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更新日:2026年4月1日

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自然探訪2026年3月 鳥の渡りはどうやって研究するの?

私は幼少期に愛知県で見た圧巻のタカの渡りを今でも忘れません。一日数千羽のタカが空を覆い尽くして、西へ飛んでいくのです。どうやら、彼らは東南アジアまで渡って行って、来年また戻ってくるというのです。当時私は、その壮大さに感動しつつも、一方で不思議で仕方ありませんでした。なぜ東南アジアまで迷わず渡れるのだろう?そもそもなぜそんなに長距離を渡るのだろう?渡りの神秘に魅入られ、私は気づいたら小鳥の渡りを研究する鳥学者になっていました。夢を実現した、と言えば、聞こえはいいかもしれませんが、私が鳥の渡り研究に抱く第一印象は「しんどい」です。本稿では、手のひらサイズの小鳥(写真1)の渡りを研究する方法を簡単に紹介したいと思います。

なぜ・どのように渡るのか?を解き明かすには、東南アジアまでの旅路である「渡りルート」を調べる必要があります。一番オーソドックスな方法は「鳥に機械をつけて渡りを追跡」することです。これが困難だらけなのです。まず、特別な許可と技術の元、小鳥を捕獲しなければなりません。捕獲は日の出前、時には午前2時からヘッドライトを付けながら準備し、捕まるまで粘り続ける。ようやく捕まったら、全神経を研ぎ澄ませて機械を装着します。手のひらサイズの小鳥に正確・安全に機械を装着することの、精神的な負担は想像するに難くないでしょう。

さらに大変なのはここからです。「追跡する」と聞くと、機械からGPSデータが発信されるのかな?と思った方も多いと思います。しかし、私が研究する10〜30グラムの小鳥に安全に装着できるのは、1gにも満たない機械しかありません。このサイズにデータを発信する魅力的な機能を搭載する余裕はないので、データは機械に蓄積するしかありません(写真2、ジオロケーター(注1))。そう、データを回収するには、翌年日本に帰ってきた個体を再発見するのみならず、再び捕獲しなければならないのです。鳥たちも二度も同じ手で捕まってくれないので、捕獲の難易度も爆上がりです。特に森林での調査は、小鳥たちは私たちから見えないところ、手の届かないところを移動しているので、いろんな工夫をして捕獲できるまで努力するほかないのです(写真3)。要領の悪かった1年目は睡眠時間を削って捕獲に勤しんだので、私の体重は10kg減りました。もちろん、機械を付けた個体が無事に戻り、再捕獲できた時の嬉しさは格別ですが、データが取れたことの「安堵」が大きいです。実は得られるデータはジオロケーターによる光や気圧のデータで、そこから移動ルートを特定する(注2)のもまた至難の業なのですが、その話はまた別の機会に。

こんな過酷な渡り研究ですが、開始してすでに9年近くが経過しました。最初はこんな研究すぐに辞めようと思っていたのに、調査が終わり、渡りルートを解析していると、幼少期の頃のワクワク感がまた戻ってきます。気づけば、生活の一部となっていました。まだまだ鳥の渡りは分からないことだらけですが、その魅力が多くの人たちに伝わるような研究を続けていきたいと思います。

(野生動物研究領域 青木大輔)

 

注1)ジオロケーター:組み込まれた光センサーによって日の出・日の入りの時刻を記録する装置で、回収して緯度・経度のデータを推定する。

注2)明らかになってきた渡りルートの例(森林総研プレスリリース、2025.8.4)

https://www.ffpri.go.jp/press/2025/20250804/index.html

 

 

 

追跡装置であるジオロケーターを装着したセンダイムシクイを筆者の手の上で保定している様子 

写真1. 渡りの追跡装置であるジオロケーター(赤丸)を乗せたセンダイムシクイ

 

センダイムシクイの背面中央部に追跡装置ジオロケーターが装着された様子

写真2. ジオロケーター(赤丸)を装着したセンダイムシクイ

機械をつけた個体が無事飛ぶのを見てホッとする。

センダイムシクイが繁殖する森林総合研究所の北海道支所の深い森林の様子

写真3. 広い森の中で、ジオロケーターを付けた個体がどこを移動するか?を把握できなければ一向に再捕獲できない

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