ホーム > 研究紹介 > 刊行物 > 森林総合研究所関西支所年報第38号 > 年報第38号 試験研究の概要
ここから本文です。
平成6年度からスタートした「研究基本計画」も既に3年を経過した。昨今の国民共通の願いは「快適で潤いのある生活」、「持続的な社会の発展」、「地球環境の保全」であり、「持続可能な森林経営」は国際的に認知されつつある。当支所においては平成8年度、上記に関連する新規及び継続を含めて50課題を実施し、このうち23課題を終了した。
大課題1「風致林・都市近郊林を中心とする森林の機能解明」では、木炭の水分環境改良効果、海水を利用した林野火災の空中消火に関する調査、広葉樹二次林の群落構造と動態の解析、ナラ類集団枯損に関与するカシノナガキクイムシの生態解明、落葉広葉樹林の水温特性の解明、乾燥過程における落葉層-鉱質土壌連続体中の水蒸気フラックスに関する基礎的研究、林分構造に応じた針広混交林誘導技術の開発、森林の利用区分に応じた野生鳥獣保全技術の確立を終了した。
大課題2「多様な保続的林業経営と施業技術の体系化」では、林分構造の遷移機構と林分成長、ナラ類集団枯損の原因と発生誘因の解明、非生物的因子による傷害樹脂道形成機能の解明、松くい虫被害の激化防止のための天敵利用技術の開発、スギカミキリ被害の発生条件の解明と防除技術の確立、ニホンジカの個体群変動機構と個体群管理技術、材質劣化に関与する獣害の究明、林業経営管理手法の体系化、林業経営管理主体の育成、林業関連主体へのDEA適用可能性の検討を終了した。
大課題3「森林機能の総合化手法と地域森林資源管理手法の確立」では、森林センサス情報のデータベース構築と応用的解析手法の開発、風致景観形成機能からみた森林資源の配置計画手法の開発、森林及び林業生産力の変動予測技術の開発、高齢林分の物質生産過程の解明、人工林施業による土壌炭素貯留量の解明を終了した。
都市近郊林等生態系の機能に関しては、落葉広葉樹二次林の常緑広葉樹林への遷移機構、都市近郊竹林の拡大機構、野鼠によるブナ更新阻害、ナラ集団枯損地でのカシノナガキクイムシの繁殖機構などを明らかにした。また、種子食性キクイムシの孔道内での行動観察に成功したほか、マツ穿孔虫の天敵キタコマユバチの性比決定等生物的防除の基礎的知見を得た。水土保全機能に関しては、林床面蒸発量等推定モデル、土壌水分動態モデル等の開発、渓流水質の調査など基礎的研究を進めた。また山火消火に使用された海水の植生への影響の解明を行った。針広混交林誘導試験を行い風致林造成の基礎的知見を得た他、風致林造成上重要なカエデ類の葉色と肥培管理に関する知見を得た。森林の風致景観形成機能に関しては、風致施業の定量的評価手法、農林業地域の景観評価手法、レクリエーション地域の注視点解析による風致評価手法の開発を進めた。一方孤立生態系に関しては、林分サイズ-種子食害-更新の関係、鳥類-餌昆虫-樹木三者関係の解析を行ったほか、孤立林分が撹乱を受けながら遷移する機構解明のため新たなモデルを構築した。
平成7年度までの研究により、木炭施用区で水分環境が改善されることが示されてきた。そこで、平成8年度は最終年度として、木炭施用区と非施用の対照区のサクラ苗木の成長の違いを比較・検討した。平均樹高成長で、施用区と対照区の平均値を比較すれば、施用区の成長が大きかったが、バラツキが大きく、施用区の方が対照区より有意に大きいとはいえなかった。試験を行った地域の降水・気温等の環境条件下においては、木炭施用による土壌水分状態の改善は、樹木の成長に大きな影響を与えることがなかったためと考えられた。
平成8年度は関西支所構内実験林に試験地を設定・施工した。試験区は、アカメガシワ区、ヤシャブシ区、アカマツ区、草本区、対照区(裸地)とし、マサ土を客土し各々の種子を播種した。施工後、各区で成立本数、成長量の測定を行うとともに表層土壌の微生物バイオマスCと無機態窒素を測定し、試験地と常緑広葉樹林を比較した。微生物バイオマスCは常緑広葉樹林では測定期間を通じて1,000g/g soil 以上であるのに対し、試験区では樹種の違いによる差は認められず、施工7ヶ月後の11月でも80~150g/g soil と、常緑広葉樹林と比べて1オーダー以上小さかった。無機態窒素でも常に常緑広葉樹林>試験地であるが、バイオマスCに比べて差は小さかった。
林野火災消火のための海水の空中散布が森林に与える影響を調査した。調査は森林総合研究所関西支所内のクヌギ林で行った。A区には人工海水を8L/m2、B区には人工海水を16L//m2、対照としてC区には真水を8L/m2の密度で林冠に散布した。A区とB区では土壌pHが散布前に比べそれぞれ1.44、1.60低くなったが、C区ではpHの低下はわずかであった。散布前の土壌ECはいずれの区も大差なかったが、散布後はA区と B区において著しい上昇が観察された。海水の散布前後で葉の木部圧ポテンシャルを調べた結果、最低値、最高値ともに各処理区で差はなく、海水散布による葉の水分状態への影響は認められなかった。
1992~93年に設置した固定調査区において毎木調査を行った。その結果を1993年の調査結果と比較し、この間の林分の動態について検討した。この間の新規加入木は79本あった。内訳は、サカキが17本、ヒサカキが14本、アラカシが14本などとなっている。一方、枯死木は373本(伐倒木を含む)あった。その内訳は、ヒノキが136本、タカノツメが67本、クロバイが49本などである。ヒノキの消失はそのほとんどが伐倒によるものである。それ以外については、サイズの小さな木の枯死が大きな割合を占めていた。全体的にも、胸高断面積合計が大きくなる一方で本数が減少しており、この林分が成熟の方向に進みつつあることをうかがわせた。この調査区についてはひきつづき調査を継続する。
平成7年度、滋賀県の八幡山と京都府の男山で竹林の拡大速度を算出したが、平成8年度は竹林の規模と形状、地形や植生と拡大速度の対応を調べた。竹林の規模(サイズ)や形状と拡大速度との間には、とくに相関はみられなかった。斜面方位と拡大速度の間には強い相関が見られたが、八幡山と男山で逆の傾向を示していたので、これは元の竹林分布に偏りがあるためと判断した。起伏量と拡大速度との間には弱い相関が見られたが、引き続き検討が必要である。竹林と隣接する箇所の植生(土地利用)と拡大速度との間には強い相関が示唆された。すなわち、竹林周囲が荒れ地や疎林などオープンな植生の方が竹林は拡張しやすい傾向がみられ、これは現場での観察と一致した。
昨年設定した固定試験地において野ネズミ個体群の動態と貯食などと関連するブナ、ミズナラ堅果の豊凶を調べた。その結果、ヒメネズミにおいて個体数が春期の5頭/haから夏期以降急激に上昇した。春繁殖が活発に行われたことが推測されるが、先年の堅果類は不作であったことからその原因は不明である。今年度の堅果類ではブナが200粒/m2を生産したが、ミズナラはほとんど実を付けなかった。さらに、ブナ堅果を用いたネズミ・鳥除去枠での堅果分散実験では、野ネズミが鳥類より大きなインパクトを与えていることを明らかにした。
福井県内の2箇所において平成5年からカシノナガキクイムシの穿入を受けたコナラ・ミズナラについて、樹幹表面の穿入孔密度の推移と、粘着バンドを用いた樹幹上における成虫の捕獲、羽化トラップによる成虫の捕獲調査を行ってきた。その結果キクイムシの穿孔密度の推移と枯損が起こるかどうかの関係には、様々なパターンがみられ、一定の傾向はなかったが、羽化トラップの捕獲の結果からは、繁殖は短期間で枯死した木に限られた。羽化トラップの捕獲と穿入の推移、あるいは時期的に穿入とほぼ一致する粘着バンドの捕獲の推移を比較すると、羽化のピークから穿孔開始までに、2週間程度の分散期間があることが示唆された。
関西地域の都市近郊林に多い常緑広葉樹の堅果を加害するキクイムシ類、とくにクリノミキクイムシと ドングリキクイムシは樹木の天然更新に影響をもつと思われる。昨年度開発した堅果内での行動を再現し、かつ非破壊的に継続観察ができる人工飼育システムにより、クリノミキクイムシの孔道内での行動をビデオカメラを用いて詳しく観察した。今後このシステムにより、交尾行動や子世代雌の産卵行動を中心に、より詳細な行動を観察していく。
マツ穿孔虫の寄生バチであるキタコマユバチ飼育個体を用いて、寄主サイズの判定と性比配分の機構を調べ、併せて飼育法の改良を行った。マツ樹皮をスチロールケースに固定した産卵容器でも穿孔虫穿入丸太と同様の寄主探索と産卵を行った。そこで、3種類の寄主サイズを単独、あるいは2種組み合わせて雌バチに産卵させた。寄生率は、小さい、あるいは小さい方の寄主に対して低くなった。羽化個体の性比は、大きいサイズ単独の場合有意な偏りはなく、小さなサイズでは単独、組み合わせともにすべて雄であった。2種類組み合わせた結果では、大きな寄主の方に雌卵を多く配分していることがわかった。
京都府南部の落葉広葉樹二次林及びアカマツ林において、林床可燃物として重要な落葉・落枝量の季節変化と地形及び林分構造との関係を調べた。調査は2月、5月、8月の3回行った。落葉広葉樹二次林での落葉・落枝量の平均値は、L層がヘクタール当たり5.9t→5.0t→3.9tと減少したのに対し、F+H層は5.2t→5.8t→6.5tと徐々に増加した。アカマツ林での調査結果では、L層が8.6t→6.9t→5.1tと減少したのに対し、F+H層は7.6t→9.2t→11.0tと増加した。胸高断面積合計及び地形と落葉・落枝量との間には、明瞭な関係は見いだせなかった。
鉛直1次元の水収支のみを考慮した土壌水分量推定モデルを作成し、京都府気象月報から得た京北町の日降水量、林分データ、及び土壌調査と土壌試料分析の結果をもとに、京都営林署鞍馬山国有林のヒノキ林の土壌水分量を推定した。推定値は実測値とよく似たパタ-ンを示すが、推定値では実測値に比べ変動幅がやや大きかった。また、全体に実測値の方が大きい値を示した。これは、土層厚の推定の誤差に起因すると考えられた。今後、モデルを土壌水分量の変化について、土壌中の水移動現象に従うように改良していく。
これまでの研究で渓流水温変化の振幅は、5~20cmの土壌深、位相は落葉層の地温に近似することが明らかになったので、地温形成に関与する林床面における有効放射量を測定し、その特性を明らかにすることを試みた。京都市銀閣寺国有林にある混交二次林で測定を行った。落葉樹は5月に開葉し11月中頃に落葉した。観測の結果、以下の4点が特徴的な点として明らかとなった。1.有効放射量は4月に最大を示す季節変化を示した。2.10~11月における有効放射量は、夜間における値と日中における値がほぼ等しかった。3.10~1月の日中には地中熱流量が林床から深層土壌へ、4~6月の夜間には深層土壌から林床へと伝達していた。
滋賀県志賀試験地において、昨年に引き続き流出量、降水量、水温、気温の自動計測及び渓流水質の定期調査を行うとともに、本年度は自動採水装置を用いて降雨時の渓流水を連続採取して降雨時の水質変動を調査した。その結果、溶存有機炭素(DOC)や浮遊有機物は夏季に濃度が高まる傾向が認められた。降雨時では全窒素や全リンのシャープなピークが観測され、DOCも平水時に比べて濃度が高くなることが判明した。さらに、琵琶湖北湖に流入する和迩川、知内川及び田川の支流の渓流を調査した結果、流域に高齢スギ林が成立している田川支流では硝酸濃度が高いことが判明した。また、知内川支流の広葉樹の多い渓流でDOC濃度が高い傾向が認められた。
石川県金沢市内のヒノキ林で行った。斜面上・中・下部の3箇所で、それぞれ隣接する発病木と健全木の樹体温度を0.5, 1.0, 2.0, 3.0, 4.0, 6.0mの6箇所で測定した。測温サーミスターを用い、デ-タロガー(コーナシステム製、KADEC-UⅡ)に30分平均値を記録した。1月上旬から3月前半にかけて、連日最低気温を記録した。4月前半にも4回氷点下を記録したが、4月後半以降には激しい冷え込みはなかった。期間中と形成層の活動期である4月中の最低温度を記録した2月2日と4月12日の最低温度、最大昇温度を発病木・健全木間で比較したところ、健全木のほうが最低温度が高く、最大昇温度も大きい傾向が認められた。
森林樹冠下における放射収支の内訳(短波放射収支、長波放射収支)と地中熱流量を、京都市銀閣寺国有林の混交二次林で一年間を通じて観測した。落葉樹は5月に開葉し、11月中頃に落葉した。着葉期、落葉期における開空度はそれぞれ、13.3、23.0%であった。観測の結果、以下の2点が特徴的な点として明らかになった。1.短波放射収支量は4月に極大となる季節変化を示した。これは落葉期であることと太陽高度が高いことによる。2.落葉直後に夜間の長波放射収支量は負値が大きくなるのに対し、地中熱流量には特に変化は見られなかった。
京都市銀閣寺国有林に位置する混交二次林を対象に、林床面蒸発量計算モデルを適用し、林床面蒸発量と落葉層含水率の季節変化を予測した。年林床面蒸発量は94MJm-2と計算された。また4月の0.6MJm-2日-1を最大とする季節変化が得られた。これは、4月は落葉期間であり、かつ太陽高度も高いことから林床に到達する日射量が多いことによる。月別最低落葉含水率は2~4月の20%以下を極小とする季節変化となった。3、4月は林野火災発生件数の多い時期でもあり、この結果と符合する。
針葉樹植林地の林冠に人工的に作成したギャップに対する林床の植物の反応を、(1)よく伸長するシュートを光条件に関わらず上方に伸ばし、よりよい光環境を得ようとするオプティミストと、(2)光環境が悪いときは上方への成長を極端に抑え、物質収支のマイナスを大きくしないようにして、光環境が何らかの外部要因により改善される時を長期にわたって待つペシミスト、という二つの類型に分けて観察した。その結果、比較的小さいギャップにもかかわらず、林床から活発にシュートを伸ばし、ついには林冠部での葉群の展開に至るオプティミストを認識することができた。効率的な針広混交林誘導という面から、これらの種は注目に値する。
水耕培養液の養分濃度を変えてイロハモミジの苗を育て、紅葉期における葉中の窒素やリン、マグネシウムなどの濃度と葉色の関係を検討した。葉中に窒素が少ないと色相は黄色ないし赤の方向へ著しく変化するとともに明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)が増した。リンやマグネシウムが少ないときは色相は同じく黄色ないし赤の方向へ変化するが、明度と彩度は減少した。これらの変化は主としてクロロフィルとアントシアニンの生成、分解度の変化を通じて生じたと推察された。
嵐山国有林内の15箇所の固定調査区を対象に、林内植生と林外景観に関する調査を行い森林植生と林外景観との関係を明らかにした。その結果、近距離景観では個々の樹木が明確に意識され、さらに視線入射角が30°以上ある場合、高木層だけでなく亜高木層も林外景観として重要になること、中近距離景観では、視線入射角が15゜以上であれば個々の樹冠の区別が明確になるが、標高が150m以上で樹高が15m未満になると個々の樹冠の独立性が低くなり複数の樹冠の集合として意識されるようになることなど、視点からの距離、視線入射角ごとの植生と景観との関係が明らかになった。
日本の中山間地域における一般的な森林景観を対象とし、中距離景観として眺められる際に林相、稜線、仰角などの違いによって人間の注視特性がどのように異なってくるかを明らかにするための実験を行った。フォトモンタージュによって林相、稜線、仰角の異なる36種の中距離森林景観写真を作成し、それを景観刺激としてスクリーンに提示して、注視点解析装置により眼球運動を測定した。その結果、稜線の位置が低い(仰角が小さい)ほど稜線の注視割合が高くなること、稜線形状が複雑(稜線上に突出した樹木がある)な場合に稜線の注視割合が高くなること、などが明らかになった。
農林業が農林地の景観形成機能に与える影響を調査するためには、まず地形や土地利用といったフィジカルな面が森林景観の見え方をどの程度規定しているのかを明らかにしておく必要がある。そこで、滋賀県西部、京都府美山町、丹後半島を対象として、国土数値情報に収録されている250mグリッドの標高値、三次メッシュ単位の土地利用面積割合、及び三次メッシュ現存植生データの自然度区分を用いて被視ポテンシャル解析を行った。その結果、土地利用面積割合に基づく景観タイプ区分では、山間農地・集落、小規模開発地のポテンシャル値が高く、自然度では二次林植生がポテンシャル値の高い立地に存在することが明らかとなった。
「鳥-虫-樹木」の3群集間の相互関係を調べることにより、鳥類の森林生態系の維持に果たしている役割を明らかにすることを目的にしている。本年度は鳥類を除去するため網で囲ったオオイタヤメイゲツ、ブナ、タンナサワフタギの実験木3本と対照木3本において、昆虫類による食害量を無作為に1本当たり200枚の葉を抽出して調査した。その結果、今年は主要な食害者である鱗翅目幼虫が例年の半分程度の密度であったが、どの樹木においても網で囲った実験木では食害量が有意に大きかった(p<0.0001)。また、食害量は樹種間でもそれぞれに有意な差があり(p<0.005)、オオイタヤメイゲツで最も多く、ブナで最も少なかった。この樹種間の食害量の違いは鱗翅目幼虫の密度の大きさの違いによると思われた。
草食者であるニホンジカが森林生態系に与えるインパクトを解明して、森林生態系の維持機構を調べることを目的としている。そのため、本年度は森林生態系を構成している生物群集(種子分散者の野ネズミ、植物加害昆虫の捕食者の鳥類、稚樹との競争者であるササ)の現存量を調査するとともに、それぞれの構成群集が互いに及ぼす影響を評価するための実験プロットを設定した。現存量調査では、野ネズミ類、下層植生に生息する昆虫類、土壌動物を、さらに土壌に関しては物理・化学的特性の分析などを開始した。
調査対象は、種子食昆虫の調査が比較的進んでいるブナ科のなかで、当地で普遍的にみられるアラカシとし、調査地は森林サイズ及び除草や落葉除去等の人為的な林床処理の有無を考慮して、8箇所設けた。本年度は前年秋に0.5m2のコドラート内で採集された散布後の堅果のサイズを測定し、虫害等の季節的変化を調べた。データが得られた5箇所の結果を比較すると、1箇所を除くと、いずれも8月までにほとんどが虫害をうけ死亡した。残る1箇所は他の調査地から至近距離であるが、市街化が進んでいる。そこでは、昆虫の飛来がほとんどなかったと考えられるが、8月までに全滅した。これは、除草と落葉除去により林床が乾燥したためと考えられる。
孤立林の持続的利用を考えるため、萌芽による繁殖を取り入れた推移行列モデルを作り、種子による繁殖と萌芽による繁殖とのどちらが増殖率により大きく貢献するかを条件をかえて検討した。その結果、種子からの定着率が低いほど萌芽繁殖の効果が大きく、種子の定着率が大きくなるほど種子による繁殖の効果が大きくなるという結果が得られた。このモデルに確率変動を取り入れて、孤立林の絶滅確率を評価した。その結果、特に強度の撹乱を受ける状況下では、小個体群の方が大個体群よりも絶滅確率が大きくなった。以上の結果は従来の知見と矛盾せず、現実のデータを取り入れることで実際の林分の動態を予測する可能性があるものと考えられた。
森林の利用区分を考える際には野生鳥獣の保全をも考慮して、地域区分を行う必要がある。本課題では都市近郊に位置する桃山御陵に生息するホンドタヌキを研究対象に、かれらの土地利用と生活史を明らかにする目的から研究を実施している。その結果、かれらは果肉を有するカキ、センダン、ムクノキ、リュウノヒゲなど比較的人工的な植物から餌を採ること、桃山御陵林内での活動はそれほど活発でないことなどが明らかとなった。
造林地に植栽されたヒノキについて元玉通直性を調査し、間伐することにより樹幹成長、曲がり率の低下等の有利な効果があることを明らかにした。奈良県、京都府下のヒノキ壮齢木の枯損木がスギカミキリによる被害であることを現地調査により明らかにした。ナラ類の集団枯損木に共通してみられる菌類(仮称ナラ菌)の人為接種部には、枯死木でみられるような変色・水分通導阻害がみられた。ヒノキ漏脂病では、人為付傷による傷害樹脂道の形成過程が明らかになった。マツ材線虫病の発病過程について、キャビテーション発生と枯死との関係及びNMRでの水プロトン緩和時間がマツ材線虫病の発病の初期で著しく減少する現象を明らかにした。ヨゴオナガコマユバチはスギカミキリ幼虫に対してほぼ100%の寄生率を示すことを明らかにした。京北町の林家へアンケート調査を行い、伐採に対する林家の行動・動向などを明らかにした。プレカット加工工場を核として消費者動向に鋭敏に対応しているハウスメーカーの流通システムを明らかにした。地獄谷アカマツ、茗荷淵ヒノキ、白見スギの各収穫試験地について林分成長経過の調査を行った。
茗荷淵ヒノキ収穫試験地の時系列データを用い、数種の局所密度指標と単木の期間成長との関係を検討した。両者の相関係数は最大0.6程度で、実用的な成長予測に足る説明力があるとはいえなかったが、傾斜地林分では傾斜方向の隣接木より等高線方向の隣接木のほうが中心木の成長に及ぼす影響が大きいことがわかった。一方、中国地方におけるヒノキの幹曲がりに関する調査では、曲がり木が全体の1/3と無視できない割合を占めること、曲がり木割合の林分間差異が著しいことを明らかにした。また、新重山ヒノキ収穫試験地の間伐区・無間伐区の幹曲がりの比較から、間伐が幹の通直性に好影響を及ぼすことがわかった。
森林・苗畑・緑地などにおける昆虫による林木被害の発生動向を全国規模で把握・解析するとともに、昆虫被害の発生予察体制を確立し、虫害の管理モデルを開発することを目的とする。虫害発生情報については、支所から送付した全国統一様式の調査票によって大阪営林局及び支所管内各県から収集した。8年度に受け取った調査票(虫害分)は5通で、前年度に比較して7通減少した。収集された調査票の内容を全国の発生情報とともにデータベース化して、結果を「森林防疫」誌上に随時発表した。
本年度に支所に送付された獣害発生情報は、ノウサギ3件(島根県)、野ネズミ1件(島根県)、ニホンジカ1件(滋賀県)及びニホンカモシカ1件(京都府)であった。滋賀県からのシカ被害と京都府からのカモシカ被害は初めての報告であり、今後が注目される。
平成8年度に収集された病害発生情報は2県から3件の情報が寄せられた。件数は非常に少なく、目だった病害発生動向は認められなかった。発生情報としては寄せられていないが、最近マツの赤斑葉枯病が増加しているようである。また、ナラ枯損被害について、各府県の担当者の話しを総合すると、京都府以外の県における今年度の被害は、昨年度に比べるとかなり減少したようである。
ナラ類の枯損被害は、福井県、滋賀県、京都府、兵庫県、鳥取県、島根県で確認された。被害の確認された地域は前年と同地域であった。その被害程度は京都府を除いた各県では前年に比べて減少していた。ナラ枯損被害木から分離された通称ナラ菌のコナラに対する接種実験を行ったところ、枯損の再現はできなかった。今後、接種法の検討を行う必要がある。
ヒノキは本来樹脂道をもたないが、師部(内樹皮)に傷害樹脂道を形成する。物理的傷害を与えた場合、師部の軸方向柔細胞が再分化してエピセリウム細胞に変化し、樹脂分泌能力を得ると共に細胞間に空隙が形成されて樹脂道が完成する。傷害後の定期的試料採取により、エピセリウムに変化する柔細胞は分裂後2年以内の若い細胞であることを明らかにした。従って、漏脂病患部の樹皮に見られる多層の樹脂道は、一度あるいは短期間に形成されたものでないことは明らかである。この知見から、漏脂病罹病木で何年輪前から形成されているかを調べることによって、発病時期の推定が可能となった。
クロマツ樹幹にAE(アコースティックエミッション)センサを装着し、マツノザイセンチュウを接種した。接種1~2週間後AEの発生が高頻度になり、蒸散による樹液上昇が停止する夜間もAE発生が続いた。この時期には樹幹横断面で通水阻害部が白い斑点状に認められ、AEの異常発生と永久的なキャビテーションとの密接な関係が示唆された。AE発生はその後急激に減少すると共に葉の変色等の病徴が認められた。この手法はマツ材線虫病における通水阻害の検出に有効であると判断された。
ヒノキ漏脂病の罹病初期の林分で、環境や枝打ちなどと漏脂症状との関連を調査した。傷害樹脂道形成の経過と傷害の履歴との関係を明らかにし、発病に関わる因子について検討した。ヒノキに不適当と思われる肥沃土壌や斜面下部で被害率の高い傾向が見られた。キバチの産卵や枝打ち年度が傷害樹脂道形成と対応する例が確認された。周囲のスギの凍裂から、著しい寒冷地ではなくても早春の気温低下があるものと思われ、低温刺激と樹脂道形成との関連についても可能性は否定できない。
水プロトンNMR緩和時間は環境ストレスや虫害などの生物ストレスに対する初発応答を知るための有効なパラメータである。そこで、マツ材線虫病に罹病したマツの緩和時間の変化から、本病の進展過程を解析した。接種後 、針葉のパラメータT1は針葉の変色や水の減少に先駆けて減少しており、非常に早い反応であることが明らかになった。この手法は非破壊的診断法としてさらには発病機構解明のための重要なパラメータになり得る。
マツノマダラカミキリの有力な捕食性天敵昆虫のひとつであるオオコクヌストの天敵としての評価及び利用技術の開発を行うことを目的とする。オオコクヌストは土着天敵であることから、8年度は野外に生息する本種の捕食効果を評価するため、生息地2箇所で、カミキリに産卵させたアカマツ丸太をそのまま、または袋に入れて野外に放置し、両者を比較した。その結果、近接した場所間でもカミキリの生存率に違いがあり、とくに、ひとつの調査地では、マツ枯損が多発している尾根近くの方が、比較的被害の少ない山麓部より、オオコクヌストの捕食効果が高いことが示唆された。
スギカミキリ幼虫に対し最も高い寄生率を示すヨゴオナガコマユバチについて、7年度に野外に放置したカミキリ接種丸太に寄生させる実験を行った結果、寄主サイズの増大とともに、平均寄生数の増加、サイズの増大、雌の割合の増加の傾向がみられた。8年度は室内で、カミキリのサイズを制御した実験を行った。その結果、全般には野外と同様の傾向がみられたが、寄生数については、大きなサイズの寄主では多寄生によって変異が大きくなること、同じ産卵数ならば、寄主サイズによって、ハチのサイズが大きくなることが明らかになった。とくに、性比が寄主サイズの上昇とともに極端に雌に偏る原因については、今後の研究が必要である。
今までの一般的な林業地である兵庫県から得られた資料の整理と島嶼個体群のそれとの比較を行い、それぞれの個体群の質について調査した。その結果、兵庫県北部のニホンジカは高質個体群の特徴を有しており、個体群は増加過程にあると考えられた。これには新植造林地の面積の増大に伴う下層植生量(餌植物量)の増加が関与していると思われた。また、小豆島におけるニホンジカも同様の特質を持った個体群であるが、新植造林地も少なく、環境収容力は小さいと思われた。
我が国のツキノワグマは生息環境の急激な変化などから個体数の減少が危惧されている。一方、林業被害も深刻であるため地域によっては駆除が実施されている。本課題では樹木の剥皮被害の発生状況と近郊府県での駆除に関する情報と試料の回収を行った。特に、京都府にて回収された個体49頭(1991~1995年)について年齢査定を行い、地域で駆除されてきた個体群の年齢構成を明らかにするとともに、年・地域別の比較をも行った。その結果、駆除されている個体は当歳(その年生まれ)から22歳までであった。ただし、3歳から7歳までの個体が全体の65%を占め、主に3、4歳から駆除の対象とされていることが分かった。地域別では宮津・舞鶴で駆除された個体群が美山・京北からのそれより高齢であった。また、年別の変化(駆除個体の若齢化)は認められなかった。
林家が保続的経営を行っていく上の課題と問題点を探るため、京都府京北町の林家を対象に経営状況や今後の意向を問うアンケート調査を郵送で実施した(回収数499)。その結果、1)小規模林家は磨丸太生産に特化、中規模は磨丸太(+一般材)、大規模では林業収入への依存度の低い林家が一般材+磨丸太、大規模・依存度高が磨丸太+一般材+桁丸太等を生産している、2)林業依存度が低いほど伐期を延長し、伐採量を減らしているが、依存度が高い林家では伐採量を維持ないし増やしている、3)中規模では労働力の逼迫感が強く、経営撤退の意向は大規模で3割程度みられるなど、経営基盤や林業依存度の差による行動の相違が明らかとなった。
持続的利用モデル構築の参考にするため、90年センサス等の統計資料を用いて、関西地域の各森林計画区の人工林資源の特性と伐採動向、製材消費量の現状を分析した。人工林に占める11齢級以上の面積割合は、1.9~31.4%と広範囲に及び、各計画区の資源成熟度に大きな差異があることが分かった。11齢級以上の人工林蓄積は、関西地域全体で57百万立方メートル(素材換算)と概算され、1989年度の域内推定製材消費量の14倍に相当した。労働・生産基盤・土地所有に関わるいくつかの要因と1989年の伐採面積との関連性を検討したが、伐採面積の差異を説明できるような要因は見つけられなかった。
地獄谷・茗荷淵・白見各収穫試験地の定期調査を行った。また高野山スギ・ヒノキ両収穫試験地の調査結果をとりまとめ、データベースへの登録を行った。両試験地の残存木の平均樹高の成長経過は、当該地方国有林収穫表のスギ地位2等、ヒノキ3等にほぼ相当した。しかし、いずれの試験地も、本数密度は収穫表のそれを大きく上回っており、総収穫量はスギ試験地で収穫表の1.3倍、ヒノキ試験地で1.2倍を示した。両試験地とも当該収穫表が作成された当時の高齢級林分に比較して高い立木度を保ち、高齢級になってからも旺盛な林分成長を示しているのが特徴的であった。
「国産材時代」の構築に向けた、ニーズ対応型の木材供給システムのあり方を探るため、近年急増しているプレカット材流通の調査を引き続き行い、さらに集成材の生産・流通についても調査を進めた。その結果、国産材産地の市場対応においては、並材産地はもちろん、優良材・銘木産地といえども、従来の多段階型木材流通システムを前提とした市場対応のみでは限界があることがわかった。国産材産地自らが地域木造住宅の企画・開発に取り組み、プレカット加工システムを組み込んだ、新しい実需対応型の地域住宅部材供給システムを作り出していくことが、今後の市場戦略にとって重要となると考えられる。
林業関連事業体の活動の効率性を多元的な尺度で比較・分析することを目的に、DEAを用いて兵庫県の森林組合のうち比較的活発な38組合を対象に効率性の分析を試みた。出資金・人工林面積・天然林面積を入力に、事業収益額・販売林産取扱量・新植保育面積を出力とし、CCRモデルで計測した結果、平成2~5の各年にわたり効率値の平均は0.7前後、効率的な組合数は10前後であった。効率値へ寄与する要因は、小規模な組合で新植保育面積、大きな組合では事業収益や販売林産量であった。また、BCC効率的な組合について規模の効率性を検討した結果、事業収益額で6億円以下、森林面積では5~9千haの範囲が最も生産性の高い規模と推定された。
林業及び環境研究の推進を支援するため、林業センサス情報及び森林生産力情報のデータベース化を進めた。都市近郊林の風致景観形成機能に基づく森林配置計画のため、被視ポテンシャル及び植生高を考慮した視覚構造要素値などを収納した景観管理データベースを構築し、これにより、景観質類型区分図を作成することで各類型の景観管理計画を編成する手法を開発した。またランドスケープエコロジーに基づく森林保全計画手法の確立のため、近畿の広葉樹林を対象に、過去100年間のランドスケープ変容を明らかにした。長期の気候変動が地域の森林・林業におよぼす影響を知るため、森林動態モデルと筑後モデルによる一斉林の材積成長シミュレーションモデルにより、ゴダート研のシナリオによる温暖化が林分成長に及ぼす地域別影響を解析した。同時に、地域人工林の炭素固定への貢献を知るための基礎的研究として、間伐等施業による炭素貯留量の変動の評価を行った。また土壌の炭素貯留量評価に関しては、貯留量は地上部現存量もしくは細根量、及び土層高が把握できれば推定しうるという見通しを得た。
情報基盤整備の一環として林業センサスを中心とした市町村単位の森林、林業の諸数値ならびに森林生産力に関するデータをデータベースとして整備し、公開に向けてフォーマットを整える作業を行った。整備を必要とするデータ量が多いことと、それを遂行するための予算的裏付けが乏しく、当初の予定通りには進まなかったが、データベース公開に向けた作業のいっそうの推進、未収集データの収集と収集データの分析を今後も図っていく必要がある。
都市近郊林について、その景観形成機能に着目し、最適な配置計画作成のための手法を開発した。まず米国で作成された景観管理システムのわが国での適用の可能性について考察した。次に、嵐山国有林を対象として景観管理データベースを構築し、20mグリッドに分割した各地点の主要な視点からの見られ易さを、様々な指標を用いて計測した。データベース化された景観構造の情報は立体的な可視化が可能となり、そこから地形条件による景観的な位置づけの違いが明らかにされた。景観としての見られ易さには、面として、線として、多くの場所からの見られ易さ、という3つのレベルが考えられ、これらと視覚心理学における既存知見とを組み合わせて、景観管理の目標を示す景観質類型区分図が作成された。
丹後半島を対象に、明治後期から今日までの二次林ランドスケープの空間的変容とその社会的背景を、5万分の1地形図などの空間情報と聞き取り調査から把握した。そして、時系列にそった二次林ランドスケープの変容パターンをメッシュアナリシスにより明らかにした。その結果、約100年間での変容パターンは、「不変樹林地」、「樹林地間での変容」、「樹林地→樹林地外→樹林地」、「樹林地→樹林地外」、「樹林地外→樹林地」に類型区分された。最もメッシュ数が多かった変容パターンは樹林地間で地目が変化したものであり、今日の二次林ランドスケープは様々な経歴をもって変容してきた林地の総体であることが明らかになった。
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.