今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2023年7月 夏のスギ林でリフレッシュしませんか?

更新日:2023年7月3日

ここから本文です。

自然探訪2023年7月 夏のスギ林でリフレッシュしませんか?

皆さんは杉(スギ)花粉症になっていませんか?スギは日本でよく見かける木で、最も広く植林されており、天然林も屋久島から東北地方にかけて点在しています。2月から4月にかけてスギはたくさんの花粉を風に乗せて広範囲に散布します。その結果、多くの人がスギ花粉症というアレルギー症状を起こし、鼻づまりやくしゃみ、目や喉のかゆみ、アレルギー性鼻炎の症状が現れます。

さて、皆さんは夏のスギ林は好きですか?この時期、林の中はスギの木の良い香りが広がっています。加えてスギの高い木々がたくさん生えているので、林の中は涼しくなります。中に入って木々を見上げると、樹冠に葉があり、日光が遮られているのがわかります(写真1)。この涼しい影は夏の暑さを和らげ、森林浴や散策にぴったりの環境を提供してくれます。スギ林の地面は暗いため、他の植物があまり生えませんが、道路に近い場所など光が入る場所ではドクダミやシダ植物などが生えていることがあります(写真2)。一方、若いスギの木には上から下まで枝が広がっていて、そこにはたくさんの葉があります(写真3)。しかし、木が大きくなり、林の中に光があまり届かない場所ができると、そういった場所の枝はやがて枯れ落ちてしまいます。すると広い空間が林の中にできます。もちろん、枯れ落ちる枝をあらかじめ切り落としている林もありますが、林の中を散策する場合には、落枝やスズメバチなどの危険生物に注意が必要です。注意する点はありますが、スギ林に入ることで、心身をリラックスさせたり、ストレスを軽減させる効果を感じたりすることができます。このように夏のスギ林は自然の中でリフレッシュしたり、美しい景色を楽しんだりするのに適した場所です。

スギの雄花は、開花前年の夏の7月から8月に作られ始めます。10月下旬ごろになると、雄花は花粉を飛散させる時期の雄花とほぼ同じ大きさになります(写真4)。ただし、10月上旬までは雄花の葯の中には花粉はなく、花粉のもととなる花粉母細胞という細胞だけがあります。これまでの研究では、その時期の細胞ではスギ花粉症のアレルゲンタンパク質遺伝子はほとんど働いていません。特にスギ花粉症の主要アレルゲンであるCry j 1とCry j 2の遺伝子はこの時期にはほとんど発現していません。そのため、多くのスギ花粉症患者にとっても夏のスギ林は快適な場所と言えるでしょう。そのような環境の中で楽しく散策しながら、私たち一人ひとりが得意な分野でスギ花粉症の対策を考えるのも楽しいですよね。

(樹木分子遺伝研究領域 伊ケ﨑 知弘)

 

写真1:夏のスギ林の中から見上げた空
写真1:夏のスギ林の中から見上げた空
(2023年6月 撮影)

写真2:スギ林内の地面に生えるドクダミやシダ植物
写真2:スギ林内の地面に生えるドクダミやシダ植物
(2023年6月 撮影)

写真3:新緑の美しい若い樹齢のスギの木立
写真3:新緑の美しい若い樹齢のスギの木立
(2023年6月 撮影)

写真4:夏の間に形成が進むスギの雄花
写真4:夏の間に形成が進むスギの雄花
(2016年10月 撮影)

 自然探訪 前の月へ自然探訪 次の月へ

過去の自然探訪掲載一覧はこちら

お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

Email:QandA@ffpri.affrc.go.jp