は、ナラ菌と感染部位が違うのでしょうか。また、ナラ菌侵入後に置き換わるものなのでしょうか。また、ナラ枯れ被害木にオオミコブタケの発生が散見されているようですが、ナラ枯れとの相関性はあるのでしょうか。
ナラ枯れ木に限らず、ナラ類の枯死木にはヒラタケ、ナメコ、クリタケ、オオミコブタケは発生します。ナラ菌感染木で発生しやすいという証拠は今のところありません。ナラ菌侵入後に置き換わることはあると思いますが、詳細なデータはありません。ナラ枯れ木の環境がそれらの菌類の発生に適していたという間接的な関係性はあるかもしれませんが、直接的な相関はないと思います。

 

 

Q24 マテバシイの穿入生存木において、コフキタケやマンネンタケ発生が見られ、徐々に衰退していく個体があります。カシノナガキクイムシ穿孔痕から腐朽菌の感染しやすさ、カシノナガキクイムシ自身が腐朽菌を運搬しているという事例はあるのでしょうか。
カシノナガキクイムシが腐朽菌を運搬している事例は公式にはありません。カシノナガキクイムシ孔道から腐朽菌が検出されていても、菌糸の状態ですので、カシノナガキクイムシ体表に付着して随伴される機会はほとんどないと思われます。部分的に腐朽した木ではカシノナガキクイムシの穿孔による衰退により、腐朽が進展する可能性は十分あります。

 

 

Q25 ナラ枯れ被害とカエンタケの関係性について、調査結果等があればご教示ください。森林公園では被害木伐倒後、何年くらいカエンタケが見られるかによって、土壌の殺菌も必要になると考えています。
ナラ枯れ被害とカエンタケとの関係性については、十分な調査結果はありません。因果関係と言えるだけの証拠がないのが現状です。被害木伐倒後、何年まで発生するかについてはデータはありませんが、経験的には2~3年後ぐらいまでには発生し終わるように見えます。

 

 

Q26 枯損した場所へ植樹するとすれば可能でしょうか。
枯損した場所がミズナラ林であれば、稚樹があるかどうか確認して、少ないようであれば育苗したミズナラを植えることは可能だと思います。更新阻害要因(ササ、シカなど)も確認してください。小冊子「ナラ枯れ跡地の広葉樹林更新」も参考にしてください。ナラを育苗する際はその地域で得られた堅果(どんぐり)を使うことが原則です。枯損した場所が緑地・公園であれば、堅果の出どころにそれほどこだわらなくてもいいですが、植栽する場所がその樹種に合っているかよく検討する必要があります。

 

 

Q27 被害材の炭化、バイオマスエネルギーへの利用は検討されているでしょうか。
バイオマスエネルギーへの利用を行っている自治体もあると伺っています。

 

 

Q28 ナラ材の価格や利用には、ミズナラだけでなくコナラも含まれるでしょうか。また、盛岡木材流通センターの価格の事例について、研究成果を閲覧できるサイトなどあるでしょうか。
盛岡木材流通センターの取引では、コナラも含まれるためナラ類として分類しています。公表されています主な成果として、(1)「今、広葉樹がおもしろい:岩手をとりまく話題」(岩手の林業、2019年11月、岩手県林業改良普及協会発行)、(2)「多様な林業経営による林地の価値向上に向けて―「広葉樹並材」の着想」(林経協季報 杣径No.59、2020年12月 、日本林業経営者協会発行)、(3)「もっと使える日本の広葉樹林」(パンフレット、森林総合研究所発行、https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/chukiseika/5th-chuukiseika17.html)、(4)「『盛岡木材流通センター』の広葉樹丸太の市売価格の分析」(関東森林研究74-1、2023年3月、関東森林学会発行)、(5)小冊子「With/Post ナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略」等は入手し易いと思います。

 

 

Q29 伐採したナラ枯れ被害木の材としてのニーズはあるのでしょうか。また、通常の材と比較して特に品質に差はないのでしょうか。
被害木のすべての部分にカシノナガキクイムシの孔などの被害があるわけではなく、製材品(家具用)として使える部分もあるとのことです。つまり、製材品としての歩留りが健全木よりもかなり落ちることになります。購入価格を抑えることで、歩留りが落ちた分をまかなうということで取引が成り立っているということです。また、材の強度が問題にならないとしたら、被害を受けた部分を逆にアピールして、売り出すことも可能性としてありうると思います。

 

 

このモデルは2021-2024年の気象情報を元に構築した関東地方のカシノナガキクイムシの初発日を予測モデルです。
予測モデルは完璧ではなく、20日程度(場合によってはそれ以上)予測日より早い初発がある可能性があります。
この不確実性を考慮した上で予測日をご利用ください。

 

 

お問い合わせ

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
ナラ枯れ講演会事務局
NGR2023@ml.affrc.go.jp