研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2026年 > 温暖化による‘染井吉野’の開花異常を確認 —九州南部では新たなサクラの育成が必要—
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2026年4月15日
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
鹿児島県森林技術総合センター
岡山理科大学
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、鹿児島県森林技術総合センター、岡山理科大学、アメリカ合衆国国立公園局およびボストン大学の研究グループは、開花に必要な低温刺激が不足した場合、‘染井吉野’*1に生じる開花異常の症状を詳細に解明しました。これまで低温刺激不足で「満開とならない」記録はありましたが、その実態は明らかではありませんでした。 そこで、‘染井吉野’の生育南限である鹿児島県を対象に、鹿児島地方気象台の過去の満開日の記録を熊本地方気象台の記録と比較するとともに、熊本県と岡山県を比較対象として鹿児島県内の調査地の開花状態を観測し、開花時期や開花状態と低温刺激との関係を分析しました。その結果、低温刺激が不足すると、開花日や満開日が遅れるとともに、花芽の生育不良などの異常が観察され、観賞価値が大きく損なわれていることが明らかとなりました。この成果は、身近な樹木が気候変動のモニタリング指標として活用できるとともに、将来のお花見の為に暖冬の環境に適応している地元産のサクラを育成するなどの対策が必要であることを示しています。本研究成果は、2026年4月1日にInternational Journal of Biometeorology誌でオンライン公開されました。
お花見は日本の春の重要な文化的イベントであり、その主役である‘染井吉野’の開花は多くの人が関心をもっています。近年の気候変動による温暖化によって、東京の‘染井吉野’の開花日が過去100年間でおよそ2週間早くなっている一方で、生育南限地である鹿児島では逆に開花日が遅くなっています。その原因として開花に必要な低温刺激*2不足が挙げられていますが、低温刺激不足が、実際にどのように影響しているのか、その詳細は分かっていませんでした。将来的な気候変動で東京など本州の都市部で将来の‘染井吉野’にどのような影響が生じるのか予測するためには、現在もっとも温暖な環境下で生育している鹿児島県における‘染井吉野’の状況を明らかにすることが必要です。
まず、鹿児島地方気象台で観察された1965~2024年の‘染井吉野’の満開日の記録について、熊本地方気象台と比較し、低温刺激の指標となる積算チルユニット値(cCU)*3との関係を分析しました。その結果、鹿児島のcCUが低いと熊本より満開日が遅くなることが示され(図1)、低温刺激不足によって開花が遅れることが確認されました。
また、鹿児島県内9カ所の調査地で2022~2024年に開花状態を観察し、正常な開花が見られた熊本・岡山の調査地の開花状態と比較したところ、cCUが1,500を下回ると、開花が遅れるだけではなく、個々の花の開花日がバラつくとともに生育不良による花芽落下によって(図2)、木全体の開花している花数が減少していることが確認されました。特に2024年の開花している花数は、鹿児島市(cCU:1,151)で最大34%、屋久島町(cCU:393)では0%でした(図3)。cCUが低いと、「満開とならない」開花となり、観賞価値が大きく損なわれることが明らかとなりました。

図1 鹿児島における気象庁観測データから計算した1965~2024年の積算チルユニット(cCU:右軸)と熊本との満開日差(左軸)

図2 指宿市で見られた‘染井吉野’の開花異常の枝。開花した花芽および蕾の花芽に加え、まったく成長していない花芽が混在している。また、開花時に葉が展開している。2022年4月5日 指宿市

図3 鹿児島市で見られた‘染井吉野’の開花数が最大時の状態。開花期がバラついたことに加え、花芽が落下したことで、観賞価値が大きく損なわれている。2024年4月13日 鹿児島市
‘染井吉野’というきわめて身近な樹木で、温暖化による顕著な異常が確認されたことは、今後の気候変動対策のモニタリング指標として活用できる可能性を示しています。開花数の減少によって気候変動の影響を可視化することで、一般市民に対し気候変動対策への理解がより進むことが期待されます。
一方、九州南部や四国南部、紀伊半島南部などの温暖な地域では、実際に‘染井吉野’の開花異常が生じていることが推測され、これらの地域ではその利用の可否について検討する必要があります。もっとも、これらの地域において自生するサクラ(ヤマザクラやクマノザクラ等)は、温暖化の顕著な悪影響を受けておらず、正常な開花が確認されています。特に鹿児島県では、ヤマザクラの変種で、観賞価値の高いツクシヤマザクラが分布していることから、その観賞利用への推進が期待されます。
論文名:Impact of warmer winters on the flowering display of Tokyo cherry (Cerasus ×yedoensis ‘Somei-yoshino’) at its southern range
著者名:Toshio Katsuki(勝木俊雄・森林総合研究所九州支所),Seiichi Kanetani(金谷整一・森林総合研究所九州支所), Yuki Kedoin(祁答院宥樹(「祁」はしめすへん)・鹿児島県森林技術総合センター【現・鹿児島県大島支庁】),Takumi Fujiwara(藤原拓巳・岡山理科大学大学院), Hiroyuki Iketani(池谷祐幸・岡山理科大学), Abraham J. Miller-Rushing(アメリカ合衆国国立公園局), Richard B. Primack(ボストン大学)
掲載誌:International Journal of Biometeorology
DOI:10.1007/s00484-026-03185-6
研究費:運営交付金
鹿児島県森林技術総合センター
岡山理科大学
アメリカ合衆国国立公園局
ボストン大学
*1 ‘染井吉野’
エドヒガンとオオシマザクラとの種間雑種の栽培品種。ソメイヨシノと表記されることが多いが、カタカナで表記される標準和名ではエドヒガンとオオシマザクラの種間雑種のすべての個体を意味するため、ここでは栽培品種名を意味する‘’(シングルクォーテーション)で括って表記しています。(元に戻る)
*2 低温刺激
温帯性落葉樹の多くは、冬の落葉時に冬芽をつくり休眠します。休眠から目覚める(休眠打破)ためには、ふつう冬季に低温刺激を受けることが必要です。休眠から目覚めた後は、高温刺激によって冬芽が成長し、開花や展葉します。(元に戻る)
*3 積算チルユニット値(cumulative Chill Units:cCU)
チルユニットは、休眠打破のための低温刺激の指標のひとつとされます。果樹の休眠打破を推定するために開発されたもので、1時間ごとの刺激の指数を落葉後から積算します。本論文では、-6~14℃の間で0~1、14℃以上では-0.2~0となる指数とし、落葉後から開花日まで積算しました。24時間4℃の状態だと、cCUの値は24となります。(元に戻る)
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