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更新日:2024年1月4日

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自然探訪2024年1月 樹木は枯れてからも、もう一仕事

樹木が枯れた、枯死したという言葉を聞くと、もう完全に役割を終えてしまったような印象を受けるかもしれません。しかし、そんなことはありません。枯れ木として第二の人生(?)が始まります。枯死した樹木にはそれを利用する様々な生物が集まり、枯れ木はそれら生物活動の場となります。この生物の中に分解者と呼ばれ、枯れ木を分解する生物がいます。日本の森林ではその大部分は木材腐朽菌類によるものが多く、枯れ木が生じるとすぐに分解が始まります。その結果として、コケを纏い、稚樹やキノコの生えた倒木や根株の姿はよく見かける光景です(写真1)。それでは、「白骨林」という単語を聞いたことはありますか?写真2は、2014年に噴火した九州南部の新燃岳の火口付近にある森林の2020年の様子です。噴火の影響で枯死した樹木が立ち枯れの状態でたくさん残っています。まさに「枯れ木も山の賑わい」を彷彿させる圧巻の光景です。この森林の環境は一般的な場合とは大きく異なります。写真からもわかるように、火山灰が広く堆積して地表を覆ってしまい、もともとの表層土壌は深く埋没してしまいました。また、周辺の樹木は大部分が枯れてしまって林冠が消失し、地表には下層植生もリターと呼ばれる堆積有機物層もありません。この環境では分解の進行は一般的な森林よりも遅くなります。林床に倒れた枯れ木を見ると(写真3)、写真1とは全く異なり、材は乾燥気味で、元々の材の色が灰色の部分と茶色の部分に変わっています。一見、生物がそこに生息する余地はなさそうです。しかし、やはりここでも分解者が活動しています。灰色の部分は太陽光に曝されることで主に紫外線の影響で材が淡色化した後に、黒色のカビ等が入り込むことで全体として灰色化した部分になります。茶色い部分は、リグニンが多く残った状態です。枯れ木の材に亀裂が生じ、少しずつ水分が材内部にも入り込むようになると、その環境に適した分解者である褐色腐朽菌類が枯れ木を分解し、最後に難分解性で茶色のリグニンが残ります。このような枯れ木は分解速度が非常に遅くなるため、炭素貯留の場として長く役割を果たすことになります。

さて、「枯れ木も山の賑わい」という言葉は「つまらないものでもないよりある方がまし」という意味ですが、最近は「人が集まればにぎやかになる」との本来の意味からの誤用が増えていると言われています。先に引用した書き方は、まさに誤用そのものです。というのも、枯れ木を研究対象にしている身からすると、枯れ木はつまらないものだと言われるよりも、大事な役割があるのだと存在意義を強調してもらう方が嬉しい身内びいきですので、あしからず。

 

(九州支所 酒井 佳美)

 

写真1:キノコが生えた倒木
写真1:森林の林床で見かける倒木の様子

写真2:白骨林化した立枯木群
写真2:2020年の新燃岳火口に近い白骨林化した立枯木群

写真3:倒木の分解
写真3:白骨林での枯れ木の分解の様子

 

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