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更新日:2021年11月1日

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自然探訪2021年11月 小笠原のタコノキ

小笠原諸島の固有種にタコノキ(タコノキ属)という樹木があります(写真1)。漢字で書くと蛸の木です。名前の由来は幹の下部から出た複数の支柱根がタコの足に似ているからです。日本に自生するタコノキ属の植物は、このタコノキと南西諸島に分布するアダンと大東諸島に分布し2009年に新しく記載されたホソミアダンの3種のみです。タコノキ属は、世界では西アフリカからハワイ諸島にかけて約450種が知られており、日本はタコノキ属の分布の北限にあたります。小笠原のタコノキは遠い昔に海流に乗って辿り着いたタコノキの祖先種が、小笠原で独自の進化を遂げ、固有種となったものです。小笠原では、タコノキはごく普通に目にすることができ、小笠原村の木として指定されています。葉を蒸して乾燥させ、籠などを編むのに利用され、地元の方にとっても大変親しみのある樹木の1つです。

タコノキの祖先種となったのは、南西諸島や東南アジアに分布するアダンだと考えられています。タコノキにもアダンにも葉縁と主脈上にトゲがあります。アダンのトゲは2-4mmであるのに対し、タコノキのトゲは1mm程度で、素手で触ってもアダンほどは痛くありません。これは、小笠原では植食動物が不在だったため、鋭いトゲを持つ必要がなくなりトゲが退化したのではないかと考えられています。

タコノキは雌雄異株で、雄株は黄白色の穂状花序を総状に咲かせ(写真2)、雌株は大きなパイナップルのような果実をつけます。果実は絶滅が危惧されるオガサワラオオコウモリの主要な餌となっていますが、小笠原にはもともといなかった外来のネズミ類も利用しています。オガサワラオオコウモリは果肉のみを利用し(写真3)、さらに種子の散布を担ってくれるのに対し、外来のネズミは果実の種子まで食べてしまうため(写真4)、タコノキの実生による更新を妨げています。

ネズミ類は、植物の種子だけでなく、小笠原固有の陸産貝類や鳥類の卵やヒナも食べてしまいます。ネズミ類の駆除は、複数の無人島で試みられていますが、成功しているのはほんの一部の島だけです。タコノキを含む貴重な小笠原の生態系が後世にもそのまま遺されるよう、侵略的外来種との知恵比べは続いています。

 

(樹木分子遺伝研究領域 鈴木 節子)

 

写真1:タコノキ
写真1:タコノキ。
支柱根がタコの足に似る。

写真2:タコノキの雄花序
写真2:タコノキの雄花序。
黒い粒は全てアザミウマ。


写真3:タコノキの果実を持ったオガサワラオオコウモリ
写真3:タコノキの果実を持ったオガサワラオオコウモリ。
(写真提供 加藤 英寿氏)

写真4:ネズミ類に被食されたタコノキの果実
写真4:ネズミ類に被食されたタコノキの果実。
中の種子まで食べられてしまっている。

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