今月の自然探訪 > 自然探訪2013年 掲載一覧 > 自然探訪2013年2月 クマゲラ
更新日:2013年3月1日
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クマゲラは、嘴(くちばし)の先端から尾羽の先まで約46cmの日本に生息する最大のキツツキです(写真:1)。日本では冬期間に積雪がみられる地方である北海道と東北地方の一部にのみ生息が確認されており天然記念物に指定されています。環境省の「日本版レッドデータブック」では絶滅の危険が増大している絶滅危惧II類となっています。
この大きなキツツキであるクマゲラは、いったい何を食物にしているのでしょうか?また、積雪期でも食物は十分にあるのでしょうか?
クマゲラの食物を調べるためにまずクマゲラが食べた痕(食痕)を探します。クマゲラの食痕は、他のキツツキと比較して一般に大きく、特徴的なものは縦長の弁当箱のような形をしています(写真:2)。また、幅5mmぐらいのクマゲラのくちばしによってつけられたつつき跡がくっきりとついていることがあります(写真:2)。このような大きな食痕は何をとるために開けるのでしょうか?きっと、他のキツツキが食べている昆虫や昆虫の幼虫よりももっと大きな虫を食べるためだと考えるのが普通でしょう。しかし、クマゲラの食痕がある木を割って調べたり、クマゲラの糞を拾ってきて調べたりした結果からは意外な答えが示されています。なんとムネアカオオアリというアリを主に食べていたのです。このムネアカオオアリは働きアリの体長が8~12mmぐらいで、体は黒色で胸部から腹部の基部は暗赤色です(写真:3)。
クマゲラにとってムネアカオオアリを食物にすることがどのような意味を持っているのでしょうか?
その答えを探るために、東北地方でクマゲラの食痕がみつかったカラマツ林でムネアカオオアリのコロニーを調べたところ、一本の木に約2,500から3,000頭の大集団を形成していました。また、コロニーの高さは最大のもので地上4mにも達していました。このように、ムネアカオオアリは枯死木や立木の幹などに巣をつくり、大集団のコロニーを形成します。このことから、クマゲラが一つのムネアカオオアリのコロニーを見つけることにより、膨大な数の食物を確保することができることがわかります。また、地上高くまでムネアカオオアリのコロニーが達することから積雪期でも雪の上までコロニーが存在することがわかります。このように、体の大きなクマゲラはムネアカオオアリを食物にすることで冬の積雪期でも十分な食物を得ることができると考えられます。
写真1:ブナに営巣しているクマゲラ(撮影:久末正明氏)
写真2:カラマツに残された食痕(赤丸)とつつき跡(矢印)
写真3:ムネアカオオアリ
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