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更新日:2025年8月1日

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自然探訪2025年8月 茨城県内の高齢サワラ人工林

 サワラはヒノキ科の針葉樹で主に中部地方に天然分布しています。江戸時代には有名な木曽ヒノキとともに、木曽五木(ヒノキ、サワラ、アスナロ、クロベ、コウヤマキ)の一つとして保護されてきた樹種でもあります。ヒノキに似ていることで知られているサワラですが、人工林の面積はヒノキに比べてほんのわずかで、サワラの人工林の蓄積はヒノキの3%に過ぎません。

 茨城県に位置する森林総合研究所は、関東森林管理局森林技術・支援センターと共同で、茨城県内の高齢人工林(植栽後100年以上の人工林)の調査を行ってきました。スギ、ヒノキの調査地が多いなか、サワラ人工林が3個所あります。今回は、これら3個所で生えているサワラの状態をそれぞれご紹介します。

 

「水戸市」

県内で最も古い人工林の一つと言われているサワラ人工林は、水戸市笠原町の不動山にあります。地名に山が付いていますが、ここは水戸市内の平坦な場所にあり、逆川緑地という水源を守るために植えられたものです。林齢は270年以上、直径150cmを越えるような大木が見られます(写真1)。残念ながら最近この林内の試験地では直径1mを越えるような大木を中心に、サワラの約70%が枯れてしまいました。地際付近の材を腐らせる菌類による根株腐朽が起こったことで強度が低下し、結果的に風で折れたり倒れたりしてしまったと考えられる樹木も見られました(写真2)。

 

「常陸大宮市」

 常陸大宮市の尺丈山のサワラ人工林が植えられたのは1912年、今年で113年になります。この林では過去に間伐が行われた記録がありません。それ故、サワラの密度が高く、平均直径は約30cm(2021年測定)と細いせいで、多くの立ち枯れ木が見られます。そして溝腐れと呼ばれる症状を示す木が多く存在します(写真3)。この症状は約50%のサワラに確認され、しかも根元に近い一番太い部分に被害が見られるので、林業経営上からも損失は大きなものとなります。これはさび病菌などの菌類によって幹が変形していると考えられ、各地のサワラ人工林で見られます。同じくらいの林齢、密度のヒノキ人工林でも溝腐れ被害は起きていますが、被害率が10%を越える林はほとんどありません。

 

「石岡市」

 石岡市青柳のサワラ林は今年で123年生になります。平均直径は49cm (2021年測定)と尺丈山よりかなり太く成長しています。この林では間伐等の手入れを行っており、林内は明るく広葉樹も多く生えています(写真3)。この林では病気のサワラは5%程度に過ぎませんでした。

 

サワラは材が柔らかく、建築材として利用されないことに加え、病気の発生が多いことも敬遠される理由の一つかもしれません。上記の茨城県の事例から、あまり長期間育てないこと、間伐等の手入れをすることで病気のリスクを低下することができるかもしれません。

 最後になりますが、サワラはヒノキに比べて馴染みがないと思っていらっしゃる方も多いと思います。ですが、茨城県内のあるヒノキ人工林を調べたところ、ヒノキとされている木の約1割がサワラだったという例もありました。サワラは意外に皆さんの身近に生えているかもしれませんよ。

 

(森林植生研究領域 太田 敬之)

 

水戸市不動山にはサワラ人工林があります。現在の林齢は約270年と推定されます。幹の平均直径は約70cm。 

写真1:不動山のサワラ林(2011年撮影)

水戸市不動山では、地際付近の材が腐って強度が低下し、幹の折れたサワラの大木が多数見られました。

写真2:風倒したサワラ根株腐朽木

常陸大宮市の尺丈山のサワラでは、さび病菌などの菌類による幹の変形が多く見られました。

写真3:尺丈山では幹が変形したサワラが多く見られます。

石岡市の間伐等の手入れを行ってきたサワラ林では、県内の他のサワラ林よりも病気の発生が少なく健全でした。

写真4:石岡市のサワラ林。間伐をして林内は明るく、広葉樹も多く見られます。

 

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