今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2022年5月 樹木に残された土砂災害の痕跡
更新日:2022年5月2日
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土石流などの土砂災害の被害を防止・軽減するためには、そのメカニズムを解明することが重要です。しかし、土石流は古くは「幻の災害」「幻の土石流」と言われ、その発生や流下の実際の様子を知ることはとても難しいものでした。近年は技術の発展により、実際に土石流が流下している様子が撮影されることもありますが、特に土石流の発生源頭部のように山地の奥深くの実際の様子を観測することは未だ困難です。
土石流などの土砂災害が発生したときに、専門家は発生・流下メカニズムなどを解明するために現地調査を行います。土砂が流下する様子を実際に見ることはできませんが、災害跡地にはメカニズムを知るための重要な情報が残されているからです。その中でも樹木に残された痕跡についてお話ししたいと思います。
樹木が土石流に取り込まれて長距離を流れ下ると、流木は流下中に砂礫との強い摩擦力に晒され、枝が落ち、樹皮が剥がされていきます(写真1)。それに対し、土石流の発生域において崩壊土砂に立木が巻き込まれても、比較的近距離で停止する場合もあります。そのような場合は樹皮は残っています(写真2)。このように流木の状態や堆積(停止)場所から、土砂災害の状況を推定することができます。また、土石流は渓岸の土砂を侵食しながら流下しますが、立木にその痕跡が残されている場合があります。写真3はある土石流災害後の渓岸の様子です。立木の根元付近の表皮が剥がれていることがわかります。つまり、土石流の最大高さの位置が概ねそのあたりであると言え、土石流の規模が推定できます。一方、別の災害である写真4の立木は土砂移動中も流れに取り込まれることはなく、立木の状態を保っています。堆積土砂に埋まっていますが、その部分の樹皮は剥がれていません。これは、土石流のような激しい土砂移動ではなく、土砂が長時間をかけて徐々に堆積していったような土砂移動現象であったことがわかります(土砂が層状に堆積していることもその証拠です)。
私たちはこのように災害跡地に残された痕跡から土砂災害の状況を推定しています。このような知見と数値シミュレーションなどの新たな技術を組み合わせて、土砂災害を防止・軽減するための研究を進めていきます。
(森林防災研究領域 鈴木 拓郎)
写真1 枝が落ち、樹皮が剥がれた流木
写真2 土砂とともに堆積した樹皮が残る流木
写真3 土石流発生後の渓岸の様子
写真4 土砂流出後の渓岸の様子
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