今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2022年9月 タマキクラゲ
更新日:2022年9月1日
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先月に引き続き、きのこの話題です。「きのこ」といっても、一般的に多くの方が想像されるような、傘があり、柄があるようなきのこ(先月に紹介された「バカマツタケ」のようなきのこ)ではなく、傘や柄がなく、枝等に貼り付くようにして形成されるタマキクラゲというきのこです(写真1)。前者のきのことは異なり、ゼラチン質で柔らかい触感をもち、丸々としています。タマキクラゲと中華料理によく使われる一般的に言うところのキクラゲは比較的近縁関係にあり、現在のところ、どちらもキクラゲ科に分類されています。
タマキクラゲは日本と韓国に分布し、その発生は春から秋とされています。本研究所があるつくば市周辺では2月頃からみられ、早春から発生するきのこです。ブナ科樹木のなかでも、特にナラ類の落枝や枯枝上で、樹皮を裂くようにして発生します(写真2)。ナラ類が生育している公園でも普通に見られ、実際に見かけたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
タマキクラゲの観察には、季節だけでなくタイミングも重要です。きのこが発生してからしばらくの間は、丸々としたきのこを観察できますが、降雨が少なく、乾燥すると黒褐色の膜状にしぼんでしまいます(写真3)。しかし、降雨等により吸水できる機会があれば、また丸々とした姿に戻るという性質を持っています。そのため、観察には降雨後がベストです。
タマキクラゲを含むキクラゲの仲間では有毒成分に関する報告はなく、タマキクラゲも可食と考えられますが、残念ながらおいしいという話はあまり聞きませんし、人工栽培もされていないようです。そのため、食資源としての利用は不明ですが、これから秋のきのこシーズンでは、タマキクラゲのような見た目が変わったきのこを探し、目で見て楽しんでみてはいかがでしょうか。季節は異なりますが、展葉前の早春の林では見つけやすく、生物の気配が少ない時期に春の訪れをいち早く感じることができるきのこでもあります。森林や公園散策の際には、時には林床部に目を向けてみてはいかがでしょう。
(きのこ・森林微生物研究領域 鳥居 正人)
写真1 タマキクラゲ
写真2 タマキクラゲと枝の間には、発生する際に裂かれ、めくれた樹皮が観察される
写真3 乾燥して黒褐色の膜状になったタマキクラゲ
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