今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2023年8月 クリのトゲとドングリ
更新日:2023年8月1日
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クリと聞けば、手に刺さるとかなり痛い無数のトゲを思い浮かべるのではないでしょうか。さて、このトゲはどのようにしてできるのでしょうか。その答えは花をよく観察すればわかります。例えば、つくば市では5月下旬から6月上旬にクリの花が咲きます。雄花は何本もある黄色い穂にたくさん着いた粒状のもので、雌花は穂のつけねに着いたひげを持つ粒状のものです(写真1)。この雌花をルーペで拡大して見てみると、瓦(かわら)を重ねたようになっている部分があることが分かります。これが、葉が変化してできたトゲのもとになるイガ(毬)と呼ばれるものです。イガは花の段階では短くて柔らかいのですが、果実(ドングリ)の成長とともに長く硬くなります(写真2)。そして、成熟が進むとイガは果実全体を覆(おお)い、色も緑から茶色に変化します。
クリはブナ科の一種ですが、ブナ科のその他の樹種ではイガの部分は殻斗(カクト)と呼ばれます。この殻斗には、コナラのように大きなウロコ状になるものと、シラカシのようにリング状になるものがあります。
ブナ科の樹種では、雌花のめしべが花粉を受け取る受粉様式やドングリが成熟するまでの時間が異なるなど、繁殖様式に多様性が見られます。例えば花粉は、ブナやコナラでは風によって、クリやマテバシイでは独特の匂(にお)いで誘われた虫によって運ばれます。またドングリの成熟は、クリでは開花した年に終わりますが、マテバシイでは翌年に持ち越されます(写真3、4)。ブナ科の樹種では、ドングリの生産量が年によって大きく変動する豊凶(ほうきょう)現象を示すものがあります。豊凶と樹体内の炭素・窒素・リンの貯蔵量との関係を調べた最近の研究では、豊凶を左右する元素が種によって異なることが分かってきています。
(植物生態研究領域 韓 慶民)
写真1:クリの花序(かじょ)と雌花
(5月29日 森林総合研究所 構内)
写真2:未成熟なクリの果実
(7月16日 森林総合研究所 構内)
写真3:マテバシイの花序と未成熟の果実(5月9日 森林総合研究所 構内)
花序の下方にある小さな果実は一年前に咲いた雌花から発達したもの。
写真4:成熟したマテバシイの果実(10月5日 森林総合研究所 構内)
1年以上かけて成熟した果実の上方には、受粉後約5ケ月経過した未成熟の果実がある。
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