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更新日:2022年8月1日

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自然探訪2022年8月 バカマツタケ

マツタケは、日本のほか朝鮮半島、中国、ロシア、北欧及び北米など北半球に広く分布し、アカマツのほか、ツガ、エゾマツ、トドマツ、シラビソなどのマツ科の針葉樹に共生するきのこです。一方、近縁種のバカマツタケはコナラ、カシワ、マテバシイなどのブナ科の広葉樹に生えます。マツタケにそっくりの子実体注) を形成しますが、黄色みがかっており、香りはより強いのが特徴です。味・食感はマツタケと大差ありません。「(生える木を間違えた)馬鹿なマツタケ」というのが和名の語源ですが、青森の方言だそうです。そのほか、「ならまつたけ」、「ぞうきまつたけ」、「にたり」などの名前で昔から知られていました。しかし、学術誌に新種として記載されたのは意外に遅く、1974年のことでした。バカマツタケは松茸として販売されることもあります。

マツタケの近縁種は、他にニセマツタケ(広葉樹に生える、香りはマツタケに似る)があります。また、マツタケモドキ(マツ林に生える、香りは薄い)は一見マツタケに似ていますが、マツタケとは遠縁のきのこです。それ以外の近縁種には、オウシュウマツタケ、地中海沿岸に分布するTricholoma anatolicum、北米のアメリカマツタケ、中米のTricholoma mesoamericanum、北欧〜北米のTricholoma dulciolensなどがあります。このうち、アメリカマツタケ、T. mesoamericanumなどは日本に輸入され、マツタケとして売られています。さらに、中国南西部からミャンマーにかけての森林から未知のマツタケ近縁種が広葉樹に生えることが報告されています。これらのマツタケ近縁種の類縁関係は、遺伝子を調べることで、いろいろなことがわかってきました。祖先の種から広葉樹に生える種と針葉樹に生える種が分化し、それぞれが分布を広げた所でさらに別の種に分化したようです。

マツタケとその近縁種は、瓶栽培などの人工的な栽培が困難でしたが、2018年に民間化学会社が培地を使ったバカマツタケ栽培に成功したと発表しました。奈良県ではバカマツタケの林地での栽培技術の開発に取り組んでいます。

一方、マツタケの増産方法としては、マツ林を管理し、マツタケが生息しやすい環境にすることも試みられています。林床の柴かきは欠かすことのできない施行です。日本のアカマツ林は、林内環境・下層植生が変化し、さらにマツ材線虫病の被害のため衰退してしまいました。その結果、マツタケの適地は急速に減り、市場に出荷される量は昭和初期の0.1%以下になりました。そして、マツタケの主産地は京都、広島などの西日本から、岩手、長野などの比較的冷涼な地域に移ってきています。

注)子実体:「きのこ」とも呼ばれる器官で、胞子を形成して子孫を増やします。植物の「花」に相当します。

※ 今月の自然探訪は「2011年9月 バカマツタケ」の改訂版になります。

【参考資料】
本郷 次雄 日本産きのこの研究 (21) 植物研究雑誌49巻 第10号 294–305頁

 

(研究専門員 村田 仁)

写真1:バカマツタケ
写真1:バカマツタケ
2010年8月30日北海道茅部郡森町字駒ケ岳のミズナラ・カシワ林内にて

写真2:バカマツタケの販売
写真2:バカマツタケの販売
2010年8月29日北海道茅部郡森町にて(マツタケとして売られている)

写真3:本物のマツタケ
写真3:本物のマツタケ
2010年10月29日長野県佐久市入澤のアカマツ林にて(2010年は大豊作だった)

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