今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2022年3月 竹筒を使った種まき
更新日:2022年3月11日
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子供の頃から慣れ親しんだアニメ映画「となりのトトロ」・・・花壇にドングリをたくさん埋めると、後日、たくさんの芽生えが出てきました。嬉しいですね。ドングリの木をたくさん芽生えさせるため、ドングリをたくさん土に埋めることには意味があります。
ドングリは昆虫にとって魅力的な食べ物です。木に生(な)ったドングリは、地面に落ちる前、一部はゾウムシなどの昆虫に卵を産みつけられます。そして卵からふ化した幼虫に中味を食べられると、芽生えの能力を失ってしまうことがあります。そこで、ドングリをたくさん拾い集めて地面にまくことで、こうした昆虫害を受けていないドングリも多くなり、芽生える確率も増える、というわけです(写真1)。
また、ドングリは地面にまいただけでは、乾燥によって芽生える能力が失われてしまいます。しかし自然の中でもドングリは地面に落ちています。どうやって芽生えるのでしょう。ドングリは、野ネズミやリス、鳥、クマ、イノシシなどにとっても重要な食べ物です。地面のドングリの多くがこれらの動物の食べ物になり、とくにアカネズミやヒメネズミといった森林性の野ネズミに、最も多く食べられます。野ネズミはドングリをその場で食べるだけでなく、後で食べられるよう、離れた落ち葉の下、土の中、巣穴の中、といった湿った場所に埋めて隠します。私たちで言えば冷蔵庫ですね。しかしときに、隠した野ネズミが忘れたのか、あるいは死んでしまったのか、ドングリが食べられないまま残ることがあります。こうして生き残ったドングリが、春に土の中から芽生える事ができます。
このようにドングリから木へと育つには、「たくさん」のドングリが「埋まる」ことがポイントです。そこで試しに、研究所の畑に30個、埋めてみました。しばらくして行ってみたら、埋めたところに穴がたくさん(写真2)。。。土の中のドングリは、畑のそばに住む野ネズミに掘りおこされ、全て持ち去られていました。森で起きていることが再現されたわけですが、拾ったドングリの数が限られているとき、野ネズミに全部とられると悲しいですね(写真3)。
日本には、節を抜いた竹筒を地面に挿して、その中にドングリを埋めると、森林性の野ネズミにとられることなく、ドングリの木が育つという伝承があります。試しに同じ畑で同じ数を埋めたドングリに、竹筒を被せてみました。すると、竹筒を被せたドングリはとられずに筒の中で芽生えて、ニョキニョキと葉を覗かせました。手軽に竹筒とドングリだけでドングリの木を育てることが出来ました(写真4)。こうした竹筒を使った種まきですが、森林管理署や県の林業試験場で過去に数度、山の中で試みられ、成功と失敗の両方の事例があります。なぜうまくいったのか、なぜうまくいかなかったのか、今後の研究が求められます。
(森林植生研究領域 星野 大介)
写真1 拾ったドングリ
数日、流水に漬けると中の幼虫が死んで、昆虫害を抑えることができます。
写真2 野ネズミによる持ち去り被害の痕跡
写真3 種子を主食とする森林性の野ネズミ(ヒメネズミ)
尻尾が長いのが特徴です。
写真4 竹筒から芽生えたコナラ実生
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