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1.受賞名 | 令和6(2024)年度日本森林学会賞(受賞日:2024年3月9日) |
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2.受賞者の氏名、所属 |
松井 哲哉(森林総合研究所 生物多様性・気候変動研究拠点) |
3.受賞理由 |
気候変動に伴う日本の森林の分布予測と保全指針 |
4.受賞対象研究の紹介 |
受賞者は機械学習を応用した生物種分布モデルを用いた分布変化予測の研究における日本のパイオニアである。1990年代に欧米で始まった生物種分布モデル手法を取り入れて、気候変動の森林・樹木への影響評価を日本で初めて行い、温暖化影響予測研究をリードした。生物種分布モデルを構築し、日本のブナ林の広域分布パターンは積算温度、夏期降水量、冬期最低気温、積雪量で説明可能であることを示し、気候的な分布規定条件を解明した上で温暖化影響評価を行い、将来の潜在生育域(生育可能な気候条件の地域)は西日本では縮小、中部や東北では分布上昇、また北海道では北に拡大する可能性を指摘した。この成果はIPCC第4次報告書や平成20年度森林・林業白書で引用された。さらに、白神山地世界自然遺産地域においてもブナ林の潜在生育域は高標高に向かって縮小することを指摘し、気候変動の悪影響を低減させる適応策を提言した。 ブナ林に混生する多樹種の変化予測も行った。温暖化が進むことでブナの分布確率が低下した場所ではナラ属の分布確率が高まり、ブナ優占林として最適な気候条件が維持される安定したハビタットは、現在のブナ優占林分布域の11.4%である可能性を指摘し、適応策を提言した。また、ハイマツ、シラビソ、コメツガなどの高山・亜高山帯の森林は高標高・高緯度側に縮小・後退し、アカガシなどの常緑広葉樹は北に拡大すると予測した。一方で最終氷期から現在にいたる潜在生育域の変遷を、東アジアに隔離分布するヤエガワカンバやチョウセンゴヨウなどの樹種について推定し、日本における隔離分布が形成されるまでの経過や原因を推定し、また中国雲南省からベトナム北部の山岳地帯が生物多様性ホットスポットであることを解明した。さらに気候変動の適応策について研究を発展させ、一例として気候変動の速度(Velocity of Climte Change)を日本で初めて推定し、生物多様性保全の温暖化適応策に関する影響評価を行った。 このように受賞者は、生物種分布モデルによる森林研究のパイオニアとして後継者を育成しながら、日本および東アジアの森林分布を規定する気候条件の解明や気候変動が森林分布に及ぼす影響評価で顕著な研究成果を上げた。これらの成果は、コンピュータ上のバーチャルなシミュレーションではなく、多くの現地調査、植生データベース、気候データベースに基づくものであり、現在進行する森林の変化を適切に管理するために役立っている。 |
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