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プレスリリース

2025年12月16日

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

落葉を「お菓子の家」として評価することで土壌動物群集を説明しました
—植生から地下の生物群集を推測する一歩に—

ポイント

  • 土壌動物にとって「お菓子の家(食べ物でできた住みか)」といえる落葉の性質を評価する手法について検証しました。
  • 従来から用いられてきた食べ物としての落葉の性質に住みかとしての性質を加えたことで、どのような土壌動物がどのくらいいるのか説明しやすくなりました。
  • 本成果は観察が困難な地下生態系を地上部の植生から推測していく一歩になると考えられます。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、アムステルダム自由大学の研究グループは、土壌動物にとって「お菓子の家(食べ物でできた住みか)」といえる落葉を定量的に評価する手法について検証しました。
従来、落葉は土壌動物の食べ物として評価されてきましたが、食べ物としての性質だけでは、土壌動物の群集構造、つまり、どういう土壌動物がどれくらいいるか?ということの説明がほとんどできませんでした。しかし、落葉には「食べ物」としてばかりでなく「住みか」としての役割もあります。
本研究はこれに着目し、住みかとしての落葉の性質の数値化に取り組んだ結果、落葉の形やサイズが指標として利用できることが分かりました。住みかとしてのこれらの指標に、従来から使われてきた食べ物としての性質(化学成分など)を加えて群集構造を解析したところ、多くの土壌動物分類群が落葉の住みかとしての性質に強く影響を受けていることが明らかになりました。落葉を食べ物ばかりでなく住みかとしても評価することによって、落葉の性質から土壌動物の群集構造がよく説明できるようになったのです。
これまで、植生と土壌動物群集を関連づけることは難しいと考えられてきましたが、本研究の手法を用いることで落葉の性質から両者を結び付けられる可能性が出てきました。
この成果は観察することが困難な地下生態系を地上部の植生から推測していく一歩になると考えられます。本研究成果は、2025年11月3日にJournal of Ecology誌でオンライン公開されました。

背景

植物が毎年落とす落葉は、土壌に住む生物にとって主要な資源となります。しかし、これまで、落葉の性質から土壌動物群集を説明することは概して難しいと結論付けられてきました。落葉は土壌動物にとって食物であり、かつ住みかでもあります。筆者らは、先行研究では落葉を食物資源としてのみ評価してきたために土壌動物群集を説明しにくかったのではないかと考えていました。そこで以前に、落葉の性質を、食物としての質を表す軸と住みかとしての質を表す軸からなる2次元空間から評価してはどうかというアイディアを提案しました(Fujii et al. 2020 Trends Ecol Evol, https://doi.org/10.1016/j.tree.2020.05.007)。種の生態戦略や環境への応答、生態系への影響に関係する形態的もしくは生理的な生物の特性を「形質」といいますが、筆者らのアイディアは、これら生物の特性を多次元の形質軸を用いて数値化し、種ではなく形質を単位として生物群集-環境の関係を解析する「形質アプローチ」という手法に基づくものです。落葉は枯死前の植物の葉の形質を概ね引き継ぐことが知られています。とくに、植物の成長や生存を左右する形質である窒素濃度やリグニン濃度、比葉面積(葉面積/葉重量)などが、枯死後もそのまま落葉の形質として引き継がれ、落葉分解速度や炭素・窒素無機化速度の主要な決定要因となることがよく知られています。これらの主に化学的な形質は、一般的に植物戦略のばらつきを最もよく説明し、Plant Economics Spectrum (PES)*1と呼ばれる形質軸に集約されます。しかし、このPESは、土壌動物にとって食物や栄養の質を表し、土壌動物の摂食活動と関連するパフォーマンス(例えば、分解への寄与率など)は説明するものの、土壌動物の群集構造を説明することはほとんどありませんでした。そこで、筆者らはこのPESの軸に落葉の形やサイズからなるSize and Shape Spectrum (SSS)という軸を加えて、落葉の食物としての役割に住みかとしての役割も加え、「お菓子の家(食物でできた住みか)」ともいえる落葉の性質を包括的に評価することを提案しました。しかし、SSSが本当に落葉の住みかとしての性質を説明するのか、また、そもそも落葉の形やサイズからなる形質群がSSSという軸を形成するのかさえ検証されたことがなく、多くの仮定を含む段階での提案でした。

内容

北西ヨーロッパでよく見られる16樹種の落葉を用いて、上記アイディアについて検証研究を行いました。PESに関連する窒素濃度やリグニン濃度、比葉面積(葉面積/葉重量)などに加え、住みかとしての性質を表すと考えられる面積や体積、葉柄の太さ、丸まり具合などを測定し、主成分分析*2を行ったところ、これら落葉の形やサイズに関する形質はPESと同等に落葉形質のばらつきをよく説明し、SSS軸を形成しました(図1)。そして、このSSS軸やSSSに関連する形質がリター層の水分保持機能や空隙量など生物の住みかとしての質を説明することが明らかとなりました。さらに、同じ16樹種の落葉を用いて野外の森林でメソコズム実験*3(図2)を行い、このPES-SSSフレームワークがメソコズム設置後7週間で集合した土壌動物をどのように説明するか調べたところ、食物としての質を表すPESよりも住みかとしての質と関連するSSSが土壌動物群集をよく説明しました。対象とした土壌動物は1,646個体のマクロファウナ*4(クモ目、ヤスデ綱、ワラジムシ目など)と68,331個体のメソファウナ*5(トビムシ目、ササラダニ亜目、トゲダニ亜目など)を合わせた69,977個体です。土壌動物の全分類群を合わせた総個体数や、メソファウナ総個体数、目レベルの多様性はSSSと負の関係をもち、つまり形が単純でサイズの小さな落葉ほど生息する土壌動物の個体数は多く、分類群数も多くなることが分かりました。SSS(サイズや丸まり具合)が大きいほど落葉層の水分保持力は低くなるため、乾燥に弱い多くの分類群は住みづらくなることが原因として考えられます。また、分類群ごとに個体数への影響を調べたところ、大半のメソファウナ分類群がSSSと負の関係をもつのに対して、トッププレデター(最上位捕食者)であるクモはSSSと正の関係をもっており、SSSが大きく落葉層の空隙が大きくなる場所では、大型捕食者が住みやすくなるため、多くの土壌動物に対して強い捕食圧が働いていることも示唆されました(図3)。多くの分類群がPESよりもSSSに強く制約されており、食物としての性質を表すPESに住みかとしての性質を表すSSSを加えた形質空間を用いることでPESだけでは説明できなかった土壌動物群集が大幅に説明できるようになることが示されました。

様々な落葉の主成分分析表の図

図1.16樹種の落葉形質の主成分分析(PCA)
落葉の形やサイズに関する多くの形質(青色の字で表示)は第1軸に集約され、Plant Economics Spectrum (PES)に関わる多くの形質(オレンジ色の字で表示)は第2軸に集約された。そこでこのPCA1軸をSize and Shape Spectrum (SSS)、PCA2軸をPESとしてその後の解析に用いた。この2軸を合わせると落葉形質のばらつきの60%以上が説明された。

左に丸い枠21個に樹種別の落葉が入っている画像、右に準備した丸い枠を林床に埋めた画像

図2. 16樹種の落葉を用いたメソコズム実験
左が設置前のメソコズムの内容物、右が森林林床に設置したメソコズムの写真。

落葉の住処としての性質と、食物としての性質を様々な土壌動物に及ぼす影響を表したヒートマップ図

図3. 落葉形質軸と土壌動物各分類群個体数の関係
落葉の住みかとしての性質(SSS)と食物としての性質(PES)が土壌動物各分類群に及ぼす影響をヒートマップで表した。青色は正の影響、赤色は負の影響を表し、統計的に有意な結果のみ色付きで示している(統計的有意水準は下記の通り:+p < 0.1, *p < 0.05, **p < 0.01; ***p < 0.001)。推定値は、一般化線形混合モデルによって得られた回帰係数である。

今後の展開

生物多様性の重要性については一般に広く認識されていますが、地球上の生物多様性のホットスポットといわれる土壌の生物多様性が顧みられることはまだまだ稀です。土壌は不可視で簡単に観察することができませんが、表層の落葉層だけでも一平方メートルあたり約数十万から数百万個体の多様な土壌動物や、数千個は存在するといわれる植物種子や実生、数えきれない量の微生物などが生息しています。落葉の、生物に住みかを提供するという役割や価値については、定量的な研究が極めて少なく過小評価されてきたと感じます。都市部の緑地などではゴミとして掃かれて捨てられることも多い落葉ですが、土壌生物も考慮した多様性保全や管理を進めるには落葉の性質に着目したシステム管理が必要になってくるでしょう。本研究で検証した形質ベースフレームワークは落葉を対象としていますが、落葉の形質が枯死前の植物の葉の形質を概ね引き継ぐことを鑑みると、落葉形質と土壌生物を関連付けることは植生の葉形質との関連付けにつながります。もちろん葉形質だけではなく気候要因等の考慮も必須になってくると思われますが、本研究は観察が困難な土壌生物群集を植物群集とつなげ、地上部の植生から土壌生物多様性を推測可能にしていく第一歩になると考えています。

論文

論文名:Effects of two key plant trait spectra on litter layer properties and habitat provision functions

著者名:Saori Fujii, Matty P. Berg, Richard S. P. van Logtestijn, Shun'ichi Makino, Johannes H. C. Cornelissen

掲載誌:Journal of Ecology

DOI:10.1111/1365-2745.70187

研究費:OECD Co-operative Research Programme: Biological Resource Management for Sustainable Agricultural Systems in 2019、住友財団環境研究助成、文部科学省科学研究費補助金(21H03657, 22KK0185)など

共同研究機関

アムステルダム自由大学

用語解説

*1 Plant Economics Spectrum (PES)
葉の養分濃度等の形質は、植物の生存戦略のトレードオフ(養分獲得効率重視型 vs 養分利用効率重視型)と深く関わっており、一般に、窒素濃度や比葉面積が高い種では概して植物体の強さに関わるリグニン濃度や葉乾物含量が低くなるといった傾向がみられる。この植物生存戦略に関わる形質軸を、Plant Economics SpectrumもしくはLeaf Economics Spectrumと呼ぶ。一般的に植物形質のばらつきを最もよく説明し、生産量に関わる植物の光合成速度や枯死後の分解速度など生態系機能とも高い相関をもつことが知られる。元に戻る

*2 主成分分析(Principal Component Analysis, PCA)
多次元の変数をまとめて、データのばらつきを最もよく表す第1軸と、それに直交し次に重要なばらつきを表す第2軸など少数の軸に要約し、サンプル間の関係を視覚的に示す手法元に戻る

*3 メソコズム実験
人工的に容器の中に模擬的な生態系を作り観察する手法。本研究では上面5mmメッシュ、下面1mmメッシュ、側面に直径5mmの穴が複数空いている容器を使用して、各樹種の落葉からなる半閉鎖系を作り、野外に設置後、野外培養を行い、容器内に移入してくる土壌動物を観察した(図2)。元に戻る

4 マクロファウナ
体幅が2mmより大きい土壌動物の分類群の総称。本研究ではクモ、ヤスデ、ワラジムシ、コウチュウ目や双翅目の幼虫などが含まれる。元に戻る

5 メソファウナ
体幅が2mmより小さい土壌動物の分類群の総称。本研究ではトビムシ、ササラダニやトゲダニなどのダニ類、カニムシなどが含まれる。元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 森林昆虫研究領域 昆虫生態研究室 主任研究員 藤井佐織

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

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