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更新日:2023年10月2日

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自然探訪2023年10月 秋のススキ草原

秋になりました。秋というと、紅葉したカエデやイチョウに加え、黄金色にたなびくススキ草原を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか(写真1)。

日本で見られるススキ草原の多くは、早春におこなわれる伝統的な火入れ(野焼きや山焼きともよばれる)や採草(草刈り)といった人による利用や管理によって維持されています。このような場所を「半自然草原」といい、人による介入がなければ樹木が定着し森林が成立します。ススキ草原は日本全国に存在しており、そこには地域の固有種をふくむ多様な動植物が生息しています。

深秋のススキ草原は黄金色一色ですが、2ヵ月ほど早く訪れると秋の七草として知られるヤマハギ(マメ科)、オミナエシ(スイカズラ科)、キキョウ(キキョウ科)をはじめ色とりどりの秋咲きの花が見られるでしょう(写真2)。冬を越し、火入れが終わったあとの春には、黒く焼けた地面にミツバツチグリ(バラ科)が黄色い花をつけ、緑が一斉に芽吹きます(写真3)。

このようなススキ草原は何のために維持されてきたのでしょうか。かつて草原の野草は、牛馬の飼葉や屋根のカヤ葺き、田畑の堆肥などに広く使われていました。そのために広大な草原が必要で、明治期には国土の約14%を占めていたと考えられています。近代化以降はこれらの需要が急速に低下し、長らく草原であった場所の多くは住宅地、農地、植林地などに変わり、草原は国土の1%未満にまで減少しました。近年まで管理が続けられてきたススキ草原でも、土地所有者の高齢化や人手不足により管理放棄が進み、希少な動植物の絶滅が危惧されています。

現在に残るススキ草原の多くは、景観維持や生物多様性の保全を目的に管理が継続され、地域の景勝地として親しまれています。

哀愁を誘う秋の空とススキの穂。かつてここに広がっていた人々の暮らしと動植物の営みに思いを馳せ、これからの草原のあり方を考えてみませんか。

(生物多様性・気候変動研究拠点 小山 明日香)

 

写真1 秋のススキ草原
写真1 秋のススキ草原

写真2 初秋の草原に咲く様々な植物
写真2 初秋の草原に咲く植物
(上段の左から右へ:マルバハギ、オミナエシ、キキョウ、
下段の左から右へ:シラヤマギク、マツムシソウ、オケラ)

写真3 春の火入れ後に咲くミツバツチグリ
写真3 春、火入れ後に花を咲かせるミツバツチグリ

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