今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2023年11月 嵐山『竹の小径』の竹垣
更新日:2023年11月1日
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京都市街の西に観光地でも有名な嵐山というところがあります。ここには、渡月橋や天龍寺などがあり、御存知の方もおられるかと思われます。これらと並んで知られているのが竹林の小径(写真1・2)です。野宮神社から天龍寺の北側を抜け、大河内山荘まで続く400mの細い道の両側には竹林と竹垣が並んでいます。ここを歩くと心地よい風や静寂の中に聞こえてくる竹の葉のさやめく音で心が洗われるような気分になります。並んでいる竹垣は下から向こうが見えないように作られています。ただ、写真をよく見ると、見えている竹だけで垣が自立しているわけではなさそうです。これはどうなっているのでしょうか。
竹林の小径にある竹垣には、竹穂垣(写真1)や建仁寺垣(写真2)や、大津垣(縦方向の割竹を編んでいる竹垣)などがあります。これらは遮蔽垣であり、いずれも木の丸太などを支柱とし、横方向の部材、次に縦方向の割竹や竹の枝を取り付けて、さらに横方向の割竹を取り付けて、最後にシュロ縄で固定して設置するそうです(専門用語はありますが一般的な用語を使用しています)。ちなみに竹垣にはさまざまな種類があり、境界を示すような簡易なものであれば竹自体を支柱として使っているものもあります。
筆者は以前、モウソウチクを割って作った割竹で暴露(ばくろ)試験を行ったことがあります(写真3)。これは、杭(くい)として地面に刺して並べておいて、どのくらいの期間でどのように腐って朽ちていくか調べる試験です。この試験の結果、土と接触する中でも地面の際で特に腐れが早く、ほどなく土と触れる部分全体で同様に腐れが進みました。その結果、内側から腐っていきますが外側は比較的残っています(写真4)。この理由は、竹の組織は外側ほど密で、また、腐れを起こす菌類が苦手とする物質が外側に集まっているので、腐朽菌は柔らかくて苦手な物質の少ない内側の方が腐れさせるには都合がいいと考えられています。割竹だけでなく割られていない丸竹でも最終的には腐ります。なぜなら、割れてない時は腐りにくいのですが、丸竹は外で長期間使用するとどうしても割れてきて、割れ目から当然雨水も入れば菌も入るので腐りやすいと考えられるからです。土に触れていなくても地面に近ければ地面の水分の影響を受けやすいので腐りやすい環境にあると言えます。写真2を見ると、建仁寺垣の下の方が黒ずんでいますが、これは菌の一種であるカビによるものです。
垣をくくり付けていた柱が腐朽すると強度が弱くなり、重さに耐えられなくなります。竹の場合、支える組織がもともと薄い分、木の丸太より早く交換する必要が出てくることが考えられます。したがって、重い竹垣を支えるのには竹稈(ちくかん)があまり使われない、使われても割りにくく(割れにくくもある)太いものが使われるのは、竹材をよりうまく使うための昔の人の知恵なのかもしれません。
(林業工学研究領域 山口 智)
写真1:竹林の小径と竹穂垣
写真2:竹林の小径と建仁寺垣
写真3:割竹の暴露試験の様子
写真4:腐朽した試験体
左側5本は割竹の内側を削らなかったグループ。
右側5本は割竹の内側を削ったグループ。
それぞれのグループで左から右に順に、設置1年後掘り出し~5年後掘り出し。
中段の列の試験体で色が変わっているのが地際だった跡です。
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