今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2020年4月 森の中での土壌ガス観測
更新日:2020年4月1日
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森林と大気の間ではさまざまなガス交換がおこなわれていて、お互いに影響をおよぼし合っています。例えば、温室効果ガスとして知られている二酸化炭素は光合成によって森林に吸収されていますが、その一方で、動植物などの呼吸によって二酸化炭素は森林から放出されています。特に土の中にはさまざまな生物が数多く生息し、それらの呼吸によって、非常に多くの二酸化炭素が放出されています。また、二酸化炭素以外にも多くの種類のガスが森林の土の中で発生、吸収されていて、森林の土は大気中のガス成分に大きな影響を与えています。
土から放出される二酸化炭素の量はその土にいる生物の量や種類、それら生物の餌となる有機物の量や質、その場所の気象や土の性質などの条件によって大きく変動します。そのため、さまざまな場所や条件で観測することが必要になってきます。場所による違い、時刻や季節による変動、雪が積もったり大雨が降ったりしたとき等々、調べる場所やその目的によって研究者たちはさまざまな工夫を凝らした観測機器や手法でガス観測をおこなっています。
温室効果ガスとして二酸化炭素の次に重要なメタンも森林の土と強く関係しています。土の中にはメタンをエネルギー源として吸収し、二酸化炭素を放出する微生物が数多く生息しています。そのため、多くの森林は大気中のメタンを吸収しています。ところが、湿地やダムなどの近くで湿った環境になりやすい土では逆にメタンを発生させることもあります。また、最近の調査で土の中で発生したメタンが木の幹の中を通って大気中に放出させる樹木が見つかりました。そのため、森林のメタンを吸収する能力はその場所の土や植物によって異なることが予想され、現在、ホットな話題の1つとなっています。
近年、人工衛星などの技術を用いた地球規模の観測がなされています。しかし、細かな現象やその現象の原因について知るために、やはり現地における観測が必要です。色々な場所でガス観測をしていると自然災害など、予測の出来ないトラブルに見舞われることも多々あります。トラブルの発生は非常に困るのですが、いつもと違う状況の興味深いデータが取れ、今までわからなかったことが明らかになることもあります。最近ではさまざまなシミュレーションによってガスの放出量や吸収量について広い範囲の推定や将来予測がおこなわれています。しかし、それらの精度を向上させるためにも、現地での観測を続けていくことは、これからますます重要になってきます。
(立地環境研究領域 阪田 匡司)
写真1 定時に自動的にフタを開閉する装置でガスを観測
写真2 雪面上の透明な円型容器によるガス観測
写真3 樹木(ヤチダモ)の幹横に設置したステンレス製容器によるガス観測
写真4 湿地林の地表面から林床植生(ヨシ)全体を
覆うように設置した透明容器でガス観測
写真5 台風による風倒木で破損した観測機器
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