今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2021年10月 森林資源の利率・残高・引き出し
更新日:2021年10月1日
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森林には木材生産、渇水・洪水の緩和、山地災害の防止、二酸化炭素の吸収・貯蔵、レクリエーションの場、野生動物の生息の場など、非常に多くの働きがあります。森林を管理する際には健全な森林を育てたり保護したりすることが重要です。
ここでは木材生産の場として重要なスギやヒノキなどの人工林について考えてみたいと思います。例えば本数密度が非常に高い森林を放っておくと、ひょろ長い木ばかりになり風雪害に弱くなってしまいます。間伐によって適切な本数密度に保つことが必要になります。このような間伐は「保育間伐」と呼ばれます。
さて、林業は非常に年月のかかる生業です。すべての林木を伐採して最終的な収入を得るまで数十年という長い歳月を要するので、それまでの間に収入を得たいところです。そこで「収入間伐」という方法で中間収入を得ることが考えられます。
収入間伐を行いながら森林を育てる作業は、銀行の預金に似ているところがあります(利率5%というような古き良き時代を連想して下さい)。まず元金を預けます(植林)。初期手数料(下刈り、除伐など)がかかりますが、預けておくと利子(成長量)がついて残高(蓄積)が増えるので、適切に引き出していけば(収入間伐)、預金を全額おろす(すべての林木を収穫する=主伐)までの間に残高を増やしながら収益を得ることができます※1。けれども極端に引き出せば(極度の収入間伐)残高は減りすぎ、次期の利子も減ってしまいます。利子を見積もるには利率(成長率)を知ることが重要です。満期(主伐林齢=伐期)を決める際にも成長率は重要です。
では、森林の成長率はどうすればわかるでしょうか。森林の成長率は林齢によって変化しますし、間伐等によって林木同士の競争状態が変われば、森林全体の成長率も変化します。林齢や蓄積、間伐率と成長率が密接に関係し合っているため、それらの関係を長期にわたって調査し続ける必要があります。
まず、森林内に区画(固定試験地)を作りその中の林木を対象に直径(写真1)や樹高などを測定し続けます。何年生の時にはどのぐらいの直径、樹高の林木が何本あったのか、どのぐらいの間伐を行ったら、次回の調査までの成長率はどのように変わったのかを調査し続けます。写真2は昭和37(1962)年に和歌山県新宮市のスギ人工林内に作られた固定試験地で、この時の林齢は10年生でした。平成25(2013)年に62年生(写真3)になるまでの52年間に11回の調査と4回の間伐が行われました(今でも調査は続けられています)。複雑になるので間伐との関係は省略しますが、この試験地の蓄積成長率は10年生で18.1%、35年生で6.2%、55年生で3.1%ということが分かりました。また、数多くの固定試験地での調査結果に基づいた研究の結果、従来の想定に比べてやや本数密度が高い森林であっても、直径成長率は高齢林になっても極端には低下しないことも分かってきました。ここでは木材生産を例に述べましたが、二酸化炭素の吸収・貯蔵について考える際にも森林の管理に関わる「利率、残高、引き出し」は非常に重要な情報なのです。
※1伐採コストと販売コストを比べて採算が合わない場合は、伐り捨て間伐といって間伐木を林内に放置することもあります。
(関西支所 田中 邦宏)
写真1 胸高直径測定の様子
巻尺や輪尺(大きなノギス)を使って測定します。
写真2 白見スギ固定試験地(和歌山県新宮市)設定時の林相(10年生)
(昭和37(1962)年撮影)
本数密度は3,320本/ha、平均胸高直径は8.5cm、平均樹高は6.5mでした。
写真3 白見スギ固定試験地の第11回調査時の林相(62年生)
(平成25(2013)年撮影)
52年の間に4回の間伐を行って本数密度は470本/haとなり、平均胸高直径は44.5cm、平均樹高は31.2mにまで成長しました。
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