今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2022年7月 ワシミミズクを囮(おとり)にしてタカを捕る
更新日:2022年7月1日
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猛禽類は食物連鎖の頂点に位置するアンブレラ種で、広大な生息地を必要とし、本種の保全は下位の種もあわせた生態系の保全につながります。移動速度が速く行動範囲の広い猛禽類の行動を理解するにはどのようにすれば良いでしょうか。多くの動物で採用されている方法ですが、発信器を付けて追跡する方法を猛禽類にも適用できないかと考えました。そのためには、捕獲法を確立しなければなりません。北海道のオオタカを調査対象として捕獲法の確立を試みました。
まず初めはオオタカの巣の周りにウズラを数羽、地面に刺した杭にひもで固定して、オオタカを餌付けできるか3日間試みました。野外に放置されたウズラは警戒して、ほとんど動かず、オオタカがウズラを捕ることはなく、死亡した個体もいませんでした。そこで、方針を転換し、オオタカの巣をおそう天敵であるフクロウの剥製を巣から10mほど離れたところに置いてみました。オオタカは警戒声を出してフクロウの剥製に接近してきましたが、1―2分で警戒をやめてしまいました。やはり生きている囮でなければ警戒をすぐやめてしまうのかもしれないと考えて、生きたアメリカワシミミズクとベンガルワシミミズク(以下ワシミミズクと表記)を囮に使うことにしました。
効果は抜群でした。オオタカは警戒声を出して何度もワシミミズクに急降下で威嚇しました。しかし、ワシミミズクが怪我を負うような攻撃を受けたことは一度もありませんでした。オオタカを誘引する効果が高かったので、ワシミミズクのそばに3×3mのかすみ網を1枚張って様子を見ることにしました(写真1)。かすみ網はオオタカが高速で突っ込んでもけがをしないように衝撃が加わると2本の固定用のポールから外れるような仕掛けになっています。ところが、かすみ網に飛び込み、網にかかりそうになったオオタカは、水泳選手がターンするときのように、地面方向に頭を向けて旋回し体をひねって180度ターンして、落下中のかすみ網から逃げてしまうのです。そこで、かすみ網の上段の両端に20gのおもりを2個付けることにしました。するとかすみ網の落ちる速度が上がり、ようやくオオタカを捕獲することができました(写真2)。
発信器を装着して(写真3)行動を追跡するとオオタカの行動はこれまで想定していた空中高いところから狩りをするのではなく、高い木の上から勢いを付けて急降下し、その後地上高1m以下の高さで地面を這うように飛んで獲物を狩る姿が見られました。森林の中を猛スピードで飛んで狩りをする姿も見られましたし、藪の中を歩いて地上営巣する小鳥の巣を探している様子も見ることができました。
この罠はオオタカだけでなく、ハイタカやチュウヒにも利用できます。今後、こうした猛禽類の行動を理解するために役立つことでしょうし、発信器だけでなくカメラを装着することで餌と餌を狩る頻度を調べることができるでしょう。
(東北支所生物多様性研究グループ 工藤 琢磨)
写真1:ベンガルワシミミズクと罠
(かすみ網は見えないです)
写真2:捕獲されたオオタカの雌
写真3:発信器が装着されたオオタカ
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