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更新日:2025年7月4日

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自然探訪2025年7月 ほととぎす 鳴きつる方を

初夏から盛夏の森林に良く響くホトトギスの声は、昔から人々に親しまれていました。ホトトギスの声は夏の訪れを感じさせるものとして古くから詩歌に読まれています。

 ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる

小倉百人一首にある後徳大寺左大臣のこの和歌は、明け方にホトトギスの声を聞いて、その方向を見たけれども、鳥の姿は見えなかったというもので、季節感にあふれるものです。

後徳大寺左大臣は藤原実定(ふじわらのさねただ)のことで、平安時代後期の歌人です。また、それよりも古い時代の歌集である万葉集では、ホトトギスの和歌は150首以上も詠まれていますが、これは万葉集に出てくる動物の中でもっとも多いものです。

ホトトギスはカッコウ科に属す全長28cm程度の鳥で、翼と尾が長く、スリムな姿をしています(写真1)。頭部と背中は灰色、翼と尾羽は黒褐色で、胸と腹は白色に黒い横縞があります。日本では北海道から九州までの森林に夏鳥としてみられ、5月中旬ごろに南方から渡来します。早朝から日中によく鳴き、夜間にも鳴くこともあります。鋭い短音が5音か6音連続するキョッキョッキョキョキョキョという声(注1)を「天辺かけたか」や「特許許可局」などと聞きなしますが、「ホトトトギス」と聞くこともでき、これが名前の由来となっていると考えられます。漢字では、杜鵑、不如帰、子規、郭公など、多くの表記がありますが、5月半ばに渡ってきて、田植えの時期を告げるということで「時鳥」と書かれることや、「卯月鳥」(うづきどり;旧暦4月に鳴くことから)の別名もあります。

私たちが森林性の鳥類調査をする際にも、ホトトギスの声はよく聞くけれど、樹木の茂った枝葉の中で姿を見かけることがそれほど多くないので、冒頭の和歌もこれをよく表しています。

ホトトギスはカッコウと同じく、他の種類の小鳥の巣の中に卵を産みこんで、育てさせる「托卵」という習性をもっており、ホトトギスはおもにウグイスの巣に卵を産みます(写真2)。ウグイスの巣の中で卵からかえったひなは巣の主であるウグイスの卵を背中で押し出して巣の外に捨てて、ウグイスの親鳥から与えられる餌を独占して成長します(写真3)。ホトトギスは自ら子育てをせずに、産卵にエネルギーを集中して投資するため、一夏に10個から15個も卵を産むと推定されています。秋になるとホトトギスは南方へ渡り、東南アジアなどで越冬します。

なお、小倉百人一首にはこれ以外に鳥を詠んだ歌が4首あり、ヤマドリ、カササギ、チドリ、鳥(ニワトリ)が出てきますが、これらは鳥そのものを見たり聞いたりして作られた和歌ではなく、鳥に関わる知見、伝説、故事などからの創作のようです。また、万葉集では30種あまりの鳥が詠まれ、ホトトギスと同様に季節を感じさせる題材として扱われているものもあります。万葉や平安の時代の人々が直接的・間接的に鳥を見知って和歌に詠んでいたことが伺われます。

(広報普及科 佐藤重穂)

(写真:東條一史)

 (注1)バードリサーチ 鳴き声図鑑

https://www.bird-research.jp/1_shiryo/nakigoe.html(外部サイトへ)

「鳴き声検索」でホトトギスの鳴き声を聞くことが出来ます。

ホトトギスの成鳥。標識調査のために捕獲されて足輪を付ける作業をしているところ。
写真1:標識調査で捕獲されたホトトギス成鳥

 

ウグイスの巣に托卵されたホトトギスのひな。ウグイスの卵が孵化する前にホトトギスが先に孵化して、ウグイスの卵を巣の外
写真2:ウグイスの巣に托卵されて孵化したホトトギスのひな

 

ウグイスの巣の中で成長して巣立ち間際となったホトトギスのひな

写真3:巣立ち前のホトトギスのひな    

                     

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