今月の自然探訪 > 過去の自然探訪 掲載一覧 > 自然探訪2025年9月 ヤナギ -これまでとこれからの利用-
更新日:2025年9月1日
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我が国には、主に川沿いにヤナギが30種生育してます。ヤナギと聞いて一般の方が抱くイメージは、銀座の街路樹などで植栽されている「シダレヤナギ」になると思います (写真1左)。シダレヤナギは中国原産の種ですが、奈良時代にはすでに渡来したと言われており、万葉集の歌に詠まれ、浮世絵や花札にも描かれてきていることから、日本の文化に深く関わっている樹木です。
また、ヤナギは我々の生活に深く結びつき、利用されてきた樹木でもあります。ヤナギは、衣類を始めとする荷物を収納する「柳行李(やなぎごうり)」として利用されていました。柳行李の歴史は古く、特に兵庫県豊岡市の柳細工は1200年以上の歴史があり(注1)、奈良時代に作られた物が東大寺の正倉院に残されています。また、大日本帝国陸軍の行李にも利用されていました。柳行李として利用されてきたヤナギは「コリヤナギ」であり、朝鮮半島原産の種ですが、柳行李の製作のために各地で栽培されていたため、野生化しています(写真1右)。また、ヤナギの意外な用途としては、炭が利用されています。ヤナギの炭は柔らかくて濃い特徴があり、木炭デッサンに適しているとされています。これらのように、ヤナギは古くから我々の生活や文化に結びついてきました。
近年では、ヤナギは別の用途で栽培されるようになりました。ヤナギの栽培はスウェーデンで1980年代から開始され、主にバイオマスエネルギー (木質燃料) として利用されています。ヤナギがバイオマス燃料として利用されてきた理由として、高い萌芽再生能力を持つことが挙げられます。ヤナギの樹は、一度伐採すると、その切り株から“ひこばえ” (萌芽) が伸びて再び枝が成長することから、繰り返し幹を収穫することができます。また、ヤナギは枝を地面に挿しただけで発根して成長することから、挿し木が容易であることも特徴の一つです。これらの比較的再生しやすいという特徴から、現在ではヤナギが欧米各国で栽培されています。
日本においても、2000年頃からヤナギの植栽試験が始まりました。ヤナギの研究は特に気候が冷涼な北海道で進んでおり、当所の研究では、北海道においては「エゾノキヌヤナギ」と「オノエヤナギ」の栽培が推奨されています (注2)。しかしながら、前述のようにヤナギは全国に30種も分布していることから、当所は、温暖な関東地方でも栽培できるヤナギを探すために、7種類のヤナギで植栽試験を行いました。その結果、「オノエヤナギ」と「タチヤナギ」が堆肥を添加することで特に高い成長を示すことがわかりました (写真2, 注3)。
現在、当所では、NEDO (国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構) のプロジェクトで、ヤナギの栽培を事業化しようとする取り組みも行われています。その中で、ヤナギの栽培を全国に展開すべく、九州地方でも植栽試験を開始しました。九州地方はヤナギの天然分布が少ないですが、その中で主要な樹種は「オオタチヤナギ」になります (写真3)。これからもバイオマス利用を可能とするためのヤナギの研究を推進して参ります。
(植物生態研究領域 香山 雅純)
(注1) 城下町出石に残る伝統工芸【杞柳細工(柳行李)】
https://toyooka-tourism.com/recommend/tradition/kiryu/ (外部サイトへ)
(注2) 北海道におけるエネルギー作物「ヤナギ」の生産の可能性
https://www.ffpri.go.jp/hkd/research/documents/yanaginokanousei.pdf
(注3) 有望なバイオマス資源ヤナギ、豚ぷん堆肥で急成長
https://www.ffpri.go.jp/research/saizensen/2023/20230706.html
写真1:東京都 江戸川沿いに生育するシダレヤナギ(左)とコリヤナギ(右)
(2014年9月撮影)
写真2:千葉県 大多喜町の試験地に植栽したオノエヤナギ(左)とタチヤナギ(右)
(2024年4月植栽、2025年5月撮影)
写真3:宮崎県 一ツ瀬川沿いに生育するオオタチヤナギ
(2021年6月撮影)
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