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更新日:2021年7月7日

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自然探訪2021年7月 コマドリのさえずり

バードウォッチングの初心者にとって、森に棲む小鳥の姿をじっくり観察するのは簡単ではありません。森の中を散策したとき、きれいな声でさえずる小鳥やにぎやかに鳴き交わす小鳥の群れに出会ったけれど、見えたのは遠くの枝先から飛び去る黒い点や、茂みの隙間で見え隠れする影だけだったという経験はありませんか?そこで、私がおすすめする森でのバードウォッチングの第一歩は鳴き声を覚えることです。身近な野鳥の鳴き声を紹介するウェブサイトもたくさんありますから、パソコンやスマートフォンさえあれば手軽に学習することができます。鳴き声を覚えておけば、声だけで種類がわかってその鳥が好む環境が予測できるので姿が発見しやすくなりますし、結局は発見できなかったとしても姿をイメージして楽しむことができます。そして、いつもの森に思ったより多様な野鳥が生息していることに気づくでしょう。

日本の森には鳴き声のきれいな鳥がいろいろ生息していますが、ウグイス、オオルリとともに日本三鳴鳥とされているのがコマドリです。ですからコマドリがどんな鳥かは知らなくても、名前だけは聞いたことのある人も多いかもしれません。体の大きさはスズメと同じくらいですが、「ピュリリリリィー」という澄んださえずりは小さな体に似合わずとてもよく響きます。ただ、コマドリが主に繁殖するのは本州なら標高1500m以上、山地帯上部から亜高山帯の涼しい森です。近所の公園などでコマドリに出会う機会は少ないでしょう。また、本来の生息地だった山地の森でも近年になってコマドリは数を減らしつつあります。日本の各地でニホンジカの増加が問題になっていますが、コマドリは茂みの多い森林を好むので、ニホンジカの採食行動によって下層植生が衰退するとコマドリも減少してしまうのです。バードウォッチングを始めた人が三鳴鳥の中では最後に出会う鳥、それがコマドリです。

しかし、都会でもそんなコマドリの鳴き声を身近に聞くことのできる場所があります。鳴いているのは何故か鉄道の駅の階段です。実は、よく響くコマドリの声は駅で階段の場所を知らせる警告音のモデルとして広く使われているのです。警告音のモデルにされている鳥の種類は鉄道会社や路線により異なりますが、私の生活する西日本地域では「コマドリ音」が流れている駅が少なくありません。おそらく駅の三鳴鳥の一つに数えられるのではないでしょうか。COVID-19の流行で遠出がはばかられる昨今、私も駅の階段でひそかにコマドリの森を懐かしんでいます。今度、駅の階段をご通行の際は、コマドリが鳴いていないか、ちょっと注意してみてはいかがでしょうか?

 


(関西支所 関 伸一)

写真1:コマドリの雄
写真1:コマドリの雄

写真2:鳴いているコマドリ
写真2:鳴いているコマドリ

写真3:コマドリが生息地する森林
写真3:コマドリが生息地する森林

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