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樹木集団における近親交配と近交弱勢の程度との関係を検討するため、近親交配の程度が異なるホオノキ3集団で人工受粉(自家受粉・他家受粉)を行い、得られた子孫について3形質(胚の生存率=[種子数]/[胚珠数]、種子量、発芽率)が示す近交弱勢の大きさ(δ: δ=1-[自殖子孫の平均値]/[他殖子孫の平均値])を推定した。その結果、3集団ともに胚の生存率は近交弱勢を示し、種子重は外交弱勢(自殖子孫の平均値>他殖子孫の平均値)を示した。発芽率については外交弱勢を示す集団と近交弱勢を示す集団の両方が認められた。胚の生存率が示すδ値は近交係数の大きな集団ほど小さく、近親交配が続くと近交弱勢をもたらす劣性有害遺伝子が除去されるという理論的予想を支持した。
京都市伏見区の醍醐国有林内の26年生スギ林に調査区を設置した。この林分では、2000年に、無間伐および25%・50%・75%の3段階の間伐処理を行った区画が設置されている。このそれぞれについて、林床植生の種構成や多様性にどのような違いが見られるようになるかを今後調査していく予定である。
西日本におけるツキノワグマ個体群の保護管理に資するために、遺伝的指標を用いて地域個体群の孤立性および遺伝的多様性の評価を行った。今年度は、捕殺個体の収集体制を関西中国地方の5府県(京都、兵庫、島根、広島鳥取)において確立し、頭骨およびDNA試料の蓄積を行った。
クマは広島県の駆除個体(13体)のオス・メス比は7:6、オスの平均年齢は9歳(4~13歳)、メスの平均年齢は6.8歳(2~17歳)、京都府のもの(10体)はオス・メス比6:2、平均年齢はオス2.1歳(0~5歳)、メスは2歳と9歳であった。京都府のクマは由良川を境に東西で明瞭な形態変異があることが明らかになった。その他、鳥取県で2個体、岩手県で67個体の頭部を収集し骨標本化した。
地球温暖化によって、マツ材線虫病被害の激化、あるいは被害未発生地域での被害発生が懸念されるので、1)マツノマダラカミキリの成長と成虫行動の気温特性、2)現状の気温分布、3)温暖化予測、および4)現在のマツ林の分布に基づいて、今後のマツ材線虫病被害の危険地域マップを作成した。現在のマツ材線虫病被害の最前線の北方にはマツ林がほぼ連続的に存在するが、被害が人間活動になんらかの支障をきたす林への拡大が実質的な問題となる。青森県北部の日本海側、太平洋側それぞれの海岸クロマツ林がそれに相当するgこうした地域は、温暖化予測によれば、20年先には被害の気温条件が整うし、1998-2000年の3年間の平均気温は現在の最前線の平年値に匹敵する。
本課題は、人工林を対象に作業条件や生産目標に応じた作業コストを明らかにするため、高性能林業機械システムを対象とした供出コスト、および保育を対象とした育林コストに及ぼす諸要因を解明することを目的としている。育林コストに関しては、統計的な資料は整備されてはいるが、作業条件や保育形式との関連、省力化や低コスト化との関連での取り組みが不十分である。この中で、当支所は、保育形式による施業の違い、それに省力化や低コスト化の実態を明らかにすることを分担した。初年度は、集約施業の代表である吉野林業で、下刈り回数や除伐などの初期保育の実態を検討した結果、以前と同様の施業が行われていることが明らかになった。
各研究対象(小型哺乳動物、鳥類、節足動物、微生物)の共同調査地を選定し、予備調査を開始した。アカネズミ類と堅果との相互作用における栄養学的解析、マツ樹皮下穿孔虫の天敵類の産卵行動実験を開始した。
間伐率とスギ花粉生産との関係を検証するため、醍醐国有林(京都大阪森林管理事務所管内)の26年生スギ林に調査区を設置した。2000年にこの調査区内で各段階の間伐処理を行った。処理の内容は、無間伐(対照区)・25%間伐・50%間伐・75%間伐である。この調査区内にリタートラップを設置して、2001年春の雄花生産量の推定を行った。その結果、雄花生産量はそれぞれの処理区で、195.8・105.5・110.8・90.9kg/haとなり、間伐により雄花生産量が抑制されることがわかった。ただし、2002年からは陽樹冠面積の増加により、間伐処理区で雄花生産が促進されることも考えられるので、継続して調査する必要がある。
岡山県南部に位置する竜の口山森林理水試験地は、日本の少雨地帯を代表する理水試験地のひとつであり、降水量・流出量に関する基礎データを長期間にわたって測定している。これらのデータは継続・安定して取得することの困難な森林地域における貴重な観測資料であり、災害に関わる洪水流出や水資源問題には不可欠な流出量の指標として社会的需要の高いものである。本業務は竜の口山森林理水試験地において正確で確実なデータ蓄積を図るとともに、森林総合研究所本支所全体で理水試験地のデータベースを一元化し、データ処理の効率化を促進することが目的である。こうして得られたデータは、各分野の研究者、あるいは行政機関など多方面で利用可能な形式に変換され定期的に公表される。
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